第3話 海賊討伐(中)
「やむを得ん。李殿、許されよ。」
「百毒邪教!」
百仙功で、虚とも実ともとれる李先生の攻撃をかわすと、毒掌を放った。
墨教主は内力を全開にしている。
胸に掌を受けるや否や、彼の体は紫色に染まっていく。
「失礼しました。」
「これは百仙丸です。」
「解毒できますから、すぐに飲んでください。」
墨教主は急いで薬を差し出すが、李先生はその手を払い、情けは受けないと言う。
そんなことを言っている場合ではないと諭すが、幾度もやり取りする猶予はなく、彼は絶命した。
林掌門の方はと言えば、陳和と対峙していた。
俺と墨教主の戦いが終わっても、彼らの戦いは続いていたのだ。
互いに剣は鞘に収め、徒手で渡り合っている。
「陳家の内功に引けを取らないとは、林家も聞きしに勝る内功だな。」
感心している陳和、対する林掌門、どちらも本気は出していない。
「しかし、王家に伝わる奥義を見たら、涼しい顔も出来まい。」
「冥土の土産に教えてやるが、十手だ。」
「十手以内に林掌門は敗北する。」
陳和の内功が高まっていく。
それを見た林掌門は、次第に表情をこわばらせていく。
「では、私も易筋経をお見せしよう。」
すると、林掌門の右腕に巻き付くような風が巻き起こる。
ついに本気を出したか。
「陳家十拳!」
掛け声と共に、陳和が飛び出した。
「なっ、速い!」
俺と墨教主が同時に声を上げる。
奥義と言いながら、技の型はないようで、ただ右腕から突きを放った。
しかし、先ほどまでとは別人のような速度だったのだ。
林掌門はさらりとかわすが、表情からは驚きが見て取れる。
続いて陳和は、左の蹴りを放った。
先ほどよりも速く重い。
「くっ!」
これも林掌門はかわすが、このままでは、確かに十手全てを避けきれるとは思えない。
相手の懐に入った陳和は、右ひじを回し入れるように林掌門へ攻撃する。
だが、この攻撃さえもかわした。
恐らく、林掌門も内功全開だろう。
「ふんっ!」
林掌門は気合を入れると、流れるように繰り出された後ろ回し蹴りを左手で受け止め、右の突きを陳和へお見舞いした。
「ぐはっ!」
彼は吐血し崩れ落ちる。
「す、すごい…」
俺は圧倒されてしまい、これ以上言葉にならなかった。
何と言っても、これほど速く重い攻撃を受けた上に、一撃で倒したのだ。
しかし、十手全てを受けようとしたなら、やはりどうなっていたか分からない。
林掌門は、まるでそれを知っていたかのように右腕に内力を集め、一撃で倒したのだろう。
「まさか、この俺が負けるとは。」
「こうなったからには…」
「少し、俺の話しを聞いてくれないか。」
陳和は、息を整えながら懇願した。
墨教主は疑いの眼差しを向けていたが、林掌門が頷いたため、俺も剣を鞘に収める。
「俺は斉国の末裔だ。」
「ずっと長い間、復興を願っていた。」
「仕方なく海賊を生業に選んだが、その甲斐あって銀子も十分に手に入れた。」
「そろそろ、挙兵の準備に入るところだったのだ。」
「それを、お前たちがやってきて台無しにした。」
「しかも、武術指南と跡継ぎの王子四人を殺された。」
「残った王子は、皮肉なことに何をやっても凡庸な男なのだ。」
彼の瞳からは、一筋の涙が流れ落ちた。
「宋は民を苦しめているが、私なら多くの民を救えるはず。」
「頼むから、手を貸してくれないか。」
諦めの悪い奴だ、敵わないと見るや否や泣き落としか。
悲しそうな表情を浮かべ、林掌門が口を開く。
「あなたと同じように、斉国を再興しようとする者がいました。」
「桜家荘の田家です。」
「我々が阻止し、田覇起は梅家荘の地下牢に軟禁しています。」
「あなたも同じだ。」
「一体いつの時代の話しをしているのですか。」
「民を救いたいなら、過去に縛られず前を向くべきです。」
「それは、国の形がなくとも出来るのではないですか?」




