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天界台所事情

「それでですね、たくさんの神が生まれているんですよね。あくまでフィクションと分かっていても、作者の思い入れですとか、読者の人気などで……」


 まさかそんな、と思いましたが、神様の目は真剣です。


「じ、じゃあ、神様も……?」


「私は流行りが終わった作品の残滓のようなものです。粗製乱造時代ですからね、こうしてあぶれる神もいます。やがてそういった神は自然に消滅していきます」


「そんな!」


 私は思わず叫んでしまいました。


 目の前にいる神様は、いつかどこかで書かれた作品の中の神様で。


 その流行が終われば、自然に消えていく……、それじゃあいつ死ぬか分からない人間と同じじゃないですか。


「よく考えてみてください。貴女がプレイしていたゲームの世界に転生……つまりは元の作品があり、キャラクターがあり、私は貴女の魂をそこに繋いだだけ。人間が作った物がありきで私は存在しています。人間が作った設定を元に貴女に色々授けられます。ですから、私が今見守っているのは、実は貴女だけなんですよね」


 ですから、暇と言えば暇なんです、と笑う神様の顔は儚く見えました。


 悲しくなってしまいます。実際、そういう顔をしてしまっていたのでしょう。


 神様は、誰かが作った神様の残滓。それでも神様なので私を転生させてくださった、役割を果たして私を見守ってくれています。


「もし……、仮にその話が本当ならば、神様は私一人の信仰でも、存在していられるのでしょうか……?」


 誰かが気紛れに作った舞台装置デウス・エクス・マキナであったとしても、そしてその作品が廃れ、忘れかけられた時に、神様として私を掬い上げてくださった。


 ならば不老不死の私がずっと神様を神様として信仰していれば、神様として存在し続けられるのでは無いかと思うのです。


「そうですね。貴女が私を信仰していてくださる限り、私は消えません。貴女が信仰を忘れた時は……たぶん、消えるでしょう。誰かを転生させる力を持った神、という役割を終えて」


「その、新しく誰かを転生させたりはしないんですか?」


「残念ですが、私には最初の一人を転生させた時に、その物語に夢中になってくれた方々から受け取った信仰の分しか力が残っていません。つまりは、貴女一人を転生させて、力を与える分しか残っていなかったのです。それでもラッキーな方ですけどね」


 まるで週刊連載誌の打ち切りの手法のようです。まだ人気があった時のおこぼれ……というか、単行本売上の分の力で何とか神でいられて、今は私という細い糸しか神様を神様たらしめる者がいない。


 なんだよ作者、もっと頑張れよ作者。神様がこんなにいい人なのにやがて消えてしまうのは余りに悲しいじゃ無いか、作者。私が生きてる限り大丈夫そうで安心したけど。


 神様は長いお話で冷めてしまったお茶をそっと手をかざして温め直すと、口に運びました。


「あの、神様ってお名前はないんですか……?」


 そういえば聞いてませんでした。神様は神様なので神様としか呼んでいません。


「ありません。私が生まれた作品でも神様としか表されてませんでしたので」


「もしかして……名前があったらもう少し存在感が強くなったりしますか?」


「しますね」


 よし、名付けよう! 神様の存在を少しでも確固たるものにするために!


「では、今日から神様は……」


 うぐ、ここで詰まってしまいました。ネーミングセンス無いんですよね私。乙女ゲームも本名でやってましたし、えーと……。


「クリス。クリス神様です」


 この世界が『クリスタルの約束』というゲームなので、そこから頂戴しました。我ながら安直なネーミングですが、下手な名前をつけるよりはずっとマシなはずです。


「クリス……」


 神様がそう呟くと、神様の胸元から光が溢れました。その波紋がこの家から世界中にふわっと広がって、光が収まります。


 見ると、最初にあった時よりも豪奢な衣装を身につけた神様が立っておりました。最初は白い布を巻きつけたような衣装でしたが、今はそこに絢爛豪華な装飾品が増えています。


 背中の大きな羽と相まって、更には元々のイケメンも引き立ち、より神様然とした風格が漂っています。


(これは……、イケるのでは……?!)


 このクリス神様の彫像を作って崇めていれば、やがて信者が増えると思われます。惜しい! 私にクリエイティブな才能があれば!


 クリス神様も多少戸惑っていらっしゃる様子。自分の姿をまじまじと見下ろしていらっしゃいます。


「貴女という方は……まったく」


 クリス神様は嬉しそうにはにかんでいらっしゃいます。うっ、眩しい。そんな顔、喪女アラサーの私でなければイチコロですよ。


「神格が上がりました。これでもう一つ、貴女に何か授けることができます」


「えっ……そんな事に力を使って大丈夫ですか?」


 すっかり病弱な儚い青年のイメージがついてしまっているので、反射的に聞いてしまいました。


「御礼をさせてください。貴女が私に名前をくれた、その御礼を。何か望みはありませんか?」


 私はごくりと喉を鳴らしました。どこまでなら大丈夫だろう、などと思うのは本来神様に対して失礼な事かもしれません。


 ですので、私がこの家に来て欲しいと思ったもの……それをお願いしてみる事にします。


「でしたら、私に【創造】の魔法をお授けください」


 家畜小屋、造りたかったんですよね。日曜大工は不得手ですので。


 そしたらクリス神様の彫像も作れますね! 信者を増やすにはいい案です!


 ……物語から生まれた舞台装置デウス・エクス・マキナの神様。貴方の事を、私がこの世界で確固たる神様にしてみせます!


「そのくらいならば……、貴女に【創造】の魔法を授けましょう。これに伴い、更なる魔力量の増大も」


 片手を私にかざす神様に、私は両手を組んで祈りを捧げます。


 ん〜……ここが北欧風カントリーな居間ではなく、お茶に興じた痕跡がなければもっと神々しかったのでしょうが、話の流れというモノがあります。致し方ありません。


 こうして私はクリス神様から4つ目の魔法を授かりました。


 明日から早速クリス神様を祀る準備をしたいと思います。新生活でやりがいのある仕事を見つけられて私はなんてラッキーなのでしょう。暫くは農作業とかにかかりきりになるかと思っておりましたし。


 クリス神様は今度こそ、ではまた、と言い残して消えてしまわれました。


 あのお姿はしっかり目に焼き付けてあります。イベントスチルみたいなものですからね! 惜しむらくはスクショできなかった事くらいで!


 クリス神様、あなたのこと、絶対に消えさせたりしませんから!

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