夜会当日
「き、緊張しますね」
「マリーさんでも緊張しやすか」
「しますよぉ! ……ポールさん、とっても素敵ですし」
「先に言われちまいましたね。マリーさんもとってもお綺麗です」
日が傾く頃、鉄門の前でポールさんが借りた馬車が来るのを待ちながら、私たちは雑談していました。
見送りに来たブルーが、手に拳を当てて咳払いを一つします。あまりの落ち着きのなさに呆れられているようです。
自分で作ったから当然なのですが、今日はペアルックになっています。私は緑のドレスに、濃緑のハイヒール。装飾品はイグニスさんから頂いたものの中から、緑石の嵌まったもので揃えました。
ポールさんも渋い緑の正装に……何でしょう、いつも猫背気味でガニ股に歩かれるのですが、今日は背筋も伸びて、いつもより顔が高い位置にあります。
ポールさん曰く、恥はかかせませんよ、とのことで。いつものポールさんでも恥ずかしいことなんて無いんですけど……こうして合わせて頂くとなんだかドキドキしてしまいます。
ちなみに、シェルさんとアオイさんはお留守番ですよ、と言ったら拗ねて家から出てきませんでした。イグニスさんはあまり拘りがないのか、いつも通りでしたが。
大して待つ事もなく馬車が到着しました。黒塗りの箱馬車に乗り込むと、ふかふかの座席にクッションも敷いてあります。
かなり良いところの馬車ではないでしょうか。乗り心地が良いのはありがたい事ですが。
向かい合って馬車に乗った私たちに、ブルーはいってらっしゃいませ、と言ってドアを閉めました。
がたん、と馬車が動き始めます。田舎の畦道でもそこまで揺れないのは、この馬車が高い物である証拠です。
「さて、パーティ中は離れないでくださいね。そんなに混むとは思えませんが、アッシは背が低いんで見つけられるか自信がありません」
「はい。ご挨拶なされる方もいらっしゃるでしょう? お付き合いします」
「助かります。食事は期待していいと思いますよ、田舎だからこそ食材は新鮮ですからね」
「そういった料理は久しぶりな気がします。美味しいものがあったらシェルさんに作ってもらいましょう」
「じゃあ尚のこと味わって食べなきゃいかんですね」
馬車の中でも会話は絶えませんでした。2人ともちょっとの緊張と、楽しみでテンションが上がり気味なのもあるとは思うのですが。
貴族の館へは馬車で1時間程でした。案外ご近所さんかもしれません。この辺を治めているご領主さんだとか。これはご挨拶しておかなければいけませんね。勝手に住んでますが税金の支払いとかもあるかもしれませんから、軽く触れておきましょう。徴収に来られたら支払う位の蓄えは(充分すぎるほど)ありますよ。
というか、私が国外追放された事情を細かく知っている可能性は大です。むしろ知らなかったら受け入れられないですよね。なんだか、緊張してきました。
車止めに馬車がついてゆっくりと止まります。外から使用人さんが開けてくれたドアをポールさんが先に降り、私に手を貸してくださいました。
「本来はレディファーストなんでしょうが」
「こちらの方が助かりますわ。ありがとうございます」
ポールさんのゴツゴツとした手に、レースの手袋の手を乗せます。片手でスカートを持ち上げて危なげなく馬車を降りると、すかさず差し出された腕に手をおきました。
ハイヒールでゆっくりしか歩けない私に合わせてくださいます。エスコート慣れしている事にちょっともやっとしましたが、単に気遣い上手なだけかもしれませんね。ご老人とかに優しそうですし。
玄関の上がりを登り、大広間に向かうとパーティは盛況でした。
まずは領主さんと息子さんにご挨拶です。顔見知りのポールさんがキョロキョロと会場を見渡し、見つけられたようなのでゆっくりと歩いて行きます。
私は堂々と胸を張って会場を歩きました。私だってポールさんに恥をかかせたくありません。
隣を見ると(ハイヒールのせいで同じ位の視点です)目を合わせたポールさんがにこっと笑ってくれました。
「……この会場で、一番綺麗です」
ボソッと告げられた言葉に私は更に顔に血が昇るのを感じました。全くこの人は……、でも、そうですね。今日は社交デビューの日ですので年若いご令嬢や、既に奥様になられている方が多いです。
だから、まぁ、これはお世辞なんです。そう受け取っておかないと……恥ずかしくて死んでしまいます。
元婚約者にもこんなに大事にされたことはありません。つくづく男は見た目では無いなと思います。いえ、ポールさんはかっこいいんですけどね。眩しいだけの木偶の坊よりずっといいです。
無事に領主さんとその奥様、今日の主役のご子息に挨拶すると、音楽が始まりました。
エスコートしていたポールさんがさっと手を離し、目の前に跪きます。そして片手を差し出し。
「私と踊っていただけますか? マルグリート嬢」
「えぇ、喜んで」
せっかく鬼の訓練を共に乗り切ったのです。踊らなきゃ損です、損。
私はポールさんの手に手を重ね、ホールの中に進み出ました。




