序章:
この物語はフィクションです。
出てくる人物や設定は実在の人物と関係はありません。
ただありふれたこの世界で、
「何者にもなれない」と感じている
「私たち」は、きっと存在するのでしょう。
そしてそんな気持ちを抱えながら、別の自分を求めて今日もログインをするのです。
あるいは仲間と会うために。
あるいは別の自分と会うために。
あるいはすべてを忘れるために。
あるいは何かを求めるために。
広いゲームの世界の片隅に生きる小さな繭たちの物語。
私たちは、繭の中にいる。
社会という繭。
家族という繭。
私、という繭。
私たちは常に新しい何かに変わるために繭を造る。
繭の中でどろどろと淀んでいく。
何者にもなれない淀んだ何かを守るための殻を作る。
うねうねと肢体を動かし、口から言葉を紡ぎながら、ゆっくりと。
ゆっくりと、繭を造る。
繭の中で私たちは考えている。
何者にもなれない淀みの中で、自分を守りながら。
いつかこの淀みから羽化する夢を見ている。
どろどろと形のない自分から、いつか何者かになれるように。
そして私は今日も繭を造る。
インターネットゲームという繭の中で
「私」という存在を捨てて
他の何かになるのだ。
これは、繭の中の物語。