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李家剣夢譚  作者: 守田
修羅の道編
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第2話 鏢局の危機

塩の経路を調べることは、意外にも簡単だった。


試しに李空の右腕である元竹に聞くと、あっさり教えてくれたのだ。

ついでに、そんな大切なことを忘れるな、と小言を言われた。


そう、李海は元々知っていたのだ。

但し、知っているのはこの三人だけだった。


もちろん、三人だけでは成立しない。

手足となって動くものは事情が分からないよう、元竹によって複雑な仕組みが構築されていた。


話しによれば、西夏から開封まで、無数のルートが存在している。

備蓄する場所も、各地に散りばめられている。

とても覚えられるような量ではないため、書にまとめられ保管されているそうだ。



「薄々感づいてはいたが、やはり役人と結託していたか。」

「これでは、逆賊と言われても反論の余地はないな。」


西夏から屋敷へ戻る道すがら、俺はつぶやいていた。


念のため、取引の現場と一部の備蓄場所を調査した。

いくら多数のルートがあるとは言え、大量の塩を隠れて運搬、販売することは容易ではない。

調査の過程で、役人へ多額の賄賂をばらまいていたことが分かったのだ。


竹琴、菊笛は言葉を発さず、ただうつむいている。

それもそのはず、塩の取引で得る利益は、国を揺るがすほどのものだったからだ。

言い方を変えると、この金を私的に使えば皇帝になれるということである。



俺たちが屋敷に戻ると、またも驚かされる状況が待ち受けていた。

何と、屋敷が官軍に囲まれていたのだ。


「聞いたか、李家は闇商売に関わっていたらしいぞ。」

「証拠もあるって言うんだから、こりゃあ一族皆殺しだな。」


住民の話しを聞き、俺たちは顔を見合わせる。


「何てことだ。帳簿が見つかったのか。」


「竹琴、菊笛。危険だが屋敷に忍び込んで状況を探ってくれないか。」


二人は頷くと、軽功で軽やかに塀を飛び越えていく。



彼女たちは、数分のうちに戻ってきた。


「やはり、屋敷の中は兵士がうろついています。」

「書斎は厳重に警備されていましたので、恐らくもう帳簿は見つかっているでしょう。」


竹琴の報告に続いて、菊笛が口を開く。


「若様!銀子を回収してきました!」


満面の笑みを浮かべた彼女は、懐から大量の紙幣を取り出した。

よく見れば、衣服がパンパンに膨らんでいる。


どうしてか分からないが、菊笛は目的を履き違えていたようだ。


しかし、その行動は理にかなっている。

何しろ、家を失った俺たちにとって、銀子ほど必要なものは他にないからだ。


銀子と言っても交子と呼ばれる紙幣で、硬貨より遥かに高額で大量に持ち運ぶことができる。

貨幣の宝箱に目もくれず、紙幣を根こそぎ持ってきたのだから、称賛に値するだろう。


「よくやってくれた。」

「証拠の回収は難しいだろうから、撤収して父上を探そう。」


と二人に声を掛けたその時、


「見つけたぞ、李海だな!」

「俺は、菜園子こと張青だ。大人しくお縄につけ!」


そこには、整った顔立ちで、バランスの取れたしなやかな体つきの男が立っていた。


竹琴、菊笛は、俺をかばうように前に出る。


「若様、お逃げください!隠れ家で落ち合いましょう。」


竹琴の言葉に従い、一目散に駆け出す。


冷たいように見えるかもしれないが、俺の武芸では役人に勝てない。

それに比べて二人は達人なのだから、ここは足手まといにならないよう逃げの一手をとるべきなのだ。


「ふぅ、危なかったな。」


一息ついたのは、古びた酒屋の2階。

竹琴が隠れ家と言っていた場所だ。


李家の所有する店だが、別の者を経営者に立てているため、官軍が嗅ぎ付けることはないだろう。


「若様、ここにおられましたか。」


声を掛けてきたのは元竹だ。


「元竹さんか、無事で良かった。父上は?」


俺のために茶を注ぎながら答える。


「先ほどまで、ご一緒でした。」


「今回の件で、李家は壊滅的な打撃を受けました。」

「これから、鏢頭は旅に出られるそうです。」


「何も語られず目的は存じませんが、探さないようにと言付けられました。」


彼は、悲しそうな表情を浮かべた。


「そうか、有り難う。」


「しかし、探さないと言うわけにはいかないな。」

「それに、李家の銀子は俺たちが持ち出した。」

「銀子さえあれば、塩の経路は守れるはずだ。」


そう言って、俺はひと口茶をすする。


「若様、ご無事ですか!?」


そこへ、竹琴、菊笛が入ってきた。


「戻ったか。」


「お前たち、傷だらけじゃないか、大丈夫か!?」


達人の二人が血だらけで戻ってきたのだから、余程のことが起きたのだろう。


「張青に加え、上官の岳飛という男が助太刀に入りました。」

「あの二人、官軍には珍しくかなりの使い手で、逃げようにもしつこくて。」


高校生の俺でも知っている。

岳飛と言えば救国の英雄、二人が苦戦するのも当然のことだ。


「そうだったのか。」

「深い傷はないようだな、とにかく無事で良かった。」

「さあ、ゆっくり休んでくれ。」

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