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拠点をつくろう

少しずつ動き始めます………

 





 深魔大樹海。

 その外縁部。

 

 紫苑の案内のもと森に入った俺たち一行を最初に出迎えたのは、

  地球で言うところのゴキ◯リ。

 異世界において百害あって一利なし代表な魔物、ゴブリンであった。

 黒緑色の肌と奇妙に肥大化した鼻が特徴のゴブリンだった。

 しかし明らかに想像していたゴブリンと違う点が一点。

 マッチョだった。

 それはボディビルのような無駄な筋肉では無く、

 まさに弱肉強食を生きる上で必要な力のみを最適化したかのような

 筋肉の付き方だった。

 そんなマッチョゴブリンが八体。

 視線の向こうを歩いていた。

 

 

「おういたいた。

 あいつは森の中でも比較的どこにでもいるゴ◯ブリみたいやつで、

 そこそこすばしっこいから

 注意しな…っていらん世話だったか!カハハハハ!」

 

 

 紫苑が注意を促す途中で俺たちの存在に気づいたのか、

 常人では捉えられない速度で囲みに来たゴブリン。

 キリの良い人数とでも思ったのか、

 俺、桔梗、牡丹、紫苑にそれぞれ二匹ずつで襲いかかってきた。

 悪手である。

 ここはせめて一人に集中して全員で襲いかかるべきだ。

 まあそれでも万に一つも勝機はない訳だが……。

 他の、それこそこの世界の大抵の冒険者ならば

 その初見殺しのスピードで殺せたのであろうが、

 こちらは怪異最強種に人類最強。

 ゴブリンがいくら強くなったところで、所詮はゴブリンである。

 

 桔梗に近づいたゴブリンは

 純粋な熱で構成された尾で払われると同時に滅却され、

 

 牡丹の方は接近すら許さず絶対零度の氷柱に囚われそのまま粉砕。

 

 紫苑はゴブリンの攻撃を躱しざまに首を斬り跳ねた。

 

 

「っと、観察してる場合じゃないか」

 

 

 こちらもやってきたゴブリンに対処する。

 と言っても一瞬だ。

 一応連携はできるのか

 タイミングをずらして左右から挟み撃ちで攻撃してくる二匹だが、

 どちらもスウェーバックで躱し、

 顔面にカウンターの掌底を喰らわしたら終わりである。

 

 ただここで驚いた点が一つ。

 事前に俺は循環練気で身体能力を上昇させていた訳だが、

 ゴブリンの耐久力が予想より低かったためか

 掌底を喰らわせたゴブリンの首から上が消し飛んでしまった。

 消滅である。

 破壊とか、陥没とかではなく消滅である。

 

 ……。

 

 

 

 

 そんな感じで、道中様々な魔物を殲滅しながら進む。

 

 巨大な黒毛の影を操るツノの生えた狼。

 牙が剣のように異常発達した火炎を纏った虎。

 これまた巨大な、鎌鼬を飛ばしてくるカマキリみたいな魔物に、

 それすら飲み込めそうな巨躯で毒を撒き散らす蛇。

 他にも、熊、一つ目、鬼っぽい魔物、地を歩く竜などいろいろいたが、

 尽くを殲滅し、歩を止めるほどの魔物はいなかった。

 

 途中からはダッシュで進み、二時間ほど。

 ようやくたどり着いた紫苑自慢のそこには、

 今までの殺伐とした弱肉強食の世界からすっぽりと切り離されたような、

 どこか神聖さすら感じるような泉の広場があった。

 大きさは直径で五十メートル程で不自然な程の真円形。

 さらに泉の周りは縁から十メートルほどが森から途切れた空間になっている。

 

 

「これは…。すごい場所を見つけたねシオン」

「ほ〜、正直シオンのこと。

 どうせ大したところではないだろうと思ってたんじゃが

 ……これは見事な泉じゃの」

「綺麗ですねえ」

「だろお?

 気に入ってくれたならよかったぜ!

 まあ偶然見つけただけだから威張れたもんでもないけどな!

 カッハッハッハッハ!」

 

 

 普段の紫苑の性格とは結びつかない程美しい泉に、見惚れることしばし。

 いつまでも眺めていてもしょうがないと早速動き出す事にする。

 

 

「よし、じゃあ早速拠点を作っていくわけだが…

 せっかくだしここは、湖の孤島みたいな感じにしよう!

 オシャレだし!別荘感が出て良いしね!」

 

 

 そういう事にした。

 

 

 ー五法術 土ノ相ー

 

「『土龍輪舞』」

 

 

 泉の底、周囲の地面、大気中の土砂が意志を持ったかのように蠢きだし、

 あっという間に島とそれを繋ぐ四方の橋が出来上がった。

 本来は攻撃用の術だが、転用した形である。

 臨機応変大事。

 まさにケースバイケースだ。

 

 俺が術を行使している間、

 他の三人には木材の調達をお願いしていたのだが、早い。

 それぞれ、熱、風、刀。

 得意の技をもってバッサバッサと切り倒していった結果、

 島ができるタイミングで、軽く屋敷は建てられるであろう量の木材が集まった。

 さらに邪魔な枝も綺麗に切り落とす仕事っぷり。

 流石だ。

 

 そしてとても嬉しい事が発覚。

 何の奇跡か偶然か、ここら一帯の木は、かの高級木材”檜”に酷似していた。

 美しい白さと光沢。

 そしてなんと言っても檜特有の香り。

 これから家を建てるわけだが、

 控えめに言って、

 最高である。

 

 檜に囲まれたこの空間は、

 息を吸うだけで体の芯から癒されるような最上の心地良さを生み出している。

 ……改めて紫苑のファインプレーに感謝。

 

 わーパチパチパチ………。

 



 さて、素材が集まったら後は家を作るわけだが。

 俺はおもむろに大量の霊符を地面にばらまき印を結ぶ。

 すると霊符を核として続々と誕生する二頭身の土人形。

 今回従事してもらう大工さん達だ。

 

 全ての符が土人形になったところで、整列させる。

 そして始まる小芝居。

 

 

「諸君!本日はよく集まってくれた!」

「「「「「ムー!!!!!」」」」」

 

 

「なんぞはじまりおった…」

「ふふっ、楽しそうですね」

 

 

 女子たちの言葉は無視して檄を飛ばす。

 完全檜っぽいの家という、

 贅沢な家の完成を想像しテンションが上がっているのだ。

 

 

「今から諸君に任せるのは、

 俺たちが今後暮らしていく住居及びその周辺環境の建設である!」

「「「「「ムムム!!!!」」」」」

「そんな大仕事ではあるが、

 どんな建物にするか

 、外観、内装、庭に至るまで、全ての構成は君たちの判断に委ねる!」

「「「「「ムムム!!!???」」」」」

「うろたえるな!

 諸君には俺がかつて先を見据えて調べ尽くした

 日本のあらゆる建築知識を与えたはずだ!」

「「「「「ム……ムー!!!!!」」」」」

「よーし、その意気だ!

 オーダーはオシャレでかっこいい、住み良い家!以上!

 それでは素晴らしい住処を作ってくれることを期待する! ……初めっ!」

「「「「「ムーーーーーー!!!!!」」」」」

 

 

 号令と同時にワラワラと動き出す土人形たち。

 俺の腰ほどしかない人形たちが、

 高さ数メートルの木材を担ぐ姿はなんともメルヘンチックで愛らしい。

 魔物よりよっぽどファンタジーだ。

 

 

 俺たち陰陽師が使用する霊符には二つの種類がある。

 一つは単に魂気のみを込めた無字の符。

 鳩や蛇など、場面に応じて簡単な命令と姿を与えるものや、

 術の媒介として利用するものだな。

 そしてもう一つが、事前に知識とそれに付随する能力を込めた字入りの符。

 これは無生物に貼り付けることで初めて誕生するもので、

 今回生み出したのもこちらの霊符になる。

 どちらも式神ではあるが、その手間の違いから能力には大きな差がある。

 そんな式神の中で今回使った土人形たちはかつて、

 俺が修行の過程で学んだ日本建築及びそれに関わる知識を存分に込めておいた、

 いわば、大工のプロフェッショナルなのだ。

 

 将来、それまで住んでた古風な武家屋敷を破壊して

 新しい家を作ろうと用意していた霊符達だったのだが……

 いやはや、こんな形で役に立つとは。

 分からないものである。

 

 

 まるで早送りのような手際の良さで乾燥から加工などなど、

 トンテンカンやっているのを横目に俺は結界の準備をする。

 今はいないが、

 いつ魔物がきてもおかしくないのでさっさと張ってしまうことにしたのだ。

 土人形たちに戦闘能力は皆無なため、魔物に襲われたら目も当てられない。

 

 この泉の空間はそれなりの広さがあるため相応に手間がかかる。

 と言っても、

 島を中心に見たときの五芒星の頂点に霊符を貼り術を発動するだけだが。

 

 泉の周りを歩きながら丁度良い場所に目星をつけ霊符を貼り、島に戻る。

 この間十五分くらいである。

 だと言うのに、山のようにあった木材の加工が全て完了している。

 ドワーフもびっくりの早さだ。

 ……まあ、ドワーフの作業なんて見た事ないが。

 

 

「あっという間じゃの」

「早いですねえ」

「…いや、早すぎだろう。

 どうなってんだあの土人形」

 

 

 我が土人形部隊の早技に驚愕している三人を横目に 結界の作動に移る。

 

 九字印を両手で組み合わせながら真言で詠唱を唱える。

 今回展開する広域結界はそこそこ複雑な仕組みのためちょっとばかし面倒だ。

 

 

「ॐ विघ्नेश्वराय नमबीーーー」

 

 

 詠唱が進むにつれ

 俺の足元から五芒星の五つの頂点にむけて魂気の道が走っていく

 

 

「ーーーーजाक्षर ह्रीःवससुहां ह्म्मां ह्रीः」

 

 

 詠唱の終わりに伴い

 それぞれの霊符に気が灯るのを確認したところで最後の締めだ。

 

 

 ー霊符術ー

 

「『五芒結界 破邪ノ陣』」

 

 

 瞬間、

 俺のいる位置を中心に地面に巨大な五芒星が浮かび上がり、

 その頂点から天に光が立ち上る。

 すると五つの光が時計回りに円を描き

 それぞれの頂点をつなぐように周辺を囲んだ。

 これで完成である。

 この結界は内部にいる人物に害意を抱いたものが入れなくなる効果があるため、

 今後基本的に人、魔物問わず襲われる心配はなくなった。

 偶然結界内に入ってくる事も考えられるが、

 それでも結界内で害意を抱いた時点で

 虚空から鎖が現れ拘束する仕組みなため、予防は万全だ。

 

 

「よしっ、これでひとまず拠点の確保は完了かな!」

 

 

 たったの数分ではあるが、

 片手間に発動できる術とは違い規模の大きめな術だったため

 少し面倒だった。

 ……たったの数分ではあるが。

 

 

「何だかあっけないものじゃ……。妾らは楽で良いんじゃが」

 

 

 とはいえもう一、二時間で日が暮れそうな時間帯。

 さすがに今日すぐ家の完成とはいかないので、街に戻って宿を取らねば。

 現代人に野宿は苦痛だ。

 街では換金の事もあるしね。

 

 

「多分二日ぐらいで完成すると思うから、一旦街に戻るよ。

 今回は紫苑も一緒にね」

「おう。あんまり一気に戦っても味気ないしな!」



そうして土人形たちに残りの作業を託して俺たちは森を出た。





 




十話までは今日明日で投稿しちゃいます。

それ以降は、最低でも週一でいけたらいいなぁと……

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