チャラ男、目覚める
お久しぶりです!本日より連載再開いたします。よろしくお願いします!
翌日、第二王子が目覚めたと聞いて私は朝食の手を止めて会いに行く事にしました。
むしろ、あちらが会いたいと言って人を寄越してくれたのでちょうどよかったです。
狼姿のアオイさんを連れて、案内の女官の方の後をついていきます。
立派な金の装飾のついた扉の前に立つと、女官さんが扉を開けてくれました。御礼を言って中に入ると、広々とした天蓋付きのベッドの上に、褐色の肌に黒い髪、黒い瞳のちょっとどきっとする程整った顔立ちの方が座っていました。
私はギュスターヴ式のお辞儀をして入口程近くに立ちました。
「貴女が俺を救ってくださったマリー殿だな。ベッドの上からの非礼を許されたい、この国の第二王子のシャルルカンという」
よかった、もう大丈夫そうです。言葉は確かですし、ベッドの上とはいえ姿勢は安定しています。弱った体力が回復するのは明日か明後日、今日は大事をとっているという所でしょうか。
「こちらへ来てもらえるか? ここからでは貴女の顔が見えない」
顔等見てどうするというのでしょうか。一言、礼を言う、とだけのために連れてこられたものだとばかり思っていたので(そして私は容態が見られればよかったので)特に近づく理由はないんですが。
しかし、仮にも一国の王子の要請です。私は不思議に思いながらベッドに近付くと、ぽんぽん、と彼の横に座るように示されました。アオイさんが酷く白けた目で彼を見てます。えぇ、私も同じ心境ですよ、アオイさん。
「……失礼いたします」
少し硬い声で私がそう告げてシャルルカン様のお隣に怖れ多くも腰掛けると、彼の高貴なるお方は何の遠慮も無く私の腰に腕を回して抱き寄せました。
「きゃっ?!」
「そう大きな声を出さなくとも取って食ったり等しない。……細いな、肌も滑らかだ。このような若い娘が、魔女……ふぅむ、興味深い」
そりゃまぁ実際まだ若いのでね?! 不老不死ですからずっとこのままですけどね?! 王族だからってやめて気持ち悪い腕を撫でないで腰を抱かないでひええ……!
アニマルの皆さんに抱き寄せられたりするのには慣れてますしこういった嫌悪感を抱いた事は一度も無いんですけど! 何ででしょう、この方の触り方、非常に、ひっじょうに気持ち悪いです!
見た目はいいのにここまで生理的嫌悪感を覚えた男性は前世でも今世でも初めての事ですよ……?! い、一体この王子様の何が私にここまでの嫌悪感を……?
いえ、まぁ分かります。この方の触り方……言うのも嫌ですが……明らかに、セクハラ。性的な目的でもって私を見て触っています。今迄周りの男性たちからそんな分かりやすい事をされなかったので平気……いえ、時々ときめいてはいましたが……でしたが、今回のこれは露骨に過ぎます。
さすがに拒絶しなければ、と思っているのに、シャルルカン様は私の腕をぐいと引き寄せます。私は不老不死の上にかなりの魔力をいただいているので通常の男性の力では本来このような無礼をされてもびくともしないのですが、先日焦って魔力を使い過ぎたせいなのか、この方の『何か』がそうさせるのか……私は胸元に抱き寄せられ困惑した顔でシャルルカン様を見上げる事になりました。
「ふむ、器量もよし。魔女のマリー殿、俺の嫁にならぬか」
それはまるで、そうなって当然、というような、ただの確認事項のようでした。選択肢がはいとYESしか無いような……、王族だからでしょうか、それが板についています。
「いえ、あの、すみません、それはちょっと……」
「何故だ? 自分で言うのも何だが、俺は中々の美丈夫だと思うが」
「いやぁ、それはそうなんですが、まだ全くお互いの事も知りませんし……」
「そなたは俺の裸も見たのだろう? あとは俺がそなたの裸を見ればいいだけでは?」
ぞわぞわぞわっ! と、私の背中に鳥肌が立ちます。
「治療の為ですし、貴方様に裸を見せる予定はございません!」
「何をそこまで拒む。王族の嫁となれば生活は保障される、貴殿は国政は俺に任せて魔女として施しを行えば王族の評判も良くなる。生活水準が上がってやる事は変わらない、まぁ、子をもうけてはもらう事になるが」
「こ、子供?!」
「当然だろう、婚姻したら世継ぎを残さねば。それとも石女か? ならば待遇の変わらぬ側室の座を用意しよう」
そういう事言ってるんじゃないんですよ色惚け王子?!
「わ、私は不老不死ですので、先に老いていかれる方とそういうのは……!!」
これなら諦めもつくだろうという理由を言ってみました。少し胸がちくんとします。ポールさんとの事……いえ、あれはもう、時間がどうにかしてくれる事ですので。
「なんと、そなたは不老不死か。それはよい、妻は永遠に若く美しくあって欲しいものだ。男ならばみなそうだろう」
気にしろーー?! 残される側の気持ちとか、自分だけ老いていく事とか、私のその後とか少しは、秒でもいいから考えろください?!
私が怒りと困惑を籠めた目でシャルルカン様を見上げていると、ふと、瞳の中に何か困惑のようなものが見えました。シャルルカン様は片手を挙げて人払いをなさいます。すすすーっと壁際に控えていた方々がいなくなり、ここにはシャルルカン様と私、アオイさんだけが残りました。
「……さて、戯れはこの位でいいだろう。魔女のマリー殿、改めて礼を言う。誠助かった。経緯は全て聞いている、右大臣は辺境に左遷させ、今人員の整理を行っている所だ。無礼にも御身に触り倒した事も許されたい、こういう性格だと周りには思っていてもらわねばならぬのでな」
すっと腕を離し、私の身体を自由にしたシャルルカン様は先程のセクハラチャラ男ムーブが嘘のように礼儀正しく頭を下げられました。たぶん、人払いをなさったのは、これ以上私が本気で拒む事はなくベッドに連れ込まれる……のが、普通の事だったからなのでしょう。
周囲を欺くのに私を巻き込むなという気持ちはありますが、今回の件、私もまったくの無関係という事ではありません。アオイさんが私がセクハラを受けているのに助けなかったのはその辺を理解していたからなのでしょう。
「この国、いや……俺にも影で動く者はいる。今回は毒をまんまと喰らってしまったが……、マリー殿、そなたと俺で協力したい。俺は玉座に就くため、貴殿は貴殿の清算をするため。いかがか?」
私はシャルルカン様の顔をじっと見つめました。さて、この方、どこまで私をご存知なのか……まずはそこから話を聞かなければならないでしょう。
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