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李家剣夢譚  作者: 守田
秘密組織編
13/49

第3話 父親殺しの容疑(上)

盛大な宴会も終わり、翌日を迎えた。


沈澄からもらった絵画は、趙景へ贈ることにした。

絶技など、俺は必要としていないからだ。


「本当に貰っていいの?」


そう言う彼女は、凛とした大人っぽい顔立ちからは想像できないほど、無邪気で可愛らしく感じた。


絵画は情花曲剣法という絶技だが、沈澄が言うには武芸者に見せても理解が難しく、会得できるとは限らないそうだ。

しかし、趙景ほど聡明ならば、いずれは物にするだろう。



それから数日後、信じ難い事件が起こった。


「鏢頭、大変です!」


「李空様が…御父上が殺害されました。」


息を切らしてやってきた元竹の言葉に、居合わせた全員に衝撃が走る。


竹琴、菊笛は、膝から崩れ落ち泣きじゃくる。


「父上が!?なぜそんなことに?」


急いで水を一気に飲むと、元竹が続けて話し出す。


「それだけではありません。」


「鏢頭に下手人の容疑がかかっています。」

「すぐに対策を考えましょう。」


彼の言うことは、寝耳に水だし全てが急な話しである。


「もっと理解できない。」

「どうして俺に容疑が?」


元竹は紙と筆を用意し、事の次第をまとめ始めた。


「先日、御父上と張掌門の屋敷で会いましたね。」


「役人の調べでは、最後に面会した人物が鏢頭だと言うのです。」


そんなこと、どうやって調べたんだ。


…そうか、使用人のおばさんがいたな。


「場所が場所なだけに、下手人探しには張掌門が指揮をとっています。」


「さらに不味いことに、江湖でも指折りの諜報能力を持つ梅家荘も動き出しています。」

「つまり、狐山派の林掌門まで、鏢頭を疑ってかかってくるということです。」


何と言うことだ。


役人だけでなく、武当派に加え狐山派までも俺を疑っているのか。


潔白を証明するべきだろうが、相手が悪い。

逃げた方が良いかな。


「犯人を見つけよう!」


しばらく沈黙が流れたが、口火を切ったのは趙景だ。


俺は思わず、困惑した表情を彼女へ向ける。


「李海、やってないんでしょ。」

「あんたがそんなこと、出来るわけがない。」


「だったら、私が何とかしてやろう。」


任務に忠実な女子だが、思ったより正義感も強いんだな。


だが、そう言われたら逃げるわけにはいかなくなった。


「ありがとう。」


「しかし、下手人の証拠もなければ、逆に俺がやっていないという証拠もない。」

「どうしたものか。」


こんな時、いつもなら元竹が提案してくれるのだが、万策尽きたといった表情だ。


「私は以前、臨安府にいたことがあります。」


「張掌門は、公明正大な人物だと聞きました。」

「狐山派はできたばかりの門派ですので、林掌門のことは分かりませんが、張掌門と義兄弟の間柄と聞きますので、やはり信頼できそうです。」


「ここはまず、お二人に会ってみては如何でしょうか。」


提案してくれたのは蘭歌だ。


蘭歌と梅舞は、臨安府から開封府へ来たそうだ。

きっとこの二人にも、色々とつらい事情があるのだろう。


「そうだな、まずは会ってみよう。」


「もし疑ってかかられて戦いになれば、俺たちが束になっても勝てやしない。」

「万が一に備えて身軽に動けるよう、少数で動こう。」


「元竹さんと趙景だけ、一緒に来てくれ。」


張掌門の屋敷に着くと、ちょうど死体の状態を確認しているところだった。


確認作業を終えると、40代の男がこちらに振り返る。

浅黒く背は低いが、英雄の風格。

この人が張掌門だろう。


隣には、俺よりは年上だが20代の男と、俺と同い年くらいの女子が控えている。

男の方は、白を基調として、梅の花と龍が刺繍された衣服に身を包んでいる。

同性の俺でも、格好良いと見とれてしまう。


「色黒の方が張掌門、派手な衣服の男が林掌門だ。」


趙景が耳打ちして教えてくれた。


それでは、あの女子は誰なんだろう。

クリクリの目にサラリと腰まで伸びた美しい髪、活発そうで…


「何を見つめている?彼女は林掌門の奥方、雪梅夫人だ。」


趙景の耳打ちは、まだ続いていた。


俺の心の声は最後まで言わせてもらえなかったが、これほど可愛い女子と結婚できるなんて、林掌門は何と幸せ者なのだ。

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