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帰宅

「ただいまー!」


「おかえりなさい」


 南国での研究成果や採集したり買い付けたりした果物等を持って帰って来た家は、空っぽ……と思いきや、なんとクリス神様が居てくださいました。


「……一応お尋ねしますが、何を?」


「私は主に連絡係だったので、家の掃除や畑の世話を少々」


「…………クリス神様」


「はい」


「神様ですよね……?」


 しかも、執事服にエプロン。手には雑巾。これはあれですね、確実にこの家の家事をしてらっしゃいましたねこの神様。神様なんですから魔法とかでいいじゃないですか。暇だったんですか、そうですか。自分で自分に答えてみたものの、全く同じ答えが神様の口から出てきました。


「えぇ、ですが暇だったもので」


 割と長く家を空けていた自覚はありますが、隅々まで掃除は行き届き、むしろ出ていく前よりずっと綺麗になっています。


 私は荷物を【収納】したバスケットを置くと、庭や畑に走っていきました。雑草一つなく、いきいきと葉を茂らせている薬草たち。完璧。完璧です。


 これが神様の手を煩わせた結果でなければどれだけ喜んだ事でしょうか。


 調薬室にも行ってみるとなんとまぁ、収穫時の薬草が種類ごとに束になって壁際に吊るされています。前世で昔見ていたリフォーム番組を思い出しそうになりました。


 リフォームという程ではありませんが、どの部屋やキッチンを見ても綺麗で完璧に整えられており、祈りの間も埃一つありません。


 祈りの間と言えば、クリス神様にご相談したい事があったのでちょうどよかったです。いえ、家事をしてもらった事には何かしらお返しをしなければと思うのですが、それはそれ、これはこれ、という事で……。


 私はどういう表情で向き合えばいいのか分からず、ひとまずリビングに戻るとエプロンと雑巾を片付けたクリス神様と向き合ってソファに座りました。


 一緒に帰って来たシェルさん、イグニスさん、アオイさんもそれぞれいつものように働いたり寛いだりしています。荷ほどきは一先ず後にして、私はシェルさんの入れてくれたお茶とお茶菓子(【調理】魔法は便利で何よりです)を頂きながらお話する事にしました。今日はナッツのキャラメルプチタルトです。日持ちする食材だけ残していたので納得の物ですが、相変わらず美味しい。あれ、そういえばムニンが居ませんね。家の前まではいたんですが、中には入ってこなかったようです。


 クリス神様も美味しそうに頬張ってお茶を飲んでいます。ふぅ、とりあえず気持ちは落ち着きました。


「クリス神様、実はお話したい事がありまして」


「……私を奉った宗教を国教にする、というお話ですね」


 はい、聞いてらしたんですね。まぁそうですよね、いくら遮音結界があったとしても、この世界そのものを俯瞰できる方にこの世界で隠し事はできません。


「そうです。……あまり、乗り気ではありませんか?」


「そうですねぇ……、いえ、マリーが力をつけて起こしてくれるというのならば喜んで私は祀り上げられようと思うのですけれど……。些か、きな臭い、というのが本音です」


「きな臭い、ですか……」


「はい。今回の事はシャルルカンにとって得る物が大きい。具体的かつ作戦もしっかりした物です。そして、貴女にとっても過去を払拭する良い機会でもあります。しかし、その見返り……確実に貴女が手に入れられる見返りは、皇太子とその婚約者の処罰のみ……それも、廃嫡や婚約破棄、家の取り潰しなどは含まれない。例えば塔に1年程軟禁して離れ離れの生活をさせる、だとか……そんな程度なんですよ?」


 あ、それいいですね。処罰といっても思い浮かばなかったのでその案を頂きましょう。1年間会わなくても愛し合っていられるかどうか、見ものです。


 私という婚約者がいながら逢瀬を重ねて、私は全て未遂のいやがらせの計画と毒薬と毒薬のレシピ開発に勤しんで国外追放されたのですから、その位の試練には耐えていただいて仲良く国を運営していただきたいと思います。まぁ、毒薬に手を染めてしまったので国外追放については未だに自業自得だと思っています。たとえ未遂でも、前世の私は人を助ける薬を作っていたので……その辺、うまくマルグリートになってもブレーキが利いてくれたのはよかったです。


 でまぁ、離れ離れの幽閉生活で心が離れる程度の愛ではありませんからね、前世『クリスタルの約束』をプレイした感じでは。永遠の愛を誓ってくれましたからね。大丈夫でしょう。


「うーん……、私としては、クリス神様の存在強度を上げる事はこの世界で生きる上での目標でもあるので、乗れる話には乗りたいとは思っています。今すぐの事では無いですし、計画段階から無茶がありそうならば止める気です。それと……」


「それと?」


「今、私がやっている、クリス神様印の薬を……いろんな所で、それこそ庶民から貴族まで、買い求められたり、治療を受けられたりするような場所が、国単位で増えるのは嬉しい事だな、と……思っています」


「……ふふ、貴女らしい。確かにこの世界は元が元なので……庶民の生活等はこまやかな設定もなく、庶民が診てもらえる病院等もありませんね」


「はい。それを今回の件で2人の国王が施政する事になれば……クリス神様を医薬の神と定めて奉ってもらい、その意思として安価で治療や薬を普及させる事ができればと……、まだ、先の話ではありますが」


 魔女のマリーの手に負えるのは、私が住んでいる目先の少し先位までです。


 他国には他国の薬を売っている人はいますが、大規模な病院はサラマイーツ王国の城下町にもありませんでした。当然、ギュスターヴ王国にも庶民が診てもらえる病院というのはありません。貴族ならばお抱えの医師や高い治療費を払って診てもらう事ができる魔法の治療院等もありますが……魔法だけでも薬だけでもどうにもならない事もあります。なんでも限界があります。


 私が宗教の設立にかかわる事ができるのならば……それこそ、教会と病院を兼ねるような施設にしたいです。そして、今はバラバラの知識とレシピで作っている薬を統一した効果のある物に統率しなおして、在野で薬を売っている薬師を教会の職員……というのも何ですが、として雇えればと……そう、宗教団体というより、医療研究と病院と薬局を併せたような施設にしたいんです。


 こんな構想はまだ夢の段階ですが、機会があるなら……、そうしたいと。私に利益は一切ありませんが、代わりにクリス神様の存在強度が高まります。知名度、信心、そういった物を大規模に得るチャンスです。


「貴女の考えは分かりました。マリー、私はいつでも貴女の味方です。友人です。貴女の願いならば、私の事を思ってくれる事ならば、止めはしません。……ですが、何か危ないと、怪しいと思った時、私は貴女を止めます。いいですね?」


「はい……! 今は、その言葉で……充分です」


 何せまだ作戦のさの字も片付いてませんからね。クリス神様の優しい言葉に、私はほっとして頷きました。


 まずはポールさんとブルーからの連絡待ちです。休めるのも、虫対策を練るのも今の内です。とはいえ、今日は疲れたので……気持ちいい家で、1日休ませてもらいましょう。


 ありがとうございます、クリス神様!

先が読みたい、続きが気になる、と思ってくださる方、広告下の星で応援してくださると嬉しいです!

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