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三人の家族

小説の流儀みたいなのってあるんですね。

?のあとは空白にするとか。

知りませんでした……

 

 



 ホールを出てから三十分後、ようやく俺は城を出た。

 

 三十分も何をしていたかと言えば、迷惑料を拝借していたのだ。

 地理、魔法、歴史など重要そうな書物を一通りと、

 宝物庫にあった金になりそうなもの。

 壺とか剣とか。

 ちなみに全部位相空間に入れてるから手ぶらだ。

 

 

 

 さて、さっさとこの国から出よう。

 長居しても面倒そうだし。

 

 街の風景を横目に歩く。

 石や煉瓦中心の建築物。

 整然とした街並み。

 服、雑貨、宝石など様々な店舗が立ち並び、

 広場では屋台の活気の良い声が行き交っているのを見るに、

 充実した生活環境が窺える。

 しかし気になる点が一つ。

 行き交う人々はすべて普通の人間。

 地球なら何の変哲もない風景だが、ここは異世界。

 ちらほら見えるのは首輪をされたケモミミや耳長の人々。

 つまりそういう事。

 書物を漁っている時にチラッと見たが、

 この国はいわゆる人族至上主義みたいなのだ。

 今見る限りではそこまで非道な事をされているようには見えないけど、

  陰ではどうなんだか。

 

 

「まあ、だからと言って無責任に助けたりはできないんだけどねえ」

 

 

 俺は誰にでも手を差し伸べるような善人ではないし、

 ノブレスオブリージュとかいうのもどっちかというと反対の人間だ。

 まあ人並みにかわいそうとは思うけど、それだけ。

 だから、奴隷の皆さんごめんなさいって感じ。

 

 と、そんな事を考えながら歩く事しばし。

 ようやく街を出た。

 皇帝のお膝元だけあってなかなかの広さだった。

 ちなみに町に入る時には検問があるみたいだけど、

 出る時はその限りではないらしい。

 助かった。

 

 


  ーーー

 

 


「ここらでいいか……」

 

 

 街を出てから数分。

 人影がなくなったあたりで街道を逸れ立ち止ると、

 おもむろに霊符を三枚空中に放り投げて印を組む。

 

 

「बीजा ससुहांह्म्मां घ्नेश्वरायーーーーー」

 

 

 真言を唱えるにつれ中空に固定された霊符が人間大の光に包まれ、

 さらに発光した鎖が幾重も現れては崩れていく。

 

 

「ーーーーーーーーーघ्नेश्वराय  ह्म्मांह्रीः」

 

 

 そうして数小節に及ぶ詠唱の末、完全に鎖が消えた。

 

 

「解、灼幻帝九尾。魂名『桔梗』」

「解、鬼神羅刹天。魂名『紫苑』」

「解、皇龍。   魂名『牡丹』」

 

 

 鍵言が虚空に響くと同時、

 ガラスの割れるような音と共に三人の男女が現れた。

 

 

「……っ!よ、ようやくか。待ちわびたぞ」

「……!みっくん!無事ですか!?

 ああ、よかった……黒い点が現れたと思ったら急に封印するのですから 、

 どうしたものかと……」

「っ!?

 ……ああ〜息苦しかった。

 これだから封印状態は好かねえんだよなぁ」

 

 

 



 さて、覚えているだろうか。

 俺が召喚された時、団欒していたと言っていた事。

 それが彼女らだ。

 

 では紹介しよう。

 最初の古風な喋りなのが桔梗。

 腰ほどまでに伸ばした黒髪に

 まるで美の女神とでも言えるような美しい顔はまさに傾国。

 黒メインの和服を大きく着崩した胸元からは

 こぼれ落ちんばかりの母性の象徴が主張をやまない。

 毎度毎度、眼福な限りである我が家のお姉さんだ。

 

 

 あ、ついでに言うと俺も和服です。

 灰色の。

 

 で、二人目が牡丹。

 白の和服にこれまた白の髪を肩ほどで整えた彼女は

 我が家の家事をすべて取り仕切る、

 ちょっとした欠点に目を瞑れば完璧なお姉さん。

 彼女も人外な美顔を持つ、女神二代巨頭の一人だ。

 

 最後のが紫苑。

 黒の着流しに灰色の髪は伸ばしっぱ。

 鋭い目つきに厳つめの顔、

 細身でありながら鋼のような筋肉に包まれた ナイスガイイケメンである。

 

 彼女ら三人は元は敵である怪異だったわけだが、

 まあいろいろあって名を与えて見事、小鳥遊家の一員になったやつらだ。

 とは言っても、血縁者はみんな死んでるから、 実質この四人家族なんだけど。

 

 ああ、俺の名前は小鳥遊湊ね。

 

 

「待たせて悪かったね。

 急な事だったから封印状態が一番安全だと思ったんだ。

 まあ、詳しくは後で話すけど、とりあえず牡丹」

「もうっ。無事ならよかったです……。 なんですか?」

 

 

 三人のいつも通りの空気感に心が緩まっていくのを感じ、

 帝国の連中とのやりとりは想像以上に気を張っていた事に気づく。

 まあそりゃあそうだよね。

 心の準備もままならないまま、半ば帝国に脅されるという珍事。

 普通だったらもっとパニックである。

 

 

「……みっくん?」

 

 

 おっと、ついついボーッとしてしまった。

 

 

「ククッ。ぬしさまも妾達に会えなくて寂しかったんであろう」

「カッハッハッハ!

 ちげえねえ!若も寂しがり屋だからな!」

「やめて。

 完全に否定できないのが余計にはずい……」

 

 

 俺が精神的に安堵しているのを感じ取ったのか、いじられた。

 恥ずかしいのでやめてほしい。


 って、こんなことしてる場合じゃないか。

 あの皇帝さんの事だし早くて一時間もしたら追っ手を寄越すかもしれないし、

 牡丹に本題を伝える。

 一言、「ちょっと乗せてって?」と。 




 ーーー



「……異世界とは。

 なんとも奇怪な事に巻き込まれたものじゃ」

『でも納得ですね。

 世界が変わったのならこの妖気の密度も頷けます。

 地球に比べて天と地の、いえ兎とゴ◯ブリの差はありますから』

 

 

 現在地、空の上。

 正確には空飛ぶ牡丹の上で、ことの顛末を話していた。

 というのも、牡丹の種族は皇龍。

 龍なのである。

 しかも牡丹の能力は天候操作に多能結界。

 まさに移動手段としてはこれとない程適しているのだ。

 そのためとりあえずは西へ向かってのんびり飛行しながら話しているってわけ。

 

 あ、牡丹の謎発言はつっこまないよ。

 いつものことだし。

 

 

「ああ、やっぱりこれ妖気と同じだよね?

 魔法放つ時もこれ使ってたみたいだから、地球でいう妖気と

 この世界の……魔力、でいいのかな?は、同じみたいだね」

「ああ、だからか!

 やたら体が軽いと思ったら、なるほど。

 これは下手したら禍野よりも濃度は高いぞ!」

「しかも、封印が解かれた瞬間身体が作り替えられたような感覚と同時に

 妾たち自身の力も増したようじゃぞ。

 今なら禍神とも戦える気すらしておる」

「おーお前らもかー。

 実は俺も力が増したんだよねー」

「『「え”っ」』」

「えっ?」

「あ、ああ、何でもないのじゃ。

 (これ以上強くなるなんて、もうぬしさまに勝てる存在なんておるのか?)」

「(まったく、若はどこまでいくんだか。

 まあ十五で禍神を無傷ってんだから今更か……)」

『(素敵です、みっくん!

 どれだけ強くなろうとも私はどこまででもついて行きますからねっ)』

 

 

 どんだけ〜とか思ってるんだろうなあ。

 別にいいんだけど。

 力なんて要は使い方だしね。

 俺は隠居するつもりだから問題なし。

 

 そんなこんなで談笑しながら帝国から拝借した書物を読んでいると、

 進行方向から飛行物体が。

 あ、ちなみに文字は読めました。

 

 

『みっくんみっくん。

 前から銀色の大きな鷲みたいな生き物が突っ込んできますけど

 どうしますか?

 このまま殺しちゃいますか?』

「む、あれはフレスベルグじゃないかの?

 さっき文献に載ってるのを見たが見た目もそっくりじゃし、

 超高空を徘徊しているって載っていたから間違いないじゃろう。

 肉は絶品、羽毛は最高級。他の素材も一級品の幻の生物らしい」

「ほう。絶品とな。

 ……紫苑!」

「おう!」

 

 

 言うや否や牡丹の背から飛び降りた紫苑は、空を蹴り加速。

 対してフレスベルグの方も応戦のためか、その場でホバリング。

 全身に稲妻を迸らせた瞬間、

 数多の雷光が紫苑に収束するかのように空を走った。

 万事休す……

 

 

 ……ではもちろんない。

 

 

「かぁッ!!!!」

 

 

 咆哮。

 覇気。

 それのみで全ての雷が霧散した。

 さすが鬼族最強。

 脳筋である。

 そうしてさらに加速した紫苑は瞬く間に距離を詰めると、

 勢いそのまま、腰に佩いていた刀を抜刀。

 そして納刀。

 

 無音。

 

 ズバンともスパンとも言わない完全な無音。

 えぐめの切れ味の刀と刀術のなせる技である。

 この刀。紫苑の自作である。

 

 数拍遅れてフレスベルグの首がずれていく。

 

 

「若っ!」

「おうけい!」

 

 ー五法術 金ノ相ー

 

「『位相開門』」

 

 

 落下を始めたフレスベルグの下に一匹まるまる入れるほどの空間が開き、

 瞬く間に飲み込む。

 普段は全くの無詠唱で開く位相空間だけど、

  大きすぎると呪文が必要だからちょっと面倒。

 たとえ手間が少なくても、普段と違うやり方だと面倒に感じるよね。

 自転車とバイクの差みたいな。

 違う?

 まあいい。

 

 

『幻の生物といえ、あっけないものですね』

「まあ、ぶっちゃけ俺たちが強すぎるんだよ。

 それぞれ妖狐、龍、鬼の最強種に俺。

 これで手こずる魔物がいたらそこそこ問題だと思う」




「ふぃ〜。久々に動くと気持ちいいなあ!」

 

 

 フレスベルグがしっかり収納させるのを見届けた紫苑が

 戻ってくるなりそう言う。

 まあそれも当然で、現代の地球でこんな超人じみた行動を目撃された時には、

 マスコミにたかられ、

 テレビに取り上げられ、

 面倒事になること間違いなしだし。

 そもそも怪異が生息していた禍野ならまだしも、

 地球の人間世界には妖気なんてほぼ皆無なため満足に力は使えなかったのだ。

 

 

「この世界なら、たまに手合わせとかするのも悪くないかもねー」

「おっ! じゃあその時は頼むぜ!」

『「わたしはパスで」』

 

 

 ……女子二人は気がのらないみたいだ。






 

 

第三話です。

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