第2話 再び開封府へ
李家の奥義を会得したにも関わらず、なぜ李空との間に力量差があるのか。
その答えは開封府の屋敷にあるはず。
他に奥義書がある、俺はそう考えていた。
そうでなければ、李空は俺から取り返そうとしただろう。
そう思うと矢も楯もたまらず、仕事を皆に任せて開封府へ向かうことにした。
開封府に着くも、今やここは禁軍に制圧されている。
金華猫の能力である変化を使い、金軍の兵士に化けると旧虎門鏢局へ潜入することにした。
「良かった、壊されていなかったか。」
立ち入り禁止の張り紙こそあるものの、建物は以前のまま残っていた。
飛雲功で舞い上がり、空中を蹴り続けるように屋敷へ潜入する。
「よし、まずは武器庫を探そう。」
ここは、俺が誤って本物の李海を殺してしまった場所だ。
隅々まで探していくが、剣や槍ばかりで、これといった収穫はなかった。
「次は李空の書斎を探そう。」
部屋に入ると、随分と荒らされていた。
役人が闇取引の帳簿を探したからだろう。
と言うことは、見えるところには何もないはずだ。
「壁に仕掛けがあるかもしれないな。」
南斗司の任務を通して色々と経験を積んできたから、からくりの知識も持っている。
念入りに調べたが、どこにも怪しいところはない。
「誰か来るとまずい、そろそろ引き上げ時だな。」
最後に、家具や置物などを調べていく。
高価な壺がそのまま置いてある。
意地汚い役人が持ち去らないとは、不思議なこともあるものだ。
もしかすると、岳飛将軍が指揮していて、彼が清廉潔白な人間だからかもしれないな。
「ん?この壺だけ安物だな。」
高価な壺が並ぶ中、どういう訳か一つだけ安物が置かれていたのだ。
「南斗司の李海様をなめてもらっては困るな。」
一見すると何の変哲もないが、これには違和感がある。
中を調べると、すぐに違和感の正体が分かった。
「底の位置が少し高い。からくりだな。」
壺の中に、中板のようなものが巧みに敷かれていたのだ。
取り外してみれば、そこには紐が隠れていた。
迷わず紐を引くと、ガラガラと音を立てて壁が左右に開く。
そしてそこには、隠し部屋があった。
「これか、ようやく見つけたぞ。」
俺の目に飛び込んだのは、金銀財宝や貴重な書物だった。
金銀財宝には目もくれず、武芸書を探す。
「李家剣…か。」
書を手に取り読んでみると、不整合な記述はなく、でたらめな書物ではない。
「やはり、李家の奥義は他にあった。」
「真の奥義は剣法だったか。」
目的は果たした、長居は無用とばかりに隠し部屋を出る。
ついでに皆へのお土産にと、珍しい宝石や指輪をいくつかつかみ取っていく。
そのまま開封府を出ると、廃寺で奥義を修練することにした。
一通り基本の型を身に付けると、最後に奥義となる李家十剣という技が記されていた。
突きから始まり、風の如く払い、斬り上げるなど、名前の通り十の型がある。
「見たこともない型、これこそ奥義だ。」
「剣を振るうごとに速度と威力が増していく…」
「こんな技、この世に二つとないだろう。」
逆に言えば、十の型で倒せなければ敗北を意味する。
しかし、この奥義は内力の恩恵が大きい。
内力が強いほど、速度も威力もさらに増すというわけだ。
それからというもの、廃寺に住み込み、剣法と内力の修練を続けた。
「随分と待たせて、すまなかったな。」
臨安府に戻ると、まずは皆に頭を下げ、挨拶より先に謝った。
手紙でやりとりはしていたが、虎門鏢局も南斗司の仕事も任せきりだったからだ。
「若様、李家の隠された奥義を会得されたとのこと、お祝い申し上げます。」
竹琴たちが恭しく礼をする。
趙景、薛雷も喜んでくれた。
これで、いつでも鏢局大会を開催できる。
気が付けば、臨安府に来てから数年の歳月が流れ、俺は30歳を過ぎていた。




