第1話 英雄集結
鏢局の仕事をがむしゃらにこなした。
そして、塩の経路を使った闇取引は莫大な財産をもたらした。
その甲斐あって、虎門鏢局は名実共に最大の鏢局として君臨することとなった。
これで、本物の李海に代わり、鏢局を大きく繁栄させることが出来ただろう。
おまけに、江湖では李大侠と呼ばれているのだ。
充実感を覚えていたそんな時、見知った商人がやってきた。
「沈澄殿か、今日はどういったご用件で?」
尋ねると、売りたいものがあると言う。
「剣を二本お持ちしました。」
「これは是非とも李鏢頭にと、売らずに持っていた宝剣です。」
一本は深紅の刃、手に取ればわずかに温かい。
もう一本は、薄い水色の透き通るような刃。
手に取って振ってみれば、まるで実体がないかの如き透明感のある刃だ。
「赤色の方は紅蓮、その名の通り、斬った相手は熱傷を負うでしょう。」
「水色の方は水月、ひとたび振れば、相手は剣筋も見えず斬られることでしょう。」
迷うはずはなかった。
銀子にも糸目は付けない。
言い値で買うと、紅蓮は趙景へ贈り、水月は俺が持つことにした。
趙景も沈澄も、この上なく喜んだことは言うまでもないだろう。
良いことは続くもので、林掌門から男同士の旅に誘われた。
温かい南の地へと言うことになり、江南道へ。
さらに江南道でも南の果てに向かい、海へ向かうというプランだ。
「李鏢頭、久し振りだな!」
林掌門の屋敷へ行くと、彼は嬉しそうに声を掛けてくれた。
その林掌門の隣には…
「墨教主!どうしてここに?」
実はこの二人、見知った間柄だった。
俺がそれぞれと親交があると分かって、三人で旅に出掛けようということになったそうだ。
嬉しいサプライズに胸を躍らせながら、俺たちは江南道へ向かった。
道中で林掌門が言うには、50歳を迎え、江湖から引退を考えているらしい。
「俺は江湖に疎いですが、林掌門に武芸で勝る者を知りません。」
「まだ早いのではないですか?」
それを聞いた墨教主が口を挟む。
「まあそうだが、桜梅小侠がいるから、いつでも悠々自適な隠居生活が出来るというわけだ。」
桜梅小侠とは、林掌門の息子と、狐山派の梅拳という女子の息子、二人のことだ。
五悪鬼の筆頭、簫飛敵を倒したことで、桜梅小侠と呼ばれるようになった。
江南道に着くと、大きな町でもそれほど華やかさを感じない。そんな印象を受けた。
その代わりと言ってはいけないが、温暖な気候や海の恵みから、様々な野菜や見たこともない肉、海鮮が出迎えてくれた。
江南道は、今で言えば広東省。
食は広州にあり、とはよく言ったものだ。
宿で食事をとっていると、おもむろに林掌門が店主へ話しかける。
この地が気に入ったようで、べた褒めしている。
「それはどうも、有り難うございます。」
「ただ、ひとつ問題がありましてね、この辺りは以前から海賊が出ます。」
「略奪は当たり前、漁に出るのも命がけなんです。」
そんな話しを聞いたのでは…
と林掌門を見れば、その瞳に闘志が燃え上がっているではないか。
墨教主も、放ってはおけない、などと言い出した。
仕方ない、俺もやるか。
そんな訳で、店主に聞いた場所へ行くと怪しい船を見つけた。
「あれが海賊船だな。」
「停泊しているとは、ちょうど良い。」
俺にとっては別にちょうど良くもないのだが、林掌門はやる気満々だ。
海賊と言うから倭寇かと思っていたが、見てみればどうやら宋の人間。
思い返してみれば、倭寇が南方に現れるなど聞いたことがない。
「しかも、今は乗組員が少ないようだ。」
「この機会を逃す手はない。」
「首領を倒して、片をつけてしまおう。」
墨教主と俺が頷くと、そのまま海賊船に乗り込んだ。
そして、林掌門が先頭に立ち、まるで準備運動のように軽々と乗組員を倒していく。
倒すと言っても、相手を吹き飛ばすように前進しているのだから、やはりすごい人だ。
「突然乗り込んで大暴れとは礼儀知らずな、いったい何者だ?」
目の前には、白髪交じりで江湖の英雄と言うより帝王の風格を持つ男が立っていた。
その男の周りには、同じくらいの歳の男が一人と、俺と同世代か若いくらいの男が五人控えている。




