第3話 招致
鏢局大会開催のため、有力な鏢局を5つ選んだ。
そして、まずは仙谷鏢局から出向いて説明することにした。
鏢頭の劉凱は反乱軍に手を貸した罪で役所へ出頭したが、既に再起を果たしている。
前回のいざこざでは、戦いになってしまった。
俺と違い趙景は決着がついていないから、連れて行かない方が良いだろう。
薛雷は争いを招きそうだから、彼も駄目だ。
「竹琴たち四人は、俺に同行してくれ。」
「趙景と薛雷は留守を頼む。」
趙景は察したようで何も言わない。
薛雷も無言のままだ。
どうも彼は、鏢局の仕事はしないと決めているようだ。
「劉鏢頭、先日は失礼しました。」
俺の挨拶に彼は笑顔で対応する。
「いやいや、こちらこそ未熟な腕でお恥ずかしい限りだ。」
「これからは、同業者として手を取り合ってやっていこう。」
武芸の優劣がこれほど影響するとは。
以前とは、まるで別人のようだ。
ただ、劉飛飛は納得できていない様子で、こちらを睨んでいる。
「おっしゃる通りです、助け合っていきましょう。」
「実は、近いうちにいくつかの鏢局を招いて、鏢局大会をやろうと考えています。」
「大会の目的は、盟主を決めること。」
「そして、問題が生じれば、盟主を中心に一体感をもってあたるのです。」
俺の提案に難しい表情を浮かべると、彼はゆっくりと話し出した。
「分かった。」
「反対と言うことはないが、我々の評判は地に落ちている。」
「信頼を取り戻すために力を尽くしているが、そんな鏢局が皆の上に立てるとは思えない。」
彼の言葉から、これまでの苦労がうかがい知れる。
「念のため誤解なきようお伝えしますが、盟主と主従関係を結ぶわけではありません。」
「各鏢局が皆で困難にあたれるように、リーダーを決めたいということです。」
まだ納得していない様子だったが、参加には同意してもらえた。
次に向かった先は、無双鏢局だ。
他の鏢局と比べて武芸に秀でた者たちが集まっている。
その反面、横暴な一面があり、たまに女子供に暴力を働くのだ。
これまで荷を奪われたことがないという点では優秀と言えるが、民の支持は少ない。
「これは宋鏢頭、ご無沙汰しております。」
ガラの悪い連中に睨まれながら、鏢頭の宋牛に挨拶した。
名前の通りと言ったら失礼だが、彼は牛のように大きな体をしている。
俺が説明する鏢局大会の話しを聞ききながら、竹琴たちをなめ回すように見ている。
あの天然の菊笛ですら、血の気が引いたような表情でうつむく。
そして、彼は嬉しそうに答えた。
「おう、良いだろう。」
「ちょうど腕がなまっていたところだ。」
「盟主の座は俺が頂こう。」
人気投票もあるのだが、全く気にしていない様子。
俺は正確に伝えた。
後で聞いていないと言うのは、無しにして欲しいものだ。
次に向かった先も、ガラが悪いと言う意味では似ている。
蛇頭鏢局と言って、鏢頭は韋栄興が務める。
謎に包まれている部分が多く、彼らをよく知る者は少ない。
ただ、噂に聞くところでは裏稼業に通じており、どんな汚れ仕事でもこなすと聞く。
「これは李鏢頭、こんなむさくるしいところにお越しとは珍しいな。」
俺が挨拶すると、これが韋栄興の第一声だった。
そう、ちょっと嫌味な奴なのだ。
鏢局大会の説明をすると、表情ひとつ変えずに答えた。
「せっかくだが、興味ないな。」
「我々は不参加とさせて頂く、それが用件ならお帰り頂いて結構だ。」
面倒な奴だな、どうしたものか。
考えながら韋栄興を見てみれば、腰には以前と違う得物があった。
確認は必要ないだろう、あれは間違いなく宝剣だ。
「武芸勝負だけでも、参加する価値があると思いますよ。」
「実はこの度、李家が持つ真の奥義を会得しました。」
「これはまだ、誰にも披露していません。」
それは詳しく知りたいと、彼は思った以上に食いついてきた。
これで、残す鏢局は一つだけだ。
最後に向かう先は、臨安鏢局だ。
この名前を使っている通り、臨安で最も歴史の長い鏢局である。
そして、他の鏢局とは全く違い、誰にでも友好的で家族のように温かい人たちだ。
「馬鏢頭、随分とご無沙汰してしまいました。」
彼は馬雲と言う男だ。
嬉しそうに俺に近寄り、がっちりと抱擁する。
「待っていたぞ、よく来たな。」
「おっと、今日はお嬢さん方も一緒か!」
「それなら少し奮発しよう。」
そう言うと、鏢師に指示し買い出しに行かせる。
彼はもう50代のおじさんだが、若い男に負けず劣らず女子に目がない。
彼女たちを連れてきたのは正解だったな。
「何しろ儲かってないからな。」
「豪華なものはないが、上手い料理と酒をご馳走するぞ。」
「そうだ、今日は泊っていきなさい。」
喜び飛び跳ねる菊笛を見て、馬雲は彼女より嬉しそうな表情を浮かべる。
準備ができるまでの間に鏢局大会の説明をすると、彼は二つ返事で了承した。
「我らは、盟主などに興味はない。」
「あえて言えば、虎門鏢局が相応しいだろう。」
「だが、ご指名とあれば、参加くらい何と言うこともない。」
ここまでそれなりに苦労したから、有り難い言葉だった。
彼にしてもらってばかりではいけないと、俺が銀子を出し妓女を呼んだ。
そして、その晩はこの上なく楽しく過ごしたのだった。
馬雲の様子を見ていると、もしかすると俺が銀子を出すのを期待していたのではないか、と邪推してしまった。
それに、趙景がここにいたなら、この光景はなかっただろうとしみじみ感じる。




