ニートもほどほどに
本編?
死の森隠居生活が始まって一月が経過した。
この一ヶ月で元皇女姉妹もある程度、というかかなり慣れたようで、
今では伸び伸び生活している。
アルマはさっそく有言実行とばかりに牡丹に師事した。
掃除に洗濯、料理の腕もメキメキと上達させており
既に下手な料理人は超えているだろう。
さらに最近は裁縫も学び始めたらしく、
楽しそうに牡丹と話しているのをよく見かける。
どうやら牡丹作の和服に感銘を受けたらしい。
家事マスターへの道を絶賛駆け上がり中だ。
……元皇女ではあるが。
対してエルナはまだまだ遊びたい年頃。
最初の数日は邸宅やその周囲の探索で暇を潰していたがそれも当然飽きが来る。
そこで俺はアナログなゲームを色々作った。
オセロ、将棋、ジェンガ、トランプなどなど。
他にも指スマだったり、あっち向いてホイだったり、簡単な遊びも教えてあげた。
これが殊の外好評で、たまにアルマも楽しそうにやってるのを見るくらいだ。
聞くところによるとどうやらこの世界、娯楽の文化はあまり進んでいないらしい。
ちなみにしりとりは断念した。
なぜかって?異世界の言葉は言っても通じないのだ。
イ◯ローとか言っても、何それ?って感じなのだ。
そりゃつまらんよ。
とまあそんな感じで楽しくやっている訳だが、遊んでいるばかりではない。
勉強だ。
桔梗による勉強会が毎日開かれている。
アルマは元皇族と言うだけはあるのか、
ある程度の計算とこの世界の歴史的なものは既に学んでいたため、
より高度な数学や、この世界には浸透していない物理学等を。
エルナは簡単な四則演算等を中心に教えている。
正直俺たちは一生このままの生活で平気なのだが、
アルマとエルナにまで強要するつもりはない。
だからもしも、
もう少し大きくなってここを出ていくという事になった時の為に備えて、
俺たちの持つ知識を存分に与える事にしたのだ。
この世界から見たらとんでもなく高度なモノだったりするが、
あって損するでも無し、
そこは気にしない。
さて、俺も時間を持て余しているため、
帝国から拝借してきた書物を読み漁っている。
歴史などは国によって偏った記述があることも考え、
アルマと知識のすり合わせをしながらだが、
魔法、文化文明、魔道具、地理、魔物、各国の情報などなど、
意外と読んでて退屈しないため改めて拝借して正解だった。
紙は一応普及しているみたいだが、
それでも書物が貴重品なことには変わり無いみたいだしね。
ちなみに拝借した書物は全部で百冊近い。
タイトルだけでは中身を把握できない物もあったため
手当たり次第に位相空間に放り込んでいたのだ。
帝国の好意?に感謝。
桔梗も俺と同じように本を読んだり、
あとは俺や牡丹、特にアルマを誘って将棋を指して暮らしている。
彼女は知識欲が高く、今ではいろんな分野に精通していて歩く辞書のような状態だ。
人に教えるのも上手いため教師役には適任なのだが、
同時に狐の本能なのかなんなのか人をおちょくるのが玉に瑕。
その豊満な胸を押し付けてきたり、
風呂に乱入してきたり、
全裸で布団に潜り込んできたり。
これが牡丹は止めてくれるかと思いきや便乗してくるからなんとも。
まあ前の世界でもしょっちゅうだったから慣れたし、
普通に嬉しいからいいんだけど。
ちなみに手はまだ出してない。
童貞チキン言うなかれ。
そいうのはちゃんと責任を取れるようになってからと決めてるのだ。
ぶっちゃけもう家族みたいなモノなんだから何を今更と思うかもしれないが、
これは俺のポリシーの問題。
まあそのうちタイミングが来たら改めて告白でもしようかなとは思ってる。
あ、そもそも俺は一夫一妻とかは気にしない。
何人囲おうが蔑ろにさえしなければ問題ないというのが俺の考えだ。
女子側の仲が良好なのが前提だけど。
牡丹は地球にいた頃同様、
家事、裁縫にアルマの指導など充実していているようで、特に問題はなさそう。
アルマの物覚えも良いようで、早々に仲は深まったみたい。
紫苑の方は先日完成した鍛冶小屋を存分に活用し、
刀を作っては試し斬りのために森に行くという毎日を過ごしている。
意外と面倒見のいい紫苑は、割と頻繁にエルナに連れ回されているのを見かける。
とまあこんな感じに平和な日常を送っているのだが……
「…………退屈だ」
昼過ぎ。
リビング脇の縁側にて、
後ろで勉強に励む姉妹の声を聞きながら庭をぼーっと眺め、呟く。
やはりというか何というか。
異世界の隠居は退屈だった。
平穏、怠惰を求めニート生活を目標としていた俺ではあるが、それは地球でのこと。
異世界だろうとただダラダラできるのは、
それはそれは至福だろうと考えていた訳だが、間違いだった。
当然だ。
異世界にはテレビがない。
漫画もラノベもゲームもない。
する事といえば、
本を読んではぼーっとし、
たまにアナログゲームをしてはぼーっとし、
また本を読んではぼーっとし、の繰り返し。
このままでは脳が溶けてしまいそうだ。
この世界の知識は蓄積していくけど、毎日同じ作業の繰り返しは良くない。
廃人まっしぐらである。
それはまずい。
怠惰を愛する俺ではあるが、
頭空っぽの思考停止人間になるのはプライドが許せない。
せめて一月に一度、家から出て何かしたいところ。
さて、いかにしたものか。
「なんだ若、暇そうだな。
それなら一つ、手合わせでもしねえか?
前に言ってただろ?」
そうして思案していると俺の呟きが聞こえたのか、
庭で体を動かしていた紫苑がそんな事を言ってきた。
が、んー……今は気分じゃない。
何かはしたいが、戦うとかそんな気分ではない。
却下だな……
「シオンおじちゃんとミナトにぃ戦うのー?
あたしもみたーい!」
「お二人の戦いですか……少し興味があります」
おっと、嫌な予感。
「なんぞお主ら、戦闘に興味があるのか?」
「うん!勉強よりおもしろそー!」
「そうですね。戦闘がというよりも、お話だけでは想像の限界がありましたから。
この機に実際に見てどれ程の力をお持ちなのか勉強できたらと」
「……たしかに。
私たちの力を見てもらういい機会かもしれませんね」
あれ〜?
なんか牡丹もやる気になってるし。
いつぞやは全く乗り気じゃなかったはずなんだけどなぁ。
「ちょいちょい。
まだやるなんて一言も言ってないんですが」
「みっくん?
別にダラダラ過ごすのを止めろとは言いませんけど、たまには体を動かさないと
この森の魔物にすら苦労する事になりかねませんよ?」
「う’’っ、それは嫌だなぁ。
……でも、仮にやるにしてもアルマとエルマは連れて行けないよ?
危険だし」
「何を言ってるのじゃ。
そんなものぬしさまが結界を張ってやれば良いだけじゃろうて」
チッ。
四面楚歌とはこの事か。
「エルナはまだしも、アルマは森に出て大丈夫なの?
ここに来るときは相当怯えてたと思うんだけど」
「皆さんを信じてますので」
迷いのない瞳でそんな事を言ってくれるアルマ。
「……はぁ、しょうがない。
んじゃ、十分後出発ね」
信頼されるのって存外嬉しいモノだよね……
進め方が下手ですみません……。
今回までが連続投稿。
次回からは少し間隔を開けて投稿していきます!