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李家剣夢譚  作者: 守田
孤高の剣士編
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第7話 李家の夢

目が覚めると寝台の上にいた。


起き上がってみれば、林掌門と華先生が難しそうな表情で話し合っていた。


「目が覚めたか。」

「もう大丈夫だぞ。」


「だが、辛いことを言わなければならない。」


言葉に詰まった華先生に代わり、林掌門が話し出す。


「隠してもすぐに分かることだから、はっきり言おう。」


「大理の戦いで、李鏢頭は右手の親指を失った。」

「利き腕だから、もう剣を握ることは出来ない。」


右手を見てみれば、布が巻き付けられている。


「そんな馬鹿な、そこまでの痛みは戦場で感じなかったし、今も感じない。」


林掌門は俺の肩にそっと手を置き、話しを続ける。


「戦場で痛みを感じなかったのは、強く興奮した状態だったからだろう。」

「今は、華先生が痛みを感じないよう処置している。」


そんな麻酔のようなこと、この時代にできるはずがない。


…しかし、神医と呼ばれる華先生なら或いは可能なのか。


「本来なら右腕を斬り落とすところだった。」

「李鏢頭を守った女子たち、そして林掌門の力があったから、親指だけで済んだのだぞ。」


華先生は、俺を慰めようと言ってくれたのだろう。

でも、剣を握れないのなら、鏢局でも南斗司でも廃人同然だ。


それより何より、趙景はもうこの世にいない。



それからというもの、朝から晩まで酒におぼれる日々を送った。


竹琴たちは、そんな俺でも見放さず、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。


「初めに命を救ってくれたその時から、趙景が深く愛してくれていると本当は分かっていた。」

「戦場にいたあの時、彼女の言葉に耳を傾けておくべきだった。」


俺は、そんなことばかりつぶやいては酒をあおる。


それでも、竹琴たちは何も言わず世話をする。

何か言ったところで、俺に言葉が届くことはない。

彼女たちは、それを分かっていたのだろう。


そんな時、墨教主と薛雷が立て続けにやってきた。

会いたくないと拒否していたが、話しをするまで帰らないと言う。


仕方ないから、少しだけ会うことにした。


「一体、何をしているんだ。」


「仇は討たない、再起は図らない。」

「俺は、そんな男に趙景を譲ったのか?」


相変わらず、薛雷は真っすぐな男だ。


「まさしく、それを心配してやってきた。」


「仇討ちは何も生まない。」

「それは俺が身をもって経験したことだ。」


「しかし、いつどんな状況からだって再起は図れるはずだ。」

「諦めてはいけない。」


次は墨教主だ。


二人とも、俺の気持ちも知らず好き放題言っている。


「仇を討つことも、再起を果たすことも出来るはずがないだろう。」

「この手を見てみろ、もう剣を握れない体だぞ!」


憤る俺の姿を見て、墨教主が再び口を開く。


「お前の気持ちは分からない。」


「だが、同じように俺の気持ちも分からないだろう。」

「俺の過去に何があったか、知らないだろう。」


彼は子供の頃に置かれた環境を話してくれた。


この時に初めて知ったが、墨教主は俺と同じ日本人。

過去の時代にタイムスリップして帰れなくなり、子供の頃は物乞い同然の生活を送った。


百毒邪教を会得して世間から蔑まれてきたことは知っていたが、その扱いも俺の想像をはるかに上回っていた。


タイムスリップの話しをしたから、薛雷は終始疑いの眼差しを向けていたが、俺にとっては他人事ではない。


「どうにもならないなら、酒におぼれても、自害して果てても良い。」


「しかし、出来ることを全てやったのか?」

「死力を尽くしたのか?」


俺は返す言葉が見つからず、うつむくことしかできなかった。


しばらくして顔を上げると、絞り出すように言葉を発した。


「二人の言いたいことは分かった。」

「ともかく、今日は帰ってくれ。」


それからというもの、酒を絶った。


酒は絶ったが、李家十剣と陳家十拳の奥義書をぼんやりと眺める、そんなことしかできない日々が続いた。

竹琴たちは心配そうに見ていたが、俺にはこれしか出来ることがなかったのだ。


「いつも奥義書広げてるから、私も李家十剣を修練してみたんです。」


「でも、どうしても若様のようにはいかなくて、教えて頂けませんか?」


横から話しかけてきたのは菊笛だ。


そこへ、血相を変えた竹琴がやってくる。


「それは李家の奥義なのよ、どうして勝手に見るの?」

「しかも教えを乞うなんて、あなたどうかしてるわよ!」


今日も叱られて、菊笛はしょんぼりと部屋へ戻っていく。


「菊笛、気にしなくて大丈夫だよ。」


「書いてある通りに修練したつもりでも、正しく解釈出来ていないと身に付かない。」

「奥義ともなれば、そう言うものなんだ。」


「ただ、俺も独自の解釈だから、父上と同じとは言えないんだけどね。」


その時、自分で言いながら解釈の重要性に気が付いた。

つまり、見方を変えれば新しい解釈が生まれると言うわけだ。



その後、左腕一本で剣を振り奥義を会得するまで、大した時間はかからなかった。


ついでに陳家十拳も会得し、江湖でも達人の域と言える内功を得ることが出来た。


「李家十剣!」


第一の剣である突きの動作をすると、踏み込んだ床は大きくへこみ、剣先からは発頚が放たれる。

その発頚は、両手を広げても抱えられないような大きな香炉に風穴を開けた。


「こんなことが…すごい威力です。」


「若様、おめでとうございます!」


竹琴、蘭歌が声を揃えて祝福する。

菊笛など、自分のお陰だと胸を張っている。


この時、俺は次の行動を考えていた。


以前に趙景から、虎門鏢局も再建して、これからどうするのかと聞かれた。

その時、人のためになることがしたいと答えた。


そう、それが俺の夢なのだ。

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