動物好きに悪い人はいない(持論)
日が暮れる前に街に行きたいと思っていたので、いい機会ですし、ここはシェルに乗っていってみようかと思います。ブルーの所業にシェルはかなりお冠のようですし。早めに正体を知った方がブルーの精神衛生的にもよろしいでしょう。
私はちょっと他所行きのワンピースに着替えてバスケットに金貨を何枚か入れると、シェルを呼びました。ブルーにもきてもらいます。
「シェル、街まで乗せてってくれるかしら?」
厩の前でそう告げると、不機嫌だったシェルが途端に機嫌を直しました。やっぱりペガサスはペガサスですね。
意味がわからなそうなブルーの前で、シェルの体が光って蜃気楼のように揺らぐと、そこには立派な翼を生やした白いペガサスが現れました。うん、毛艶もいいですね。今度ブラッシングさせてもらいましょう。
大きく目を見開いたブルーは「まさか……」と呟いています。ですよね、ペガサスが人に化けるなんて思いませんよね。まして私のような小娘の世話を甲斐甲斐しく焼いてるなんて思わないでしょう。言葉にすると本当に現実味が薄いです。
「マリー、出掛けるのか?」
そこに、背中にドラゴンの翼を生やしたままでイグニスさんがやってきます。今日の獲物は猪ですか。シチューがいいですね。
「ちょっと街まで。シェルが鞍を作ってくれたので、せっかくですから」
「おい、馬を名前で呼ぶなら我も呼び捨てにせんか」
「さすがにちょっと……」
ドラゴンまで呼び捨てにするのはなぁ、なんて考えていると、これまたブルーが驚きに固まったまま「そんな……」と呟いています。
まぁ思いっきりドラゴンの羽根が見えちゃってますからね。そうですよ、ドラゴンです。あのドラゴンがせっせと獲物を狩ってはご飯を食べに来てるんです。
「アオイさん、留守にするので番犬お願いします」
「分かった。……マリー、俺も呼び捨てで構わない」
「貴方まで何言ってるんですか」
そんなやり取りをしながらアオイさんが今日は少し大きめのフェンリルの姿をとると、もうブルーは声も出ませんでした。
ふかふかの毛皮は傾きかけた陽の色を反射して艶めいています。あぁ、こちらもブラッシングしたいですね。換毛期はそろそろでしょうか?抜けた毛でクッションを作っても気持ちよさそうです。
「というわけで、ブルー。出掛けるからシェルの支度をしてちょうだい」
人間、驚いて頭が真っ白の時は仕事がある方が立ち直りが早いものです。私がそうだったので。ボロ家を直すという仕事がなかったら国外追放のショックから立ち直れなかったかと。
「は、はい、今すぐ」
「轡はマリー様が咬ませてください」
「はいはい、じゃあ、これ咬んでください」
私が轡を両手で差し出すと、感無量、といった感じで厳かにそれを咬みます。シェルにとっては……というか、ペガサスにとっては、それが所有の証ですからね。念願叶ったり、という所でしょうか。
あっという間に鞍を乗せたブルーが何やらソワソワしています。おや? 正体を知って恐ろしくなったのでしょうか。でもなんだかもっと違うソワソワな気がしますね。
「マリー様……」
「はい」
鎧を踏んで鞍に跨った私にブルーが期待いっぱいの目で尋ねてきたのは。
「こちらのフェンリル様とドラゴン様のお手入れをして待っていてもよろしいでしょうか……?」
あ、察しました(本日2回目)。
この方動物好きですね。シェルの事もキラキラした目で眺めてます。
「「マリー」」
二重の抗議の声が聞こえてきましたので、私は小さく笑いました。ご本人が嫌がればブルーも無茶はしないでしょう。
「ご本人がいいと言えばいいですよ。……やっぱりさん付けの方がいいと思いません?」
「そこは……マリー様にお任せしたいと思います。まさか、こんな……天国のような環境だったとは思いませんでしたので」
「ふふ、分かりました。では、いってきます」
鞍にはちゃんと布が張ってあったのでお尻も痛くありません。お腹を蹴って空高く出発です。
さて、ブルーはあの二人のお手入れをさせて貰えるんでしょうか? とりあえず、帰ったら、買ってきた茶葉と茶器で煎れてもらったお茶でも飲みながら聞いてみたいと思います。




