ローズの日の準備
この世界にはローズの日という風習があります。簡単に言えば前世のバレンタインデーみたいなものですね。身近な人に感謝の気持ちを伝えたり、好きな人に告白したりする日です。
前世は喪女だった私ですが、職場にチョコの大入り袋を持っていく位はしておりました。今は時間もたっぷりありますし、日ごろお世話になりまくってますし、何か皆さんが喜ぶことをしたいと思います。
とはいえ、皆さん種族も違えば年齢も価値観もバラバラです。何を喜ぶか……と思うと、うぬぼれではなく私と二人きりで過ごす時間がたぶん一番嬉しいでしょうね。普段皆でわいきゃいやっていても、私に対する求愛行動は日々さり気なくされております。私がスルーしているので特段話題にあげていないだけで。
人型なら皆さん美形ですし、そりゃ前世は美形耐性0、イケメンはテレビの中のアイドルとか、学生時代なら同クラで眺めているだけが関の山、それが迫ってくるんですよ。ドキドキはしますけど、それを安易に恋と呼ぶには……今世の私には難しい事です。
(政略とはいえ婚約していたし、やっぱり愛情もありましたし……、でもそれは成立せずに破棄になりましたし。対等に想いあえる相手とは寿命の関係で自分から終わらせましたし……、誰かの想いに応えてもいいかなぁとか思わないわけでも無いんですけど……)
どうしても、私の中の何かが言うのです。相手はアニマルだぞ、と。
不老不死になり私もどちらかといえばアニマル寄りの生き物になったと自覚しましたので、アニマルな皆さんが決して恋愛範囲外という訳ではないのですが……、今しばらく、この環境に甘えて楽しくやっていたい、と思うのはダメな事でしょうか。
誰かを選んだり、選ばれたり、そういうのに疲れてしまっているのです。休息期間が必要です。前世喪女、今世失恋続きの身としては。楽しい毎日が心の癒し、もう少しこのままの距離でいたい。幸い皆さん不老不死の幻獣種です。気は長いですし、私の元から去るなんてことも今のところは無さそうですし……はい、完全に甘えです。
あぁ! これ、逆ハーレムというやつなのでは?! ライバルキャラとかいたら尻軽女の謗りを甘んじて受けなくてはいけないのでは?! 違うんです、誤解なんです、皆さんの事はLikeですがLoveでは無いだけで……、おや、私は何故こんな事を考えているのでしょう。問題はローズの日の贈り物です。元に戻りましょう。正気大事。
とにもかくにも生活面でも精神面でも多大にお世話になっているわけですし、皆さんに何か良い物を贈りたいのですよね。
「創造を使えば大抵のものは造れるんですけど……どうせなら、もっと手間が掛かっているものの方がいいでしょうか」
感謝の気持ちが伝わるなら、どういう物であれ皆さん喜んでくださるとは思うんですよね。それでいて日常の邪魔にならず……私だって畑仕事しますし、腕に着ける物とかはちょっと邪魔ですよね。
そしてできるなら、何か副次的な効果も付与したい所です。そういうのはイグニスさんがお得意だと思うのですが、この際二番煎じは気にしない事にしましょう。
あとは皆さん大きさが人型から可変するので……うん、ここはやっぱり【創造】に頼りましょう。魔法効果の付与とかもわかりませんし。分からないなら創ってしまえばいいじゃない、と前世の偉い人も言っていたような気がします。少々単語が違いますが。
(どうせなら合い鍵のような……家族的な繋がりを示す何かがいい……)
今の家は全員いないという事が無いので鍵はありませんし、そもそも辺境の一軒家、村から人が来る時もだいたい姿は遠くからでも見て取れます。
形のイメージは鍵で決まりました。後はどういった物にするかですね。
やはり邪魔にならなさ度でいったら首から下げる形が良いでしょうか。こう見えて私、デザインセンスには全然自信がございません。鍵の形と言っても複雑な物は無理なので、どう見ても鍵、という物を想像しております。大きさも、あまり小さくても大きくなられたときに失くされるかもしれませんし、実際の鍵くらいの大きさで。
素材は軽い方がいいですね。金が喜ばれるのでしょうが、個人的な好みはサージカルステンレスです。傷もつきにくく軽いので。医学書を読んでいてそれに近しい性質の金属がこの世界にある事は知っています。なので、それを素材にしましょう。
あとは魔法付与ですね。私は皆さんに……元気で、笑っていて欲しいと思います。
苦しむ所は見たくありません。状態異常耐性を付与しましょう。怪我等はどうしようもありませんが、毒やちょっとした不調なら弾き飛ばしてくれます。
(鍵……首に下げられて大きさが可変するチェーン……金属は医療用ので……状態異常耐性……)
頭の中でイメージを固めていきます。そういえば、見本も無しで何かを【創造】するのは初めてかもしれません。家畜小屋もクリス神様の像もちゃんと見本がありましたし。
目を伏せて両手を机の上に集中させます。イメージしたものを魔力から形成するように、魔力の流れを感じながら一つ一つ丁寧に作ります。
イグニスさん、シェルさん、アオイさん、クリス神様、ブルー、ポールさん……そして、私の分も。
全員分を作り終える頃には、私は薄汗をかいていました。創造という魔法は結構な魔力を消費します。いますぐシェルさんのおやつが食べたいです。
机の上に並んだ7つの鍵の形のペンダントを見て、私は満足です。ラッピングの包装紙は前世の記憶を頼りに【創造】し、リボンを結んで……あとはローズの日まで引き出しの中にしまっておきましょう。
どんな反応をされるでしょうか。皆お揃い、と分かったらイグニスさんとシェルさんがにらみ合いでも始めるかもしれませんが、皆私の大事な人です。
喜んでくれるといいな、と思いながら、私はぱたんと引き出しを閉めました。




