第3話 新たな家業
銀子も使い李空を探したが、やはり簡単には見つからなかった。
並行して塩の経路も守ろうと力を尽くしているが、なかなか商売を再開できない。
役人への賄賂があって成立していたし、李空もいないのだから、やはり簡単ではなかった。
使えなければ宝の持ち腐れだ。
「若様、いかに銀子を使おうとも、鏢頭を見つけることは簡単ではないでしょう。」
「虎門鏢局が壊滅した今、別の方法で塩の経路を使う必要があります。」
頷きながら、元竹の話しを聞く。
「そこで、一案があります。」
「私は、皇帝に寵愛されている李師師と懇意にしています。」
「彼女は寛容な人間ですし、危険な仕事を請け負う者を探していますので、こちらから申し出れば協力してくれるでしょう。」
嫌悪感を抱いたが、彼も好きでこんな提案をしている訳ではないだろう。
「分かった、どうせ他に方法はないんだ。」
「危険な仕事とは、具体的にどんなことだ?」
俺の質問に、ホッとした様子を見せながら答える。
「もちろん仕事を受けたことはありませんが、以前に聞いた話しでは、用心棒や諜報です。」
「はっきりは言いませんでしたが、殺人もあるでしょう。」
裏稼業か。
宮廷というところは、随分と物騒なところなんだな。
「殺し以外なら、何でもやろうじゃやないか。」
そう言うと、竹琴、菊笛に視線を合わせる。
当然、彼女たちが頼みの綱だ。
これで話しは終わったと思ったが、元竹は再び口を開いた。
「ここから先は、別行動にしましょう。」
「鏢頭のことは私にお任せください。」
「時間はかかっても、必ずや見つけ出します。」
そう言うと、彼は懐から書物を取り出した。
「最後に、これは鏢頭からお預かりした李家の奥義書です。」
見てみれば、第三者が開封しないよう封印されている。
相当な念の入れようだが、奥義書なのだから当たり前だろう。
元竹は、李師師と我々が面会するための準備を整えると、李空を探すため出発していった。
彼と別れると、まずは奥義書を読んでみることにした。
奥義書には、剣術、刀術、内功、軽功の技が記されていた。
一つの奥義書で、これだけ幅広く記されることは珍しい。
つまり、李空は達人でありながら、器用な男だと言えよう。
奥義書を学ぶと言っても、元々は武芸の経験がなく、ようやく虎門鏢局の仕事がこなせる程度の俺にとっては、極めて難関と言える。
そこで考えた。
用心棒などの秀でた武芸が必要な仕事は、竹琴、菊笛に頼ることになるだろうから、諜報活動で俺が役に立つ、そういう役割分担にしよう。
ならば、まずは軽功を身に付けるべきだろう、と修練を始めた。
そして、初仕事の依頼は、思ったより早く届いた。
「何て魅力的なんだ…」
李師師に面会すると、つい呟いてしまった。
目鼻は細く整っており、艶めかしく美しいのだ。
さすがは、開封で名妓と呼ばれただけはある。
「あなたが李海ね。」
「辛い仕事もあるでしょうけど、これから頼みますね。」
「皇帝の寵愛を受け続けるということは、なかなか難しいのよ。」
人当たりは悪くない。
最悪は金華猫の能力で魅了するつもりだったが、必要なさそうだ。
「さて、早速仕事の依頼よ。」
「まずは護衛の仕事で、能力を把握させてもらうわ。」
そうなると、竹琴、菊笛の出番だな。
「近く、都の外で祭祀が行われる。」
「私の護衛に付きなさい。」
「もちろん、状況によっては陛下のお命も守るのです。」
祭祀であれば、禁軍が護衛につくだろうから心配はいらない。
楽な仕事だな。
そして祭祀の日、李師師は俺たちを伴って出発した。
目的地に到着すると、円形に丘が築かれており、ここで天地皇祖を祀るようだ。
それから祭祀は順調に進み、何事もなく終了した。
菊笛が小声でささやく。
「若様、何も起きませんね。」
「李師師は妾ですから、そもそも同行することが例外ですし、襲われるはずもない。」
「楽なお仕事でしたねー」
竹琴が慌てて菊笛を制する。
皇族に対する暴言とも取れる発言だからだが、周りには聞かれていなかったようで、俺も竹琴もホッとした表情に変わる。
どうも、菊笛の性格は天然が過ぎるようだ。
将来、面倒に巻き込まれなければ良いが…。