拠点完成
翌日。
俺たちは金を払い、姉妹はお礼を述べてから宿を後にした。
その際に女将……クラナさんに姉妹をくれぐれもよろしくと言われたのだが、
その時も般若を幻視した。
どうやらこの姉妹にはかなり目をかけていたらしい。
もちろん承諾しときましたよ。
今更見捨てるなんて言ったらうちにも般若が降臨する事になりかねないし。
宿を出てからは特に街に長居する理由も無いため、さっさと門へと向かう。
……ないよね?
道中、認識阻害する事を忘れない。
まず間違いなく彼女ら姉妹の監視はいるだろうし、単純にうちの美女二人が視線を集めすぎるのもあるしね。
面倒事は無いに越した事はない。
「まさか一日でこんなに回復するなんて。
それに呪いも治していただいて……。
ミナト様はさぞかし高明な光魔導士様だったのですね」
歩いてる最中アルマがそんなことを言ってきた。
まあ確かに先日まで死を待つ身だった体がこうして普通に街を歩けてるのだから驚くのも当然かもしれない。
しかし残念。
高明でもなければ、魔導士でも無いし。
光魔法でも無い。
まあそんなこと知らんだろうけど。
それからも歩きながら軽く雑談をして親交を深めていると、
徐々に門に近づいている事に気づく元皇女姉妹。
「あの、ミナト様?
たしか今からお家へ向かうのでしたよね?」
「そうだよ?」
不思議そうにしている理由は分かっているが、
あえて何を当たり前なことをとでも言うかのように返事する。
彼女らにとっては知らぬが仏だしね。
ギリギリまで素知らぬふりを貫く事にしたのだ。
これは彼女達の精神衛生を考えてのことで、決して騒がれたら面倒とか言う理由では無い。
決して。
「おうち、どこにあるのー?」
だがしかし、子供とは時に恐ろしいもので、
えてして彼ら彼女らの辞書には躊躇いというものは存在しないものだ。
そうして今、
俺は追求を上手くかわし、
姉は遠回しに聞き出そうとするという水面下における戦いをガン無視してド直球で核心を聞いてきた。
なんというルールブレイカー。
……まあ馬鹿正直に答えなければいいだけなのだが。
「絶対に人に襲われない場所だぞ〜」
人以外には襲われるけどね。
それからも目的地は言わずに街道を歩く事しばし。
人通りが無くなったところでふいに道を逸れる。
「ここら辺でいいかな……。
さて、アルマにエルナ。
今から、君たちにとっては中々にショッキングな、
ともすればとても恐ろしく感じるような事が続々と起きるが安心してくれ。
決して君たちに害は及ばないし、及ばせないから」
「おおー!なんだー!?」
「……え。あのちょっと待「ボタン頼む」」
「はい」
アルマの声を遮るように指示を送る。
すると瞬く間に牡丹が変化していく。
言わずもがな全長五十メートル越えの本来の龍形態だ。
「うわぁぁぁぁぁ!
すごぉーい!
きれー!でかーい!かっこいー!」
おお。
エルナは恐怖どころか大興奮である。
子供ゆえの無邪気さに助けられたか。
まあ確かに牡丹は巨体でありながら、真っ白の美しい容姿をしているからな。
見惚れて当然。
我が家の自慢の龍である。
そして、静かになった姉を見る。
「……綺麗」
ってあら。
静かだからてっきり気絶してるかと思ったら、アルマも完全に魅了されてるじゃないですか。
なんだ?
姉妹揃って大物か?
あ、元皇女か。
元々肝は座ってるのかもしれない。
それともこの世界の人間は皆これくらいじゃ驚かないとか?
まあいい。
これなら行き先言っても問題ないかな?
いや、あえて言う事も無いか。
『さあ、乗ってください。
さっさと行きますよ』
わずかに嬉しそうな声音の牡丹の言葉を合図に俺たちは深魔大樹海へと飛び立った。
ーーー
『そろそろ着きますよ』
最初、空を飛ぶという非現実的な状況に興奮と不安であわあわしていた姉妹だが、
牡丹便の乗り心地の良さと、空から見下ろす絶景もあり、すぐに落ち着きを取り戻した。
この世界の人にとっては龍を見るよりも空を飛ぶ方が心乱されるものなのだろうか。
地球人との感性の違いだな。
そうして小一時間ほど空の旅を満喫したところで牡丹からお声がかかる。
どうやら拠点の上空に着いたらしい。
徐々に高度が下がるにつれて見えてくる地平の先まで続く広大な樹海。
と、低空で群れる大量の魔物。
当然この大陸にこんな特異な森は一つしかない訳で。
「み、みみみみ、ミナトさんっ!こ、ここって!
魔物が!いっぱい!魔物がいっぱい来て!あわわわわわわ!」
「とり〜〜〜〜〜!」
そりゃ当然気づくよね。
アルマ曰く子供がまず最初に危険な場所として教えられる場所らしいしね。
この飛行中に散々聞きましたとも。
あ、ちなみに呼び方はミナト様からミナトさんに変わったよ。
心の距離が縮まった証拠。
エルナには厳つい魔物もただの鳥に見えるらしい。
うん、幸せでいいと思う。
「まあ落ち着いて。
見てごらん、ほら」
そう言って視線を魔物に促すとそこでは、
次から次へとアホみたいに突っ込んできては牡丹の結界に触れた瞬間に消滅していく魔物たち。
今回は外敵対策に雷系の結界を張っていたようだ。
いささか威力高すぎな気もするが。
他の魔物が死んでるのを見て学習しないのだろうか。
あれか、鳥が透明な窓の存在を認識できずに突っ込んで死ぬみたいな感じか。
たまに学校で起こるよね。
「ひいぃぃぃぃ!」
無事だと分かっていても魔物がギャアギャア言いながら自分に向かってくる光景は
いかんせんショッキングすぎたようで、アルマは顔面蒼白で蹲ってしまった。
エルナは何が面白いのか爆笑してるんだけどなぁ。
そうして特に問題なく?拠点に降り立った俺たちを出迎えたのは、整列する土人形たち。
そして、その後ろの島にドンと構える建物。
というか…
「立派なお庭ですねえ」
牡丹が全体を見回してこぼす。
邸宅だった。
現代の日本であるような、オシャレな和風モダンの邸宅であった。
立派な庭園も整備されている。
…控えめに言って想像以上である。
ファンタジーには似つかわしくないほど近代的でオシャレだが、問題ない。
むしろ最高である。
「こ、これがミナトさん方のお屋敷……」
「すごーーー!」
魔物パニックから立ち直ったアルマが、孤島の邸宅を見て感嘆の息を溢す。
どんな城に住んでたかは知らないが、それでもこの邸宅は綺麗と判断されたらしい。
さっそく中を見たいところだがとりあえず、
「諸君!
此度は素晴らしい働きだった!
このような短時間で立派な家を建てるとは見事という他ない!」
「「「「「ムーーー!!!」」」」」
「あ、あのこれは?」
「なに、ただのおふざけじゃ」
「気にしなくていいですよ」
「はぁ…」
例の如く女子の言葉は無視だ。
ていうかこれだけの家を見てテンション上がらないとかどうなんだ。
絶対おかしい。
「しか〜し!」
「「「「「ム!?(おお!?)」」」」」
「いくら外観がカッコよかろうと、
中身が不便では何の意味もない!!
そこで、早速検分させて貰うがいいな!?」
「「「「「ムーー!(おー!)」」」」」
ということで早速中も調べる事にした。
……エルマ、良い子。
結論から言うと素晴らしかった。
部屋は寝室八つにリビング一つ。天井にはシーリングファンもついたおしゃれ具合。
さらに和室も一つ付いており、ほどよく和洋折衷を体現している。
上下水道はもちろん完備。キッチンは大理石のアイランド型。
そして三つの檜風呂。
立て札には左から男湯、湊湯、女湯と書いてある。
どうやら分けてくれたらしい。
でも湊湯って。
分かりやすいからいいけども。
まあ総じて、どこぞのスイートのような出来である。
「「「「「…ムムム?」」」」」
探索を終えた俺たち六人。
想像以上の出来に唖然とする事しばし。
感嘆ひとつ。
「…諸君!」
「しょくん!」
「「「「「ム…」」」」」
「…大儀であった!!!」
「たいぎであったー!」
「「「「「ム、ムーーー!!!!」」」」」
依頼主(湊)の絶賛を受けた土人形部隊は達成感による歓声を上げ、
一人また一人と崩れていった。
ご苦労。
そしてエルナ……ええ子。
「まさかこんな短時間でこれほどのものを作るとは…
これを知ったら世の職人達が絶望するじゃろうな」
「まあいいじゃないですか。
これでこの世界での生活基盤も盤石になりましたしね!
それにキッチン!
大理石のアイランドキッチンなんて!
台所を預かる身としては夢のようですよ!」
何はともあれ、好評なようだ。
と言うかこの出来で文句を垂れる奴がいたらそいつはもう死刑である。
「このようなお家は見た事も聞いた事もありません。
見た目も作りも洗練されていて……。
ミナトさんたちは一体」
「そうだね。その話をする前にまずは、各自自室を決めよう。
ああ俺は奥の端部屋ね。
自分の部屋は自由にしていいから、だいたい三十分後にリビングに集合。
アルマとエルマは一緒の部屋でもいいから、
とりあえず牡丹から道具とかもらって整えるように。
んじゃ解散!」
「はい」
「はいっ」
「おう!」
「は、はい」
「おー!」
指摘等ございましたらどしどし下さい