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出会い






 翌”昼”。

 窓から差し込む眩い光に目を覚ます。

 

 

「おう、やっと起きたか若」

「ああ、もう昼か〜。

 ……腹減った」

 

 

 そう言って位相空間からランチ◯ックを取り出し口に含む。

 ……今日はたまごのやつ。

 

 普段は牡丹の料理が朝食として出るのだが、今はキッチンが無いため

 環境が整うまではこんな感じだ。

 ちなみに日本にいた時に各自、俺が作った位相空間に繋がるポーチを渡していたため、

 各々好きに詰め込んでいた物を食べている。

 

 と、食料を腹に詰め込み頭が回ってきたタイミングで牡丹と桔梗がいない事に気付

 く。

 

 

「シオン、女子二人は?」

「いやいや若、あいつらは女子って年齢じゃ……っ!!!???」

 

 

 紫苑が顔面蒼白になった。

 どこからか殺気でも飛んできたんだろう。

 タブーに触れたんだから当然の結果だ。

 

 

「紫苑。女の子に年齢についての不用意な発言はご法度だよ」

「あ、ああ。そうだったな。

 (いやいや、なんで気付けんだよあいつら)」

「で?二人は?」

「ああ、あの二人ならさっき色々買い物に行くって言って出てったぞ。

 家具とか食料とか生活に必要なもの諸々って言ってたっけか」

 

 

 どうやら俺が動かないことを予想して行ってくれたらしい。

 あざす。

 ぶっちゃけ、昨日召喚されてから頑張りすぎた。

 もう当分何もやる気でないからとても助かる。

 ……一生大切にしよう。

 家族大事。

 

 

「紫苑は今日なにすんの?」

 

 

 刀の手入れをしている紫苑に予定を聞いてみる。

 

 

「んあ?そーだなー。

 適当に街をぶらついて酒屋にでも行ってくるかな!

 この世界の酒のレベルによっちゃあ日本で買い溜めておいた酒は

 大事にしとかないといけねえしな!」

 

 

 ということらしい。

 なんとも紫苑らしい過ごし方だ。

 面倒事さえ起こさなきゃ好きにしてくれて結構である。

 

 

「おー。りょーかい。

 ……んじゃ俺はもっかい寝るわ〜」

 

 

 俺は特にやることもないため寝る事にした。

 惰眠ばんざい。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「さて、みっくんは今日、ナマケモノでしょうから

 私たちで買い物してしまいましょう」

「うむ、昨日は珍しく積極的に動いておったからの。

 しょうがないじゃろう。

 して、何から買いに行くのじゃ?」

「はい。まずは家具から見に行こうかと。

 まだおうちは完成してませんが、お金はたんまりありますし

 今日は気に入ったものがあればどんどん買ってしまいますっ!」

 

 

 牡丹と桔梗は湊の想像通り、動かないことを予期して二人で買い物に出ていた。

 ちなみに紫苑を連れていないのはなんとなくだ。

 特に意味はない。

 

 

「やはり、鬱陶しい視線がないと気分も楽なものじゃの」

「そうですね、これなら最初からやっておけばよかったです」

 

 

 副会頭からもらった提携店舗の載った地図を眺めながら歩く二人だが、

 今は以前のようにやたらめったらと視線を集めてはいない。

 というのも、桔梗は炎操作と幻術、牡丹は天候操作と多能結界が保有能力なため 、

 それぞれ幻術と多能結界の認識阻害で姿を一般人レベルに格下げしているのだ。

 

 

「「……」」

「紫苑のやつか」

「シーくんにはお仕置きが必要なようですね」

 

 

 道中、ふいに不愉快な気配を感じた二人は殺気を飛ばす。

 と同時に紫苑への説教を決めた。

 女の勘とは決して侮ってはいけないのだ。

 

 

 そうして街を歩く事十数分。

 到着したのは東の工房区域にあるお洒落な外観の家具工房兼店舗。

 

 本来、一般レベルの品質の物であればマチェスタ商会などがある西の商業区域の卸売店舗で十分なのだが、

 副会頭の執務室にあったソファーを気に入った湊がそれを作った職人の店舗を聞いていたのだ。

 基本的に質が良い物を求めるなら、工房に行くのが常道らしい。

 

 

「ごめんくださいーーー」

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「ーーーさて、これで買い物も終いじゃの」

 

 

 日も落ち始め、空が茜色に染まり始めた頃、全ての買い物を終えた。

 家具、魔道具、食料に、ついでとして衣類や酒類など。

 途中、酒屋で厳つい店主と酒盛りをして駄弁っていた紫苑も回収し、説教済みである。

 

「まったく、シーくんはいつもそうです。

 ガサツで適当でうるさくてだらしなくてバカで脳筋で

 バカでバカでバカで………」

「う、ぐぬぬぬぬ……」

 

 

 否。

 終わってなかった。

 牡丹は根にもつタイプである。

 

 

「ほれ牡丹も、さっさと帰る ドンッ「ひゃっ!」……?」

 

 

 桔梗が、放って置いたら永遠とぐちぐち言っていそうな牡丹に帰りを促そうとしたところで

 曲がり角から走ってきた少女とぶつかった。

 いや、少女になりかけの幼女というのが正しいか。

 

 

「なんじゃ、すまんの。よそを見てて気付かなかった。

 ほれ、立てるか?」

 

 

 そう言って地面に腰をついた幼女に手を差し伸ばす桔梗だが、

 反応がない。

 どうしたものかと、もう一度声をかけようとしたところで、

 

 

「ひぐっ、うっ……うぇぇぇぇぇん!」

 

 

 大号泣。

 

 

 突然の絶叫に牡丹も何事かと桔梗を見るが、流石の桔梗もこの理解不能な事態に困惑顔だ。

 五歳ぐらいだろうか。

 世間では幼稚園児と判断されるぐらいの年頃の幼女が地面にへたり込み泣きじゃくるという状況に、

 周囲にも人だかりができ始めたのを察知した桔梗は、

 ひとまず強制的にこの幼女を脇に抱え宿へ連行する事にした。

 



   ◇

 



 

「ひぐっ。ぐすっ」

 

 

「ーーー誘拐じゃん」

 

 

 気持ちよく惰眠を貪ってたのに、慌ただしくみんな一緒に戻ってきたから何事かと思ったら、

 赤髪の幼女を誘拐してきやがった。

 

 

「それでもあのまま大事になるよかマシじゃろう?」

「すでに大ごとな気もするが……

 まあ今はとりあえず事情を聞かないと始まんないか」

 

 

 そう言ってようやく落ち着いてきた幼女を見る。

 改めて見るが、赤の綺麗な髪の毛は肩の辺りで切り揃えられ、

 目鼻立ちのハッキリした整った顔立ちだが服装はボロめの貧相なもの。

 将来は確実に美人になるであろう幼女だ。

 

 

「ぐすっ。

 ……お、おねえちゃんが」

「ん?」

「おねえちゃんがしんじゃうぅ!」

 

 

 なにやら問題発生らしい。

 

 それから、焦って泣いてはまた叫んで泣いて、そんな情緒不安定な幼女をなんとか宥め、

 その”おねえちゃん”とやらの元へ案内してもらうことができた。

 俺もさすがに目の前で幼女に泣き喚かれて無視するほど非情ではない。

 命が関わるなら尚更だ。

 ……ちょっと面倒だなとは思ったけど。

 

 案内されたのは、なんの偶然か俺たちが泊まる金狐の宮の下の階の一室だった。

 

 

「ねえ桔梗。

 受付で止められなかったの?

 この宿に泊まってるならこの子の事気付いてるはずだよね?」

「む?いや、幻術で視認阻害しておったから見られてはおらんよ」

 

 

 なるほど、誘拐の現場は見られてはいないらしい。

 いいのか悪いのか。

 ちなみについてきたのは桔梗だけだ。

 他二人は我関せずでした。

 とまあそれはさておき、まさに秒で幼女の”おねえちゃん”と対面した訳だが。

 

 

「ゴホッゴホッ……お帰りなさいエルナ。

 あれ、その人たちは……?」

「おねえちゃぁぁぁんっ!」

 

 

 部屋に入るなりまた泣き出す幼女。

 子供特有の情緒不安定発動中である。

 名前はエルナというらしい。

 そして、

 肝心の”おねえちゃん”は、誰がどう見ても明らかな瀕死状態だった。

 中学生ぐらいの年齢だろうか。

 まだまだ幼さを残すその顔は、頬は痩せこけ、土気色だ。

 そんな状態でベッドに寝込む姿はいつ死んでもおかしくないような気配を醸し出している。

 しかしそんな状況でも、

 永遠泣き喚く妹を優しく宥める姿は、なるほど確かにお姉ちゃんしていて、

 なんだか胸にくるものが。

 こう、ぎゅわ〜っと。

 分かるかな?

 ぐぅ〜って感じ。

 ……まあいい。

 

 

「……ん?」

 

 

 ひとまず幼女が落ち着くのを待つ事にした俺たちだがそこでふと、

 ”おねえちゃん”の体を蝕む存在に勘付いた。

 というか確信した。

 

 

「呪われてるねこれは」

「っ!?呪い、ゴホッ、ですか……」

 

 

 ポツリと、しかしはっきりした声で述べた俺の言葉に”おねえちゃん”が反応した。

 どうやら呪いのせいでこうなっているという事には気付いていなかったらしい。

 

 この世界の呪いが俺の知るものと完全に一致するかは分からないが、

 それでも、この呪い独特の穢れを纏った気の状態は間違いない。

 

 呪いの本質は魂の腐蝕にある。

 気というものは魂から生み出されているのだが、

 この呪いという術は、相手の気に侵入、侵食することで魂に影響を与えるという

 極めて直接的な攻撃技術なのだ。

 その特殊な性質から発動条件は容易では無く、媒体を要する場合が多い。

 例えば血とか髪の毛とか。

 そんな呪いは、軽くて体調を崩すだけのものから、酷いと即死とまではいかないが

 人を死に至らせることもできるなど、効果は様々。

 

 そしてこれらの性質や発動条件の手間が影響して、外的要因からの判別はほぼ不可能で、

 この世界では最上級の光属性魔法使いか、

 呪いに特化した光魔法士しか治すことは愚か気付くことさえできないのだ。

 まあつまりこのままだとそう遠く無いうちに死ぬということだけど、

 

 

「辛そうだし、ひとまず治してしまうけどいいかい?」

「え、いや。

 あなたに、ゴホッ……治せるのですか?

 それに私にはゴホッ。

 もう支払えるものも……ゴホッゴホッゴホッ」

「おにいちゃんっなおせるの!?

 おねがいしますっ!おねえちゃんをたすけて!

 なんでもするからっ!おねがいします!」

 

 

 今なお死にそうなのに対価を気にする”おねえちゃん”と、

 顔面ぐしゃぐしゃで俺の足にしがみつき現在進行形で頼み倒す幼女。

 ここで治さなかったら後味悪すぎるでしょ。

 ていうかもともと助ける気で来てるからそんなに必死になられるとなんだか……。

 さっさと治してしまいましょう。

 

 あと、なんだかこれだけ良い子な姉妹をこんな状態にしたであろう犯人に軽く憤りを感じたので、

 呪詛をお返しすることにした。

 

 一言断りを入れて、床に伏せる”おねえちゃん”の額に符を添えて詠唱を始める。

 今更害されることもないと思っているのか、それとも断る力も出ないのか、

 されるがままだった。

 今はありがたい。

 

 

「जाक्षर ह्रीःवसमबीーーーー」

 

 

 妹の方は最後の希望とでも思っているのか、”おねえちゃん”の手をとって

 幼いながらも必死に「おねがい。おねがい。」と祈ってる。

 ……いたたまれない。

 倍返しにしとこう。

 つまり殺そう。

 人を呪わば穴二つってな。

 

 

「ーーーーसुहां ह्म्मां ह्रीॐ विघ्नेश्वराय न」

 

 ー霊符術ー ー陰道術ー

「『呪詛転化』からの『呪詛転回」」

 

 

 術の完成とともに符が闇色に染まり、さらに呪詛返しの術で白い光に包まれ消滅した。

 今頃呪いの術者は”おねえちゃん”が患い続けた呪いを数倍にして喰らっていることだろう。

 まず間違いなく死んだね。

 ざまぁ。

 

 

「……う、そ。

 苦しくない……。

 目眩も、吐き気も、頭痛も、全身の痛みも……。

 治っ……た?」

「おねえちゃん……?」

 

 

 突然の変化。

 すでに諦めていた症状の回復に戸惑うように体を起こして自身の手を見つめる”おねえちゃん”。

 そして、改めて自身に言い聞かせるように。

 現実であることを確かめるように。

 心配そうにする妹に答えるように。

 呟く。

 

 

「治った。

 エルナぁ……

 うぅっ……治ったよぉ……」

「おねえちゃん……おねえぇぇちゃぁぁん!」

 

 

 ううっ。

 目から涙が。

 俺こういう家族愛とかそんな感じの弱いんだよね。

 俺が治しといておかしいかもしれないけど。

 ちょっと出てよう。








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