表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
李家剣夢譚  作者: 守田
修羅の道編
10/49

第10話 開封府脱出

急ぎ準備を整えると、開封を出発した。


旅は順調に進み、江寧府で一泊することにした。

沈澄とは、ここでお別れだ。



翌日、宿で朝食をとると、


「目的を果たせないどころか、戦に巻き込まれそうになるとは。」

「まったく、とんだことになりました。」


「しかし、李殿には感謝しております。」

「命あっての物種ですからな。」


沈澄はそう言って笑顔で手を振ると、蘇州へ向けて旅を再開した。


華林九と戦った際、趙景は任務を遂行しろと言っていたが、彼の言葉に俺は有頂天だ。

自慢げに趙景へ視線を送る。


「何だ?言いたいことがあるなら、はっきり言え!」


そう言うと、彼女は足を振り上げ、素早く振り下ろすと宿の机を叩き折ってしまった。


何もそんなに怒ることはないだろう。

しかし、言葉を投げかけようものなら、今度は俺の命が危ない。


「さあ、李師師。臨安府を目指して出発しましょう。」



しばらく進むと、数名の兵士と女子の一行に出会った。


李師師の指示で声を掛けると、どうやら皇族一行のようだ。


「私は張嫣と申します。」


白装束で40代くらいの女性が前に出ると、代表で挨拶した。

堂々とした風格と気品、この人が皇族なのだろう。


「李海と申します。」


「この辺りは、まだ安心できません。」

「ご不便をお掛けしますが、もう少しけもの道を行った方が良いでしょう。」


「お嫌でなければ、ご一緒しましょう。」


彼女は頷くと、俺たちの後を付いて来ることになった。


趙景と相談した結果、敢えて合肥の方角から遠回りするルートを選択していた。

真っすぐ進むより、襲撃を受ける可能性が低いと考えたからだ。



「若様、金軍の兵士が現れました!」


竹琴の言葉で振り返ると、宋の兵士が迎撃しているところだった。

考え抜いた策も実らず、ちょうど合肥に入ったところで見つかるはめになってしまった。


敵は50名ほどで、こちらより数が多いとはいえ、宋の兵士はあっという間にやられていく。

これほど力の差があるとは…開封はきっと落ちてしまうことだろう。


「皆、頼む!」


俺の号令で、竹琴たちが敵へ向かって行く。


「あんたも戦いなさいよ。」


そう言いながら、趙景も向かって行く。


渋々俺も足を動かすが、本気で戦うつもりはない。


当然であろう、相手は宋軍より上手の金軍なのだ。

俺の実力では、うっかりすれば殺されてしまう。


「張嫣様、どうかご安心ください。」


「ここは森、ぶつかる時は必然的に一人か二人ずつ相手にすることになります。」

「こちらは強者揃いですから、確実にせん滅できるというわけです。」


これも作戦のうち、合肥へ入る目的は、森が多いルートを選択するためでもあった。


そして、俺の言う通り、危なげなく金軍をせん滅した。


しかし、宋軍も全滅していた。

これで、張嫣たちは女子のみの一行になってしまった。



その後、しばらく進むと廃墟になった屋敷の前を通りかかった。


中へ入ってみれば、二重になっている門扉は奥側が外れており、いくつも壁に掛けられている書はボロボロになっている。


「皆様、ここまで命を守って頂き感謝します。」


「この辺りが気に入りました。」

「我々は、この屋敷に住もうと思います。」


金軍に追われているのだから、こんなところに留まっては危険だ。


「突然何を言い出されるのですか。」


「少なくとも臨安府は安全です。」

「必ずお連れしますから…」


そこで、趙景が俺を静止した。

首を横に振って、諦めろと言う仕草を見せる。


「実は、我々には金軍の他にも追ってくる者がいます。」

「巻き込む訳にはいきませんから、ここで別れることにしましょう。」


納得できるはずがない、俺が追求しようとすると、


「李海殿、もう良いのです。」


「あなたにも人に言えない事情があるでしょう?」

「私にだって、言えない事情もあるのよ。」


どういう意味だろうか。


続けて、趙景が口を開く。


「李海は気付いてないでしょうけど、張嫣様も侍女も武芸を身に付けている。」


「どうして隠しているのか分からないけど、自分の身を守るくらいはできるだろう。」


彼女がそう言うなら、間違いないだろう。

だが、どうして隠すのか、皇族は面倒なんだな。



張嫣たちと別れ再び旅を進めると、今度は李師師に驚かされることになった。


「私の護衛もここまでで良い。」


「実は、長く宮殿にいて疲れてしまったの。」

「この機会に、出家して世間から離れて暮らすわ。」


よく見ると、周りを僧侶が取り囲んでいる。


これには趙景も黙っていられない。


「そんな。任務が無くなってしまったら、これから私は何を目的に生きれば良いのですか?」


「それに、彼らは少林派。」

「少林寺は女人禁制のはず。」


頷くと、李師師は少し迷ったような表情を浮かべたが、意を決したように話し出した。


「趙景、もう少し自由に生きるべきよ。」

「李海もそうね。」

「あなたたちが一緒なら、きっと生き方を変えることも出来ると思うわ。」


「私のことは心配いらない。」

「実は心燈大師とは特別な間柄でね、縁が深いからと保護して頂けることになったの。」


そうは言っても、俺にも事情があるのだ。

そんなに簡単に諦められるはずはない。


「虎門鏢局の再建を約束して頂いたではないですか。」

「それなのに、少し勝手が過ぎませんか?」


李師師は微笑むと、優しい表情で口を開いた。


「もちろん、約束は果たすわ。」


「しかも、いよいよその時は来たのよ。」

「李鏢頭、就任おめでとう!」


修羅の道編 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ