最低男
「お前に……謝りに、きた」
カルロ様は居心地悪そうにしたまま、小さく呟かれました。余りに不承不承という感じだったので、私は素早くイグニスさんとシェルさんを見ますが、お二人とも視線を外すタイミングが絶妙です。目が合いません。
「お前?」
そこで不服そうな声をあげたのはアオイさんでした。ドスが効いています。竦み上がったカルロ様が慌てて訂正しました。
「マルグリート嬢に、謝罪をしにきました」
よし、って感じで腕組んでますけど、相手は皇太子殿下ですよ? 一方私は国外追放された犯罪者ですからね? お前で充分ですよ。
シェルさんに肩を持って促されるまま私は着席します。男性4人が立っている中一人座ってるのは中々居心地が悪いですね。
それにしたって一国の(しかも属国を持つ大国の)皇太子殿下が先触れも無しにこの時間に来るという事は、完全にお忍びでしょうね。
「それは、皇太子殿下としてではなく、一男性のカルロ様として、という事でしょうか」
「そう……です」
そうだ、と言いかけたところで、またひと睨みされて言い直しましたね。
「そうですか。ですが、私は貴方に毒を盛ろうとした女です。何も謝っていただく事は無いと思います」
これは事実ですから。そして結果として今、楽しく暮らしている訳ですが。
「そもそも、毒を盛られるような真似をしたのは俺だ。……マルグリート嬢、本当にすまなかった。婚約者であった貴女を傷付ける数々の振る舞い、無礼を許して欲しい」
今から太陽が昇るのでしょうか? それとも大雨でも降りますかね。まさかそこを謝られるとは思っていなかったのでびっくりしましたし、ちょっと何を言われてるのかよく分かりません。
散々口頭で婚約者は私だと、再三告げました。それを尽く無視をし、ゲームで言うところの主人公に至ってはそれを嫌がらせだと言っていたと記憶しています。そして、それをこのカルロ様は鵜呑みにしていた事も存じております。
「……許すも何も、終わった事ですから。今の私は属国の辺境でこうして細々と暮らしている魔女のマリーです。もう戻れませんし、戻る気もありません。終わったことを許した所で何になりますか? お帰りください」
思ったよりも自分の口から出てきたのは辛辣な言葉でした。自分でもびっくりですが、私はカルロ様の謝罪を『拒否』したいみたいです。散々傷付いてわんわん泣いて、それを謝罪されるのは……もやもやします。
口先では何とでも言えます。結局この方は私と結婚する事はありません。お忍びで来られたのですから、私が国に戻ることもありません。戻る気も無いのでいいのですが。
その状態で謝罪された所で、私は許すと言えば何が変わるのでしょう? カルロ様の御心が軽くなるだけじゃないでしょうか。
私はそんな事を考えて、胸の内のもやもやが黒く渦を巻くのを感じていました。受け入れられない、とてもじゃないですが、そこまで人間できていません。
困った様な顔で此方を見られましても……捨てられた犬の様な顔をしてもダメです。最近はアニマルな殿方に囲まれているので効果はありません。
というか、こう、何でしょう……顔面偏差値の高い方々に囲まれて生活していたせいなのか、はたまた前世の記憶が蘇ったからなのか、全くトキメキが無いんですよね。国外追放されたというのもあるかもしれませんが。
もはや顔がへのへのもへじに見えてきました。できるだけ速やかにお帰り願いたいです。
……じゃないと、胸の内のもやもやがどんどん大きくなって、私が私を嫌いになりそうなので。
「どうか、お帰りください」
私がそう告げたすぐ後の事でした。
「あのぉ、お話は終わりまして?」
誰も招いて居ないのに、リビングのドアを開けてエレーヌ嬢が入ってきたじゃありませんか。驚きすぎて思わず立ち上がってしまいました。え、無礼すぎません?
お忍びなので質素ですが仕立てのよいドレスにキチンと巻かれた髪。彼女の儚さを演出する薄化粧。
(というか! 連れてきてたんかい!)
私の中で何かがプチっと切れる音がしました。
「……お話が、終わった? ですか?」
「えぇ、もう遅い時間ですし、終わったのなら近くの街まで早く帰りたいと思いまして」
「なるほど、よく分かりました」
私はにっこり笑うと、顔を青くしたり赤くしたりしているカルロ様に向き直りました。
「貴方が毛程も反省なさっていないこと、私には大変よく伝わりました。エレーヌ嬢、貴女もです。他人の婚約者に秋波を送るどころか手を付けて奪っておきながら、招かれても居ないのに図々しくも家に踏み入れるその根性、流石としか言い様がありません」
もう私のもやもやは限界です。口調がキツくなるのも許して欲しいと思います。誰にとは言いませんが、強いて言えば自分に。
こんな自分で居たくない、自分を嫌いになりたくない、でも、ここで言わないと絶対に後悔する。負けっぱなしは、自分で自分のために戦えない私は、もっと嫌です。




