俺は陰陽師
第二話です。
サブタイトルに名前はつけた方がいいのだろうか………
数多の視線の中出口に向けて歩くが、
もちろんそんなにすんなり通れるはずもなく。
近衛らしき強面さんに道を阻まれる。
さらに周りを囲むように魔道士や騎士が即座に配置された。
「……貴様、よもやこれだけの事をしておいて
生きて出られると思っているのではおるまいな?」
そう言って怒りにギラつかせた瞳を向けてくる皇帝さん。
うーん?
この人達は勘違いしているようだ。
どうして俺をどうにかできると思っているんだろう。
仮にもこちらは戦う術を持っている事を匂わせたんだから、
殺られる可能性を考えてもいいと思うんだけど。
浅はか也。
まあいいや。
「よくは知らないけど、彼ら程度だったら足止めにもならないよ?」
俺はそう言って歩きながら詠唱を唱える。
ぶっちゃけ詠唱なんて必要ないけど、まあ一つの示威として。
あとはこの後の予定も考えて。
「ह्रीःवससुहां क्षर ह्म्मांーー」
「陛下!」
「っ!よい!殺れ!」
危険を察知したのか、それとも戦いに身を置くものとしての本能か、
咄嗟に皇帝の前に出る強面騎士さん。
その切迫した雰囲気を感じて即座に号令を出した皇帝の声が先か、
動き出したのが先か、
強面騎士さんが剣を上段に構えまっすぐ突っ込んできた。
「 フンッ!!」
瞬く間に眼前に迫った強面騎士さんが振り下ろした剣は虚空に銀の軌跡を残す。
弧を描いたその軌道が正確に首を辿る……
……事はもちろんない。
首に触れる寸前。
あと数センチのところで俺は半身になり、
魂気を集中させた掌底で剣の腹に軽く触れる。
ズガンッ!
たったそれだけで軌道は逸れ、剣が地面に衝突した。
なんだか剣身に風を纏ってたみたいだけど無意味でした、残念。
「なっ!……チィッ!」
ギリギリまで引き寄せられた強面騎士さんは思わず体勢を崩すが、
そこはやはり実力者なのか、数瞬で再び切り込んでくるそぶりを見せる。
が、残念。
その数瞬がアウト。
半身になった体を元に戻すように腰を回転させ、蹴りをたたき込んだ。
「グフゥッッ!」
「マルコス様!?」
するとあら不思議。
ズガンッという、およそ蹴りではならないであろう音を立てて
まるでそこだけ無重力であるかのような勢いで吹っ飛んでいき壁に激突した。
姫様唖然。
マルコスっていうのか〜。
異世界人の耐久力に期待しますっ。
「ばかなっ!
我が帝国の近衛騎士長を赤子の如く……っ!
加減はいらん!やつを殺せ!」
あら、近衛だとは思ってたけどトップだったのね。
弱くない?
これが異世界クオリティ?
「「「「「ーーーー『ファイアボール』ッ!」」」」」
優位性が一転してピンチになり変わった状況に焦ったのか、
切羽詰まったような皇帝の言葉を合図に四方から飛んでくるあらゆる魔法。
炎、水、氷、風、雷、土。
球、矢、槍、刃、帯、弾。
全方位から雨霰と殺到してくる魔法の嵐は
余程の強者でなければ回避不可能なものなのだろう。
まして、たった今魔法の存在しないはずの世界からやってきた人間では、
いかにもできないはずである。
事実、一般人なら近衛さんの初撃で即死だった。
「ーーॐ विघ्नेश्वरायーー」
しかし、俺は違う。
俺は陰陽師だ。
世の理に干渉し森羅万象を引き起こす陰陽師だ。
最後にして最強。
平安の世からの悲願、禍神退治。
それを三年前、齢十五で成し遂げた、誇張抜きに最強。
これは別に驕っている訳でも慢心している訳でもなく、
結果に裏付けされた、確固たる自信。
そんな俺に、こんな有象無象の軟弱な術など通じる訳が無い。
デコピン一つで地を割る禍神の攻撃に比べたら屁のようなものである。
事実、全ての魔法が俺の纏う気の壁すら突破できずに弾けては消えていく。
そう、俺は無傷だ。
全くの無傷。
魔法が乱舞する中を平然と歩き、術を唱え続ける俺を見つめる雑多な視線。
驚愕、恐怖、警戒、焦燥。
様々な視線を受けながら、ついに術が完成する。
「ーー नमबीज」
ー五法術 水ノ相ー
「『銀界・蝕』」
ーーぽちゃんっ
「なっ!?」
一瞬。
瞬きする間の出来事。
俺の鍵言がホールに響くと同時、銀の滴が一つ虚空から現れ地に落ちた。
それだけ。
それだけだが、もたらした影響は凄まじい。
凍ったのだ。
人、物、魔法、全てが一瞬で。
それは今いるホールだけにとどまらず、城全体に及んでいた。
あ、殺してはいないよ?
一応無駄な殺生は良くないと思うくらいには常識人だしね俺。
「き、さま……これはどういう事だ」
まるで時間そのものが停止したかのような静寂な空間で、
唯一何もされずに一人とり残された皇帝が聞いてくる。
その目には怒りと恐れが混在しているような、複雑な感情が見て取れた。
「どういう事だと言われても、正当防衛として無力化させてもらっただけだけど。
ああ皇帝さんには一つ、頼みをと思ってね」
「頼み……だと?
これだけの人間を容易く殺めておきながら今更頼みもなにもあったものか。
やるならさっさとやるがよい」
「ああ勘違いしてるようだけど、誰も死んではいないよ?
一時間ぐらいで自然と元通りになるから安心してよ。
こんな無駄な事で虐殺者なんてなりたくないからね。
……それでお願いなんだけど、一つは今後俺に一切関わらないこと。
もう一つは俺の身内に危害を加えない事。
ちなみに身内ってのは仲が良くなった人も含むから悪しからず。
……それだけ。いいね?」
「……ふん。そんな曖昧な貴様の関係にいちいち気を配れる訳なかろう。
それに、これだけの事をしておいて無事でいられると思わぬ事だ。
我が国には手練れが何人もおる。どこへ行こうと必ず後悔させてやるぞ」
こんな状況でもさすがは皇帝なのか、強気の姿勢は崩さないみたいだ。
絶対報復に来るらしい。
んー、今ここで全滅させてもいいんだけどなあ。
……まあいっか。
来たら、その時考えよう。
「うん、まあなんでもいいけど、とりあえずそうゆう事だから。
くれぐれも気をつけてね。
一応俺の力の一端は見せたわけだから、
それでも来るなら死の覚悟もするように。
それじゃあ失礼」
そう言って俺はやや強引ではあるが話を切り、
皇帝と氷の彫像と化した人々の脇を抜けホールの外に出た。
面倒な事にはなったけど、
ひとまずは書庫にでも行こっかな。
情報は大事だしね。
あと宝物庫も………
第二話でした。