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狐がいた

だいたい怠惰。

後ろから読んでもだいたい怠惰。






「それじゃあまた、街を出る前に寄りますね」

「はい、お待ちしております。

 本日は大変実のある取引をありがとうございました」

 

 

 そうして副会頭さんに見送られ、俺たちは商会をあとにした。

 

 あの後冷静さを取り戻した副会頭に、あらためて今後大樹海で暮らしていくつもりな事や、

 たまに素材を売りにくる事などを話したところ、

 絶好の商売客だと判断したようで、より一層協力させて頂きますと意気込んでいた。

 それから軽く雑談したところで、完全に日が沈んだため宿を取るため店を出ようとしたのだが、

 その時に渡されたのがマチェスタ商会と提携している店で割引してくれる紹介状と、

 その店々が記された案内図。

 金には全くと言っていいほど困ってないが、割引ってなんか嬉しいよね。

 ……所詮俺は小市民である。

 この時間でも、紹介状があれば大抵は部屋に通してくれるらしいのでとてもありがたい。

 

 そんなこんなで、帰り際解体場でフレスベルグの肉を大量に受け取り、

 お返しとしてその倍以上の大樹海産の魔物を卸してから店を出た訳だ。

 リッパーさんは目を丸くしていたが……

 

 

 紹介された宿はマチェスタ商会からほど近く、

 少し裏手の場所にある三階建てのお洒落な建物だった。

 名前は金狐の宮。

 

 カランコロンという呼び鈴を伴ってドアを開けると

 出迎えたのは狐系獣人の女の子。

 

 

「いらっしゃいです!

 って、ふわぁぁぁぁっ!」

 

 

 いた。

 狐がいた。

 元気いっぱいといった感じの子だったのだが、

 うちの女子二人を見て目を丸くして放心した。

 ……可愛い子は好きですよ俺は。

 ちなみに可愛くない子は嫌いなので断じてロリコンではない。

 

 

「ミラちゃん大きな声を出してどうしたの〜……。

 あら?あらあら〜、これはすごく綺麗なお客様が来ましたね〜」

 

 続いて受付の奥から姿を見せたのは、これまた狐耳のTHEあらあらうふふお姉さん。

 このぽわぽわ感と狐耳、どことなく既視感が。

 

 

「本日はようこそいらっしゃいました〜。

 ご宿泊でよろしかったですか〜?」

「はい、マチェスタ商会の副会頭さんからの紹介で来ました。

 これ、紹介状です」

「あらあら〜フィムさんからですか〜。

 これは失礼できませんね〜。

 それで〜お部屋と日数はどうしますか〜?」

「あ、はい。全員一緒の部屋で二泊お願いします」

「かしこまりました〜。

 それでは六人部屋を割引しまして〜二人部屋料金の銀貨六枚になります〜。

 あ、お代は後払いで結構ですので〜。

 ほ〜らミラちゃん〜。いつまでもボーッとしてないでお客様案内してあげてね〜」

「…………」

「ミラちゃ〜ん?」

「…………」

「ミラ」

「ひゃっ、ひゃいです!」

「ご案内お願いね〜」

「ご案内するです!

 皆さんこちらへどうぞです!」

 

 

 すごい。

 一瞬鬼が出た。

 般若を背に幻視した。

 ……いるよねー。

 一見穏やかな人ほど内にヤバイの飼ってる人。

 能力的に負けることはないと分かってはいても、こいうのは恐ろしいものだ。

 俺も気をつけよう。

 

 

「おまたせしましたです!

 こちらのお部屋をお使いくださいです!

 シャワーの魔道具は使い放題ですが、うちはご飯は出してないので、

 お腹が空いたら自分で用意してくださいです!」

「ああ、ありがとう。

 そうだ、頑張り屋さんな君にはこれをあげよう」

 

 

 そういってチップを渡す。

 相場がわからないのでとりあえず銀貨一枚。

 

 

「ふわわわわわっ!

 こんなにもらっていいです!?」

 

 

 多かったようだ。

 まあ、かわいいのでよし。

 

 

「なんぞ愛い子じゃのう。

 ほれほれ、ほれほれ」

「ふわぁぁぁぁぁ」

 

 

 同じ狐系だからなのか、ただ単純に可愛いだけか、

 珍しく桔梗がデレていた。

 狐っ子の方も絶世の美女に撫でられて満更でもないようでニヘニヘしている。

 平和である。

 

 

 

「そ、それではごゆっくり、です!」

 

 

 それから五分ほど、存分に撫でくりまわされた末に解放された狐っ子は、

 若干頬を赤らめて仕事に戻っていった。

 俺たちの温かい目に気付き恥ずかしくなったようだ。

 

 通された部屋は三階の角にある六人部屋だった。

 さすがに現代日本のホテルほど豪華な訳ではないが、それでも十分に清潔にされた心地よい部屋だ。

 ひとまず、倒れ込むように手前のベッドに倒れ込む。

 

 

「さて、二日の滞在で家具だったり食料だったりを買わないといけない訳だけど……

 ああ……。もう無理。面倒。限界。動けない。動きたくない。考えたくない。

 ……ので、あとはまかせた」

 

 

 寝る。

 

 

 

 異世界に召喚されてから今まで、

 割と動き続けだったのもあり精神的にも体力的にも限界だった。

 ていうか、今回は異世界という突発的な事態に動かざるをえなかったため

 能動的に行動していたが、そもそも俺の本性は怠惰なのだ。

 ダラダラしていたい人間なのだ。

 ということで、話は後にしてさっさと寝る。

 おやすみ異世界。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

「のう、ボタンにシオン」

「ああ」

「はい」

 

 

 湊が寝たのを確認してから、

 桔梗の言葉を皮切りに、三人は話し始める。

 

 

「ぬしさまの事でじゃが…」

「言いたいことはよく分かるぞ桔梗。

 ありゃあもう、マジで手に負えねえ」

「ただでさえ、禍神を無傷で倒す実力を持っていたのに、ここにきて

 さらに力を増したみたいですね」

 

 

 そう、湊の力についてだ。

 普段は一寸の漏れも起こさないほど完璧に制御している力だが、

 術の発動の際は気を高める必要があるため、その筋の人間にはどうしても感じ取れてしまう。

 

 そうして、封印から開放された瞬間の事。

 術後で集中状態だった湊の、あまりに莫大な力の奔流に、

 それぞれ、種の最強クラスの三人でさえ思わず息を呑み恐れを抱いたのだ。

 その強大さというや常軌を逸しており、

 恐怖という久方ぶりの感覚に戸惑いを隠せず、改めてこうして話していた訳である。

 

 しかし、そんな暗めの雰囲気も一瞬の事。

 

 

「まあ、よく考えてみれば今更ではあるんじゃがの」

 

 

 そう言って、クスクスと笑みをこぼし始める桔梗。

 それを見て一瞬ぽかんとするものの、すぐに二人も同じように笑い出す。

 

 

「それもそうだ!

 十五で俺ら各種の頂点を調伏して、禍神退治。

 若はずっと前から化け物だな!カッハッハッ!」

「ふふっ、そうですね。

 それに、私たちは既にみっくんの家族です。

 …住む世界が変わり、力を増そうともそれは変わりません。

 問題なしです!」

 

 

 今更考えることでも無いとばかりにあっという間に深刻な空気は霧散し、

 部屋には三人の笑い声が木霊した。

 

 彼女達は形はどうあれ、湊を心より慕っている。

 

 親愛、恋慕、友愛、忠誠。

 

 かつて、強すぎるが故の孤独に苛まれていた三人。

 そんな自分を圧倒的な力でねじ伏せ、

 敵だったにも関わらず、名を与え家族として迎えてくれたその日から。

 

 そんな彼女らの想いは、どれだけ湊が闇に落ちようとも変わらない不変のもの。

 そしてそんな彼女達がそばにいる限り、異世界で訪れるどんな奇々怪界も乗り越えていけるに違いない。

 

 

 こうして異世界初日の夜は更けて行った。

 

 

 

 

 ◇

 

 






ありがとうございます。

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