犯人捜し
おさらいです。
私が国王陛下に殺鼠剤としてレシピを極秘に渡したのが一ヶ月とちょっと前。
そのすぐ後に私は南国に来ました。
そこで一ヶ月程のバカンスを兼ねた植生調査をしていました。殺虫剤、もしくは防虫剤となるものを開発するために。
その間のレシピの動きとしては、秘密裏に殺鼠剤にしたレシピはギュスターヴ王国の王宮研究所に収められ、商品として殺鼠剤の研究が為されていた段階とみるのが正しいでしょう。
レシピ流出が起こったとしたら、その殺鼠剤の研究中というのが一番怪しいです。
悲しいかな、私に王宮に出向いてその時の事情聴取をする権限も権力もありません。
ただ、伝手はあります。ポールさんとブルーさんです。
「どうにかあの2人を王宮に戻せないかしら……」
王城での私の奮闘ぶりに感激したお偉方の皆さんに引き留められながら、ひとまずコテージに帰って来た私はぽつりと呟きました。
「私ならそれが可能ですよ」
そんな私の独り言に、背中から声が掛かります。お察しの通りクリス神様です。
「クリス神様……! でも、どうやって……」
「私がまずギュスターヴ王国の国王と話をつけます。私は移動は自由自在なので、事情をポールとブルーにお伝えしましょう。あの2人なら喜んで戻ってくれるはずです」
クリス神様の言う通りです。あの2人は、私のためならば喜んで王宮に戻ってくれるでしょう。そして、あの2人なら完璧な調査をしてくれる。その確信があります。
使用人として様々な人々の話を耳にするブルー。
諜報員としての手腕を駆使するポールさん。
これ程頼りになる伝手はありません。
そしてこの伝手を、この遠い南国から瞬時に叶えてくれる……それが私のお友達第一号で、見守っていてくれる神様である、クリス神様。
「……そこまで甘えてしまっていいのでしょうか」
思わず口を突いて出てしまいました。そうです、これはド級の反則技です。
「いいじゃないですか。友達の役に立つ事がしたいのです。あなたの生業に手を出す気はありませんが……転生させたのは私です。そして、貴女が悪役令嬢をやり遂げるのを止められなかったのも」
そういえば、私は悪役令嬢に転生していたんでしたね。悪役令嬢を自ら望んで……、どう考えても自業自得です。
南の国の王城で私のせいだとはいえませんでした。怖かったです。どんなに感謝されても、私はそれを素直に受け取る事ができませんでした。
だって……。
「私のせいなんです……。全部、私のせいで……」
「えぇ、そして貴女はそれを受け止め、解決しようとしている。何か問題がありますか?」
泣きそうになりながら告げた言葉に、クリス神様は優しく笑いかけてくださいます。
「貴女が使える物はすべてお使いなさい。誰でも使えるものじゃなく、貴女が貴女の犯した罪を贖罪するために、貴女が使える物は全て。それは私も含まれます」
「……ありがとうございます、クリス神様」
私は腕を伸ばして、クリス神様に思い切り抱き着きました。こんなに心強い友達がいてくれる事、今の私の心情……どう言葉にしていいか分からなくなりました。
これが精いっぱいの私の気持ちです。クリス神様は優しく私の背を抱き返してくれました。
「マルグリート……、どうか忘れないで。貴女を好きな人は沢山いるのです」
そう耳元で囁いて、クリス神様はふと消えられました。恐らくギュスターヴ王国の国王陛下に会いに行ったものと思われます。
そのままポールさんとブルーの元へも行ってくださるのでしょう。
クリス神様を信じないなんて事は私にはあり得ません。こんなに信頼できる方はそうは居ませんから。
後は情報が揃うのを待つ……、此方の国でも調査をした方がいいでしょう。
予後を診るという名目で王城には出入りできます。さっそく明日から王城に通い詰めてみましょう。
「で、考え事は終わったのか?」
足元に臥せっていたアオイさんが狼の顔を上げて聞いてきました。
――私の事を好きな人がいる。忘れないで。
私は思わず笑ってアオイさんを見返すと、床にしゃがんでアオイさんの首に抱き着きました。
こんな暑い国でバテているでしょうに、いつでもそばにいてくれる。
イグニスさんも、自由奔放に外を見て回っていますが、必ず私が欲しがりそうな情報や原料を届けてくれる。
シェルさんはずっと身の回りのお世話や家事、ここに来てからもずっとそれを続けてくれる。
私は果報者です。
「実はまだ考えている事がありまして……」
「ほう、それは我も聞きたい所だな」
「私もですね」
アオイさんに話しかけていたら、部屋の中にイグニスさんとシェルさんが入ってきました。
このお三方に隠すような事は何もありません。
私は、今回の毒殺事件、ギュスターヴ王国側の犯人像について皆さんに打ち明けました。




