はじまり
新たな生活の始まりはドキドキしますよね
三十分後、全員がリビングに集まった。
どうやら俺がだらけていた間に家具や魔道具関係も設置してくれいたようで、
リビングにはあの、フィムさんの執務室にあったのに似たフッカフカソファーをはじめ、
テーブル、棚、暖炉の魔道具などうまい具合に配置されていた。
テレビは無いが、リゾート地の別荘と思えば問題ない。
……俺は何をしていたのかって?
和室があるんだ。ごろごろしていたに決まってる。
部屋にはベッドを置いただけだ。
特にモノもないし。
「さて、みんなが集まったところで早速待ちわびただろう俺たちの話をしようと思うんだけど。
何から話せばいいかな?」
桔梗たちとの出会いから?
この世界に来たところから?
それとも俺の生まれから?
とはいえ長々話すのも面倒だしなぁ。
「それなら質問形式にすればいい。
ほれアルマとエルナ、気になることがあるなら好きなように質問せい。
時間の制限もなし、なんでも答えるぞ。……ぬしさまが」
おい。
押し付けるんじゃない。
「あ、あのそれでは質問いいですか?」
「……まあ、特に隠す事もないしいいよ。
なんでもどうぞ」
「それでは…………あなたは方は何者ですか?どこの国の人なんですか?お名前も聞いたことありませんし、冒険者ではないと思うのですが、旅人さんなのでしょうか?ボタンさんが魔物になったのはどういうことなんですか?そもそもあんな魔物見た事も聞いた事もないのですが何なんですか?というかここは死の森ですよね?なんでこんな場所にこんな立派な家があるんですか?周りの魔物はどうなってるんですか?このままじゃ襲われるんじゃーーー」
おうおうおうおう。
堰を切ったように出るわ出るわ質問の嵐。
こんなに一気に喋って、ホントは答えを聞く気なんてないんじゃないか?
雪崩のような勢いの詰問に頬を引きつらせ、助けを求めるように桔梗たちの方へ顔を向ける。
「ききょうおねぇちゃん、何さい?」
「ん?そうじゃなぁ、妾はもう数えるのをやめて久しいの。
……そう言うエルナはいくつなのじゃ?」
「んー?エルナは六さい!
ボタンおねぇちゃんは?
おねぇちゃんも数えるのやめた?」
「そうですね、ずいぶん前にやめました。
それよりもエルナちゃん?
女性に年齢を聞くときは相応の覚悟をしなくてはいけませんよ?
聞かれて嫌な人もいるんですからね?」
「んーよくわかんないけど、わかった!
シオンおじちゃんは……いいやっ」
「なんでだよ!」
ほのぼのしていた。
幼女がいる場所特有のぽやぽやムードを出してやがる。
こっちは未だに詰問の嵐が耳を打っているというのに。
完全に自分の世界に入っているのか止めても反応ないし。
「ーーーーミナトさんは何歳なんですか!?」
あ、終わったようだ。
いや、ていうか最後に出たのが年齢って。
完全に迷走してるじゃん。
「はっ!
す、すみません!
聞きたいことが多すぎてついっ……」
「いや、まあ、うん。
とりあえず俺から話すことにしよう。
質問はその後でしてちょうだい」
「わ、わかりました」
それからはなるべく簡潔に俺たちのことを話した。
異世界で陰陽師という職に着いていたこと。
桔梗たちが元は怪異であるということ。
帝国に召喚され、反目してムステルドムに来たこと。
隠居するために、人が来ないであろう深魔大樹海に拠点を建てたことなどなど。
「あ、あの。帝国と反目というのは、その、大丈夫なんですか?
あそこは気性の荒い軍事国家として有名ですし、狙われたらさすがに」
軍事国家ねえ。
あれが、ねえ。
「問題ないよ。
わざわざこの森までは来ないだろうし。
そもそも攻めてきたところで、
いくら人数集めようと俺たちが負けることはないだろうし。
心配なし!」
「そ、そうですか。
まあたしかに、あのボタンさんを見たら負ける気はしないですね」
そうでしょうともそうでしょとも。
結界を突破できずに散っていく帝国兵が目に浮かぶわ。
「あとは?質問ない?」
「は、はい。
最後に、なんで見ず知らずの私を助けてくれたのかなと。
あ、あの大変感謝してはいるんですが、
実際のところ私たち姉妹を連れてきても何のメリットもないですし。
むしろ……」
「流れ、だね」
「え?」
「だから、流れだよ。
実際、目的があって呪いを解いたわけじゃないし。
場合によっては解呪してさようならもあり得た訳だしね。
ただ、エルナに目の前でお姉ちゃんが死んじゃうなんて言われて、
自分に助ける手段があるのに無視するのはさすがに後味悪すぎたってだけ。
で、事情を聞いて、放置するわけにもいかないから匿ったって感じ。
幸い金には困ってないし、隠れ蓑にもここはベストだったしね。
だから、流れ。
まあ、これも縁だと思って受け入れてもらうしかないかな」
「そう、ですか。
……では改めて、この度は本当にありがとうございました。
死を待つしかない身だった私を助け、
そればかりか私たち姉妹に安全をもたらしていただき、感謝の念に絶えません。
まだ何の役に立てるかは分かりませんが、
これから少しでも恩返しできるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します」
どうやらとりあえずは納得できたようだ。
元皇族の名残なのか歳に見合わぬ堅苦しさは残るが、まあその内ほぐれてくるだろう。
時間はたっぷりあるし、徐々に距離を縮めていけばいいか。
「うん、まあ気負わずにね。
これからは一緒に暮らしていくわけだし、俺もあいつら三人も
家族みたいなものだと思ってるからさ」
「はいっ。
まずは、家事からお手伝いさせていただこうと思います!
父が料理を良くしていたのもあって、
フレムローズ家では皇族も家事をするように育てられましたので少しはお役に立てるかと!」
なんて思ったけど、わりかし心配はいらないかもしれない。
ていうか王侯貴族が家事とは珍しいんじゃないかな?
イメージ的に。
「あら、それならちょうどいいですね。
エルナちゃんは小さいから後にして、
アルマちゃんには私が掃除、洗濯、炊事など、家事の一通り教えてあげますっ」
あ、牡丹がウキウキだ。
こうして、異世界に来てから三日。
元皇女姉妹が加わるというイレギュラーはあったものの、
ようやく、のんびりだらだら惰眠生活の基盤が完成したのであった。
ーーー
あの後、とりあえずの話し合いとも呼べぬ団欒を終えた俺たちは自由時間となった。
ひとまずアルマは色々考えをまとめると言って自室へ。
まあ、俺らの話は普通に考えて突拍子もないモノだし、考えたい事もあるだろう。
エルナは邸宅の探索へ。
出会いの影響もあってか特にキキョウに懐いたらしく、
手を引いて連れて行かれていたため安全面では問題ないだろう。
一人で結界の外に出たら速攻で魔物の餌食だろうからね。
牡丹は姉妹の服を作ると言って自室へ。
ちなみに、俺たちが着ている和服も牡丹作だ。
紫苑は鍛冶工房を建てたいらしく、俺の土人形を借り受けて外へ。
以前言ったかと思うが、紫苑の使う刀は自作だ。
俺と出会った当初は徒手空拳だった紫苑だが、
日本に来て文化に触れたことで刀に憧れを抱いたらしく、
さらに我が武家屋敷には鍛冶場も備わっていたのも相まり、見事刀造りにハマったというわけだ。
で、俺は再び和室へ。
拠点もできたし、学校もないし、仕事もない。
怠惰の限りを尽くし、たまに街へ行く。
素晴らしきかな隠居生活。
不満があるとするならインターネットがないくらいだが、まあ問題ない。
そうして畳の香りを感じながら、惰眠を満喫した。
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