第2話 海賊討伐(上)
「狐山派掌門の林と申します。」
「しかし、海賊に礼儀を説かれるとは驚きました。」
白髪交じりの男は、少し驚いた表情を見せて答える。
「ほう、江湖で高い名声を得ている、あの林大侠だったか。」
「俺は陳和。」
「訳あって海賊に身を落としているが、いずれこの一帯の王となる者である。」
「ここにいる者は、武術指南の李先生と、息子たち王子の五人だ。」
何を言っているのだ?
狂気じみているな。
「哀れな人たちのようですが、民に危害を加える者は誰であろうとも成敗させて頂きます。」
林掌門の言葉に、彼は首を横に振る。
「それだけの武芸がありながら、大義を理解できないとは残念なことだ。」
陳和の言葉が合図となり、全員が同時に動き出す。
王子たちは、剣を抜き四人がかりで俺に襲いかかかる。
最も年若く見える王子は、恐れをなしたのか物陰に隠れてしまった。
人数は多いが、戦わずとも陳和や李先生は化け物じみた武芸と分かるから、むしろこの状況は有り難い。
剣を鞘にしまったまま攻撃を受け、まずは相手の実力を見る。
海賊だから無骨な技だろうと思っていたが、そうでもない。
驚いたことに正統派の剣法、身を落としたというのは本当の話しのようだ。
「陳家剣陣!」
俺に敵わないと悟ったのか、陣形を組んで態勢を整える。
「李鏢頭、気を付けろ。」
「陰陽五行の論理を理解した、攻守に優れた陣形だぞ。」
戦いながら、林掌門が注意を促す。
剣の奥義を極めた今ならば、彼の言葉は十分に理解できた。
「これは驚いた。」
「やめるなら今のうちだぞ。」
「巧妙な陣だからこそ、こちらも手加減が出来ない。」
この陣は、彼らが五人でかかってきたなら良い勝負になるかもしれない。
しかし、一人欠けているから完成していないのだ。
そんな俺の言葉も、彼らは見下されたと感じ取ったようで、逆上させてしまった。
「仕方がないな。」
「李家十剣!」
剣を抜くなり、まず一人に突きを放つ。
風が吹き抜けたようにしか感じなかっただろう。
そのまま流れるように剣を横に払い、二人目、三人目を斬る。
最後は、第三の剣で三人目を斬り上げた。
「剣筋が見えなかった。」
「何てことだ、兄さんたちが…」
隠れていた王子がつぶやいた。
彼が言う通り、俺の獲物は宝剣「水月」。
李家十剣の速さにも対応できないだろうが、ひとたびこの剣を振れば、相手は気付かないうちに斬られてしまうのだ。
一方、墨教主の相手は李先生だった。
こちらは徒手の戦いだ。
双方、実力を認め合っているようで、墨教主はいきなり必殺の一撃を繰り出した。
「鷹爪擒拿法!」
百仙功でシュルシュルと音を立てながら、李先生の懐に飛び込む。
そして、関節技で瞬時に彼の右腕をからめとり、投げ飛ばすと同時に肩の骨を折った。
「ぐっ!」
李先生は苦しそうにうめき声を上げたが、すぐに右肩の骨を接ぐ。
どうやら、技を受ける前に関節を外していたようだ。
「くそっ、何て奴だ。」
墨教主が慌てる様子など、山賊時代に見て以来のことだ。
「長引くと不利になりそうだ。」
「こちらも全力でいかせてもらうぞ。」
「陰陽遊神法!」
李先生の内功も達人の域だ。
しかし、それだけではなく、類まれな体術も見せた。
右から突きを放ったかと思えば見せかけで、左の突きが実の手。
これを墨教主がかわせば、すり抜けざまに回し蹴りを放つ。
防御すれば、今度は下段の蹴りが飛んでくる。
…かと思えば、瞬時に上段に軌道が変わる。
これこそ、虚と実が入り混じった奥義と言えよう。
最後はかわし切れず、まともに受けてしまった。
「ぐはっ!」
墨教主は、吐血しながらも飛び退く。
ここで李先生はさらに内力をめぐらせる。
そして、今度こそ終わらせるとばかりに追撃する。




