2週間が経ちました
あれから2週間が経ちました。そうです、ポールさんが出てから2週間です。
その間アニマルな皆さんとの交流を経て、私は寂しさよりも来てくれることの楽しみの方が上回っていることに気づきました。
私にはこんなに素敵な人たちが周りにいてくれて、何を寂しがる必要があったのかと、今では不思議なくらいです。喉元過ぎればなんとやらで、残りの日々は指折り数えながらも楽しく過ごせました。感謝感謝です。
「マリーさーん、ただいまぁ!」
庭仕事をしながらポールさんの到着を待っていたら、間延びした声と馬車の音が聞こえて来ました。
摘んだ薬草をバスケットに【収納】して、私は門に早足で向かいます。鉄門を開けて馬車を招き入れると、御者台からポールさんが笑いかけてくださいました。眩しくない! でも、安心する笑顔です。
「おかえりなさい! まずはお休みになってくださいな、疲れましたでしょう?」
「へぇ、ありがてぇこって。助かります、ずっと商売しっぱなしだったもんで」
そんな会話をしながら、アオイさんとシェルさんに手伝ってもらいながら馬は厩へ、馬車は天気がいいので庭先に置いて、ポールさんを中へ案内しました。
ポールさんは前回はあまり顔を合わせなかったアニマルな皆さんに頭を下げています。どうせなら皆さんと仲良くしてくれたら嬉しいですね。
中ではブルーがお茶を煎れて待っていてくれました。季節は秋に差し掛かる頃ですが、まだ暑いので温めのお茶がおいしいです。シェルさんお手作りの菓子をつまみながら、ポールさんもひとまず一息つけたようでした。
「いやぁ、まず何から話したらいいか……何の話が聞きてぇですか?」
そこからの会話は弾みに弾みました。
まずは不眠症のお薬ですが、やはり近郊の貴族や町民には重宝されたみたいです。イグニスさんの咆哮がすごかったのもあるでしょうが、たぶん立地的に凄く響いちゃってたんだと思うんですよね。夜も更けて微かに聞こえるドラゴンの咆哮……うーん、安眠には程遠いでしょう。
そして、咆哮が消えたのに聞こえる気がする、という方も多かったようで。不眠症のお薬のレシピは以前の通りなので肉体強制シャットダウンに加えて副交感神経優位にする成分で、そういったお悩みの方にも人気の商品になったようです。
そんなイグニスさんからいただいた骨董品の数々は、貴族の奥様方に大人気だったとか。私が最後にパーティに出たのは学園の卒業パーティでしたが、新進気鋭のデザイナーさんの物より、ちょっと古いくらいのデザインが流行ってましたからね。今のちょうど流行なのでしょう。半分くらいは捌けたらしいです。結構な量だったのでそれでも凄いお金になりました。
クリス神様の像も、薬と一緒に売れていったみたいです。やはり年若い娘さんが買っていかれる事が多かったみたいで、貴族用のものはお茶会で皆さんにお配りするとかで一度にいくつも買われる方がいたとか。
前世でいうところの偶像崇拝状態ですね、まさに。後で祈りの間で報告しましょう。凄い人気ですよ、って。
「で、これはマリーさんへのお土産です」
「まぁ、何でしょう。あけてみてもいいですか?」
そう言って差し出されたのは、青い天鵞絨張の箱でした。少し大きめのサイズで、私はドキドキしながら蓋を開けると、其処にはこの辺では珍しい、銀細工に真珠の散りばめられたバレッタが入っていました。
「すごく綺麗……いいんですか?」
海からは遠い内陸部ですので、真珠の細工物なんて結構なお値段がするはずです。私はパーティに出る予定もありませんし、こんな高い物を普段使いする度胸もありません。
「へい、貰ってくだせぇ。そんで、あー……その、よかったらアッシに付き合って夜会に一緒に行ってもらえませんかね」
なんと! ポールさんから夜会のお誘いがあるとは思いませんでした。私は目をまんまるにして、話の先を促します。
「睡眠薬とクリス神様の像、そんでもってアンティークを買われた貴族のお一人の子息さんがですね、今度13歳になられるんでさ。社交デビューの為に夜会を開くとかで、アッシも招待されちまいまして。一緒に行ってくれる女性といえばマリーさんしか思い浮かびませんで、よければなんですが」
あまり大掛かりなパーティに出るとなると国外追放された身としては難しいでしょうが、……背後に控えていたブルーに目配せをすると、頷かれたのでこの位はいいようです。
「私でよければ、喜んで。ポールさん、礼服の準備はありまして?」
私は何故かドレスが何着かあるので準備は大丈夫ですが、行商人のポールさんは礼服は持ち合わせていなさそうです。
案の定、無いので街で仕立てて来ようかと、という事でしたので、せっかくですから髪飾りの御礼に私が仕立てようと思いました。魔法で、ですけど。
「でしたら私に準備させてくださいな。ブルー、採寸をしてきてくださる?」
「かしこまりました。客間も用意できていますので、そちらで採寸いたしましょう。ポール様、此方へ」
「いや、何もそこまで……」
遠慮するポールさんに、私は悪戯っぽく笑って言いました。
「ポールさん、これはデートですよ。女性に恥をかかせないでくださいな」
なんて、私が楽しみにしているだけなのですけど、言ってしまいました。そうか、デートですね。
今世で婚約者と夜会に出るのは何度もありましたが、それは半ば義務のようなものでした。私はこれまでに無いほど夜会が楽しみです。そう、これはデートです。なんだか緊張してきました。
「マリーさんに、そう言われちゃあ……じゃあ、お言葉に甘えて」
「はい。ブルー、よろしくね」
こうしてポールさんとの初デートが決まりました。




