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元皇女

よろしく

 





「す、すみません。

 恩人様の前で不愉快なものをお見せしてしまいました……。

 改めまして、わたしはアルマと申します。

 この度はなんとお礼を申しあげれば良いか」

 

「グズッ。おにいちゃん、グズッ、ありがとぅ」

 

 

 散々泣いて無事を喜んだ”おねえちゃん”改めアルマは、

 呪いは消えたとはいえ体力は戻っていないためふたたび横になった。

 泣くのって結構体力使うのよね。

 分かる。

 

 

「うん、まあ礼はいいよ。

 袖振り合うも多生他生の縁。

 今回は運がよかったとでも思っておけばいいさ」

「そ、そんな。

 それでは私の気が済みませんっ。

 しかしどうすれば。

 この身ではご奉仕するのもままなりませんし……」

「いや、ご奉仕とかいらないから。

 …それより、呪いに心当たりはないのかい?

 呪いなんて偶然かかるモノじゃないんだし、

 場合によっては今後も狙われる可能性もあると思うんだけど」

「そ、それは……」

 

 

 ていうか確実に狙われるよね。

 呪うってことは少なからず殺意があるってことだし。

 かけられてた呪いは死に至るレベルのヤツだったし。

 

 

「心当たりは、あります。

 しかし……」

 

 

 ああ、あるみたい。

 ていうかなんか込み入った事情があるっぽい。

 あれ?

 これは面倒事の予感。

 

 

「そっか。まあ人には言えないことの一つや「実は……」あ、言うのね」

 

 

 話すらしい。

 

 

 

 ーーー

 

 

「あ〜〜〜……」

 

 

 話を一通り聞いた。

 想像以上に面倒事だった。

 

 要約するとこう。

 

 彼女二人は元々は皇女だった。

 ルミニア王国の西。

 リシュテン公爵、ゲルマン公爵、アマン公爵、エキダン公爵。

 現在これら四公爵が支配しているその地は、元はフレムローズ皇国という一つの国だった。

 

 しかし一年前、王が原因不明の病で崩御。

 するとなぜかとんとん拍子で反乱が起きた。

 危機を感じた王妃と娘二人は数名の従者とともになんとか逃亡するも、

 四公爵の手先と思われる人間に追いつかれる。

 母と従者は残って交戦し、自分たちは逃された。

 途中、馬が倒れたり、がむしゃらに走ったりでボロボロになりつつも、

 なんとか国を超える事に成功。

 それからは、村で数日匿ってもらったり、行商人に協力してもらったりでなんとかこの街にたどり着く。

 その時に協力してくれたのが某副会頭で、その縁でこの宿を紹介してもらったらしい。

 それからは宿の手伝いをさせてもらいながら生活をするが、

 すぐに体調が悪化し始め寝たきり生活になった。

 最初は、金の許す限り教会の治癒士や、薬師などに当たってみたが原因はわからずじまい。

 最後の希望としてエルマが冒険者ギルドに依頼に行くも、

 全く掛け合ってもらえずで絶望ダッシュしたところで桔梗に会ったと。

 

 なるほど。

 

 俺たちにこの宿を勧めたのはこれを目論んでのことだなこれは。

 フィム氏め、謀ったか。

 まあ別にいいけど。

 ていうか……

 

 

「まあ十中八九その四公爵とやらの仕業じゃろうの。

 おおかた、逃走中に千切れた服に着いた血でも使われたんじゃろう。

 他国では表立って襲撃すると問題になるからの呪術というわけじゃな」

「はい、おそらくは。

 それが失敗した以上暗殺者を送ってくる可能性も高い、です……」

「ん?もう実権が握られてるならそこまで狙われることもないんじゃ?

 私怨なら死ぬまで諦めないかもだけど」

「普通の国ならそうかもしれませんが、私たち、いえ、

 フレムローズ家の場合はちょっと特殊なんです」

 

 

 特殊とな。

 

 

「私たちフレムローズ家はなぜか代々、

 一芸において特出した才能を持って生まれるのです。

 生憎わたしはまだ判明していませんが、おそらく四公爵は

 この皇家特有の力で報復に来ることを恐れていると思うので……」

「それで狙われるってわけかー。

 でも個人に恐れるってそんなになの?」

「はい。たとえばですが、父は料理の才だったので目立ちませんでしたが、

 先代の王、祖父に当たる方は光の魔法で使えないものはありませんでした。

 残念ながら自身にはかけられなかったようで、早逝してしまいましたが……。

 他にもかつては全ての魔法を使えた方や、剣術に類稀なる才を持った方もいたそうです」

 

 

 それがどれぐらいすごいのか分からない。

 そもそもこの世界の魔法が何をできるのかもまだ知らないし、

 剣術なんて言われても俺の中では帝国の騎士の人と紫苑ぐらいしか知らない。

 比較対象が少ない。

 

 

「なるほどねー。

 狙われる理由は分かった。

 ……うん、決めた。うちで匿ってしまおう。

 安心安全好立地。ベストだと思うんだけど桔梗はどう?」

「ぬしさまが決めたなら妾に異論はない」

「えっ?」

「なら問題なし。牡丹も話せば許してくれるだろうしからオッケーだね。

 ということだから、これからよろしくね。

 詳しくは明日話すから。今日はとりあえずゆっくり休んで。

 んじゃ」

「あのっ!?」

 

 

 そう言って話をぶった切って部屋を出た。

 いやね?

 どうせ提案しても対価が〜とか、迷惑が〜とか言われるの分かってるし。

 手を差し伸べた時点で俺の中で放置は選択肢として残ってない訳で。

 なら、護符とかで守ればとか思うかもだけどどれだけ予防線張っても心配になるのは目に見えてるし。

 だったらもう手元に置いたほう早いでしょ?

 ていうかぶっちゃけやり取りするのが面倒。

 そもそも今日はダラダラする予定だったんだから、もう限界なのよ。

 だからもう決定事項として認めてもらう事にしたわけ。

 あ、ちなみに幼女の方は疲れたのか途中で寝てたよ。

 幼いながら姉の心配をして冒険者ギルドに行ったら追い返されたり、

 幼女にはいろいろ体力的にも精神的にもきついものがあったのだろう。

 

 

「あの場ではああ言ったがよかったのか?匿う事になんかして。

 面倒事を呼び込むも同然じゃぞ?」

 

 

 なんて考えてたら桔梗にそんなことを言われた。

 何を今更である。

 

 

「いいんだよ。

 助けた時点で首を突っ込んじゃったわけだし、

 それに毎日大樹海の家で無事かどうか気を揉むのもストレスだしさ」

「……ふむ。なら良いのじゃが。

 ボタンの説得は大変そうじゃの?」

「いやいやいや、何をひとごとみたいに言ってんの。

 そもそもエルナを連れてきたのは桔梗なんだからそこは協力してもらわないと」

 

 

 

 結局、牡丹の説得には二時間を要した。

 ロリがいいんですかとか。

 ハーレムを作りたいんですかとか。

 私たちじゃ満足できないんですかとか。

 それはもう大変だった。

 牡丹、ヤンデレ気味ガー龍(がーる)である。

 

 

 

 ーーー

 

 

 翌日、俺たちは全員でアルマ達の部屋に来た。

 今後の予定と挨拶も兼ねてである。

 ノックをして部屋に入る。

 

 

「おーう、元気「おにいちゃん!」……みたいだねー」

 

 

 ドアを開けた瞬間幼女弾丸が突撃してきた。

 一気に懐かれた。

 ふむ、悪い気はしない。

 ……ロリコンではないぞ?

 改めて言っとくが、可愛くない子供は嫌いだからね?

 とまあそんな事は置いといて、

 一旦エルナを引き剥がす。

 

 

「おはようございます皆様。

 それで、あの、昨日のお話なのですが……」

「まあまあその話の前に自己紹介ね。

 俺は湊。いろいろ詳しい話は後で話すけど、とりあえずよろしくね」

「ミナトおにいちゃん!」

 

 

 おにいちゃん、良い響きだ。

 弟妹兄弟を持たない人間がおにいちゃん呼びに憧れるのは世の常だと思うんだ。

 うん。


 

「妾は桔梗じゃ。

 昨日は急に拉致するような形になってしまってすまぬの」

「キキョーおねえちゃん!」

「牡丹です」

「ボタンおねえちゃん!」

「紫苑だ!」

「シオンおじちゃん!」

「なんでだよ!」

 

 

 紫苑はおじちゃんらしい。

 

 

「と、まあ俺とこの四人がこれから一緒に生活する事になるから。

 ちなみに異論は認めません」

「あ、あの、私たちに関わるとご迷惑に……

 確実に狙われてしまいますし」

「いや、それなら問題ないよ。

 まずこの世界の人に俺たちが負ける事はないだろうし、

 そもそも俺たちの拠点に来れるかすら怪しいしね」

 

 

 この世界の強者がどれほどのものかはまだ分からないけど、

 それでも俺たち四人が負ける事はそうそうないだろう。

 それに、死の森とすら呼ばれてるような場所にわざわざ来るとは思えないしね。

 

 

「しかし……」

 

 

 渋るかー。

 素直に甘えればいいのに。

 俺だったら養ってあげるって言われたら速攻でついて行っちゃうけどなー。

 いや?そもそも信用されてないのでは……。

 たしかに妹と一緒だったとはいえ、

 突然やってきて呪いを解いたと思ったらこれから一緒に暮らすなんて言われて。

 よくよく考えなくても俺たち不審者なのでは。

 

 

「みっくんがこう言ってるのですから従っておくべきかと思いますよ?

 命を救ったのは愚か、今後も守ってあげると言っているんですから

 素直に甘えておくのがあなたの、ひいては妹さんの安全のためだと思いますが」

「っ!それは 。

 ……分かりました。

 申し訳ありませんがお言葉に甘えさせていただきます」

「おねがいしますっ!」

 

 

 牡丹恐るべし。

 どう言いくるめるかと思案していたら

 有無を言わせないオーラで、渋っていたアルマを説得してしまった。

 ちなみに理解してるのか呑気なだけか、エルナは最初からノリノリである。

 

 

「よっし。そしたら今日はまだ休んで、明日俺たちの家に連れて行こう。

 体力戻ってないだろうけど移動とかとは問題ないから心配なしっ。

 あとエルナは、世話になってたみたいだからこの宿の人に挨拶とかしとくんだぞ」

「うんっ!行ってくるっ!」

 

 バタンッという音を残して部屋を出るエルナ。

 早速挨拶しに行ったようだ。

 子供の行動力はすごい。

 さて、アルマにはとりあえず少しでも回復が早まるように術を施しておく事にしよう。

 

 

 ー陽道術ー

「『回帰の羽衣』」

 

 

 ベッドの上で半身を起こすアルマに向けて翳した手から光が帯となって現れ、

 瞬く間に全身を包んだ。

 少しでも移動に耐えられるように回復することを期待だ。

 なにせ、牡丹便だからな。

 精神が弱っていたら失神してしまうかもしれない。

 ……いや、その方がいいかもしれないが。

 行き先は深魔大樹海だし。

 

 

「っ!?これは……

 あ、ありがとうございます」

 

 

 突然の術に一瞬身を縮めたアルマだが、回復の術だと気づいたようで息を吐いた。

 驚かせてしまったようだ。

 

 それから、まだまだ体力が戻ってないため再び横になったアルマの元を後にして俺たちは自室に戻る。

 

 

「さて、という事になったんだけど、

 服とか食料とかって買わなくても大丈夫?」

「問題ないですよ。

 食料はすでに大量に買い込んでありますし、衣服に関してはこの町で買うよりも

 私が作ってしまった方がいいものになりますから」

 

 

 場合によってはこれから買い足しに行かないといけない事も考えて聞いてみるとそんな事を言われた。

 服は作ってあげるらしい。

 あれ、意外とノリノリなのでは。

 

 

「た、他人には興味ありませんけど、

 匿うと言った時点で今後も養っていくつもりだったのでしょう?

 それならこれからは家族のようなものですからねっ」

 

 

 ナチュラルに心を読み、少しムクれつつも恥ずかしそうな態度でそう言う牡丹。

 なるほど。

 牡丹の中では彼女達は家族認定されたらしい。

 まあ実際俺も既に捨て置けないくらいには情が移っていたわけだが。

 昨日はなんだかんだ言っていた牡丹も

 実際は妹ができたみたいでうれしかったという事かな。

 

 

「しかし大丈夫か?

 この世界の人にとっちゃあの森はその名の通り地獄のようなものなんだろ?

 下手しなくてもパニックになんじゃねえか?」

「んー。

 ……まあ慣れるでしょ。

 それに拠点には魔物は入ってこないし、俺たちがいれば無問題(モーマンタイ)

 

 

 ……最悪拠点に到着するまでは夢の世界に旅立ってもらおう。

 

 

「というか、そもそも妾達もまだ完成した家を見てすらおらんのじゃがの」

 

 

 桔梗の呟きはスルーである。

 我が土人形部隊の働きに期待する。






 

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