第1話 頼れる仲間
鏢局をさらに発展させるため何ができるか、悩み続ける日々を送っていた。
そんな俺を心配して、竹琴が声をかけてきた。
「若様、行き詰っておられるようですね。」
「お一人で抱え込むより、どうか一緒に考えさせてください。」
武芸では彼女たちに頼ってきたが、策は出来るだけ一人で考えてきた。
上手くいかない時、こうやって声を掛けてくれると嬉しいものだな。
悩みを打ち明けると、竹琴は真剣な表情で考え込んだ。
そして、何かを思いつくと、表情を変えず口を開いた。
「宋の鏢局を集めて、最も優れている鏢局の座を競っては如何でしょうか?」
虎門鏢局のことしか考えていなかったから、この発想はなかった。
少し離れた位置で視野を広くできる竹琴だからこそ、見えてきた景色なのだろう。
具体的な策を練ると、皆を集めて説明することにした。
「竹琴の提案で、鏢局大会を開催しようと思う。」
「まずは、最も組織的に大きな虎門鏢局が各鏢局へ参加を促す。」
一拍置いて、説明を続ける。
「大会の目的は盟主を決めること。」
「盟主を中心に協力し合うことで、虎門鏢局はもちろんのこと、全体の利益が向上するはずだ。」
「それに、いざと言う時に互いを助け合える。」
「次に盟主の決め方だが、人気投票と武芸勝負の総合評価で決めたいと思う。」
「鏢局には、信用と武芸の双方が不可欠だからだ。」
「もし異なる鏢局が各評価で一位となった場合、他の鏢局が投票する形で決める。」
複雑な表情の楊宣娘が口を開く。
「癖の強い連中が多いから、上手くいくかどうか不安だわ。」
「でも、鏢頭が決めたのなら、皆で協力して進めましょう。」
「それで初めにやることなんだけど、各鏢局に参加を促すためには、書簡ではなく出向いて説明すべきでしょうね。」
俺は頷くと、自ら赴く意思を伝えた。
とそこへ、岳飛将軍の使者と、俺と同じくらいの歳の見知らぬ男が現れた。
突然の話しだが、南斗司に1名追加するとのことだった。
目立った特徴はなく、こう言っては失礼だが、どこにでもいそうな顔だ。
細身だが筋肉質で、得物は刀を持っている。
ただ、南斗司に追加しようと言うのだから、武芸は達人の域だろう。
「薛雷だ。」
…え!?挨拶それだけ?
これには、俺も趙景も顔を見合わせて驚いた。
無口だと言うことは分かったが、不愛想すぎるだろう。
「南斗司の李海だ。」
「その…まぁなんだ。口数が少ないのは南斗司に向いている。」
「武芸にも期待してるよ。これから、よろしく頼む。」
彼は軽く頭を下げると、さっさと案内された自分の部屋へ向かった。
その間、視線は趙景に釘付けだった。
何とも失礼な男だが、それよりもまさか、彼女に惚れたか。
翌日になると、庭へ来るようにと、どういう訳か薛雷に呼び出しを受けた。
「用件は何かな?」
「厳しいルールはないが、ここのリーダーは俺だ。」
「その俺を呼びつけるとは。もう少し、礼儀はわきまえて欲しい。」
しかし、彼はまるで聞いていない様子だ。
「俺は趙姑娘が気になっている。」
「勝負して、勝った方のものにしよう。」
何を言っている。
余程気に入ったのだろうが、そんな決め方があるか。
彼は答えを待たず、襲い掛かってきた。
俺は体を横に一回転すると、薛雷へ向けて近くの机を蹴り出す。
彼は刀を抜くと、飛んできた机を一刀両断にする。
俺も刀を取り、一手、二手と薛雷の刀と合わせる。
どうやら、実力は俺と拮抗している。
「あんたたち、何やってるの!?」
五手ほど戦うと、趙景が割って入った。
「趙姑娘には関係ない。」
彼はうつむきながらそう言うと、俺の方へ視線を向ける。
「やるじゃないか、勝負はお預けだ。」
「だが、李海の実力は認めよう。」
「今後の任務は俺に任せろ。」
どうやら、悪い人間ではなさそうだ。
彼が去って行くと、趙景がつぶやいた。
「好かれるっていうのも、大変ね。」
ん!?
もしかして、さっきのやり取りを聞いていたのか?
とにもかくにも、任務は趙景と薛雷に任せることができるようになった。
鏢局大会に集中できるのは嬉しいが、盟主になるには武芸を李空の領域に到達させる必要がある。
今の実力では、勝てるという確証がないからだ。




