第7話 少林寺の盗難事件(中)
内部の犯行ということか。
しかし、何だかきな臭い。
もう少し聞き込みが必要だろう。
次に向かったのは、少林寺入り口の門。
ここを任されているのは正音という僧だ。
「人の往来が激しい場所ですが、怪しい者は通しません。」
「…実は、こんなことを言いたくはないですが、正定が慌てた様子で走り去るところを見ました。」
「少林寺の弟子は誰も信じないでしょうが、残念ながら犯人は正定だと思います。」
俺たち三人は顔を見合わせながら、事態を飲み込めずにいた。
心燈大師が待つ場所まで戻ると、趙景が口を開く。
「犯人を見たと言う者がいれば、その犯人を見たと言う者が犯人と言う者がいる。」
「ややこしいことになったな。」
「意味が分からん。」
全くその通りだ。
そんなことが出来るとすれば、化ける能力を持つ俺くらいだと思うが…
「雪妹、梅拳ならこの犯行を実現できるよね?」
林掌門が雪梅夫人に話しかける。
「変装が得意な彼女なら出来るわね。」
「でも、梅拳のはずがない。」
彼女の答えを聞くと頷き、林掌門が続けて話し出す。
「もちろん、分かっているよ。」
「梅拳が梅家荘へやってきた経緯は知ってるかい?」
雪梅夫人は少し考え込むような仕草をすると、林掌門の質問に答える。
「他の姉妹と違っていて、元々武芸が出来たの。」
「確か、霊宝派から父上が引き取ったはずよ。」
霊宝派と言えば、竹琴たちの門派だな。
小さな門派と聞いていたが、これほど有能な人材ばかりを武林へ送り出すとは、一体掌門はどんな人物なのか。
「となると、犯人は霊宝派の可能性が高いか。」
「しかし、梅拳は幼い頃に引き取られているから、詳しい内部事情は分からないだろう。」
林掌門も、打つ手がないと言った様子だ。
「俺の仲間には霊宝派の弟子が四人います。」
「ひとまず、俺たちに任せてください。」
俺の申し出に、そう言うことならと林掌門も賛同した。
臨安府の鏢局に戻ると、竹琴たちに話しを聞くことにした。
「霊宝派に変装が得意な姉妹はいるか?」
俺の質問に、彼女たちは顔を見合わせる。
その様子を見るに、変装は限られた人物しか会得していないようだ。
「若様、私知ってます。」
「姉妹たちと比べて愚鈍で、霊宝派を出たのも一番遅いから…」
そう言うのは梅舞だ。
「何を言っているんだ、君は姉妹と比べても劣らないくらい強いし、花のように美しいよ。」
俺の言葉に、彼女は嬉しそうにしながらも、恥ずかしそうにうつむく。
そして、横から趙景のいぶかしげな視線を感じる。
「有り難うございます。」
「近い世代しか分かりませんが、私が知る限りでは小桃という女子だけです。」
「それから、霊宝派の者なら変装は出来なくても見破ることくらいはできます。」
恐らく当たりだ。
容疑者は小桃に絞られたな。
「よし、確認することにしよう。」
「梅舞は一緒に来てくれ。」
俺たちは、再び少林寺へと舞い戻った。
「どうだい?」
少林寺の弟子たちをじっくりと見てもらう。
梅舞が指さした先には、がっちりとした体格の僧が立っていた。
「方戒のはずがない。」
「この体格に化けられはしない。」
僧たちは驚き、皆が声を上げる。
すると、林掌門が口を開いた。
「俺は体格まで変装できる人間を知っています。」
「彼女が方戒和尚と言うのなら、間違いはないでしょう。」
「それに、俺と方戒和尚は顔見知りです。」
「それなのに、挨拶もなければ会ったこともないといった様子はどういう訳でしょうか。」
しかし、彼の言葉も空しく、方戒の前に三人の僧が立ちはだかった。
正智、正定、正音だ。
「どうしても疑うと言われるなら、我らを倒してから調べられよ。」
なぜそうなってしまうのか、少林寺の弟子は何と頑固なのだ。
しかも、彼らは互いを疑っていたではないか。




