とりあえずこき使う事にしました
さて、殺伐とした朝食の後片付けまで終えた私は、せっかくの男手が二つもあるのである事をお願いしようとリビングに戻りました。
「たかだか野良ドラゴン風情がお嬢様に色目を使わないでいただけますかね?」
「ヌシこそ立場を弁えろよ馬風情が。万が一魔女に手を出してみろ、その首食いちぎってやるからな」
繊細な茶器が壊れてしまうのでは無いかと心配しつつ(その時は【修復】で直しますが)険悪な雰囲気のその場に戻ると、私はパン! と手をたたきました。
「さて、お二人とも、そろそろお名前を教えていただけますか?」
なるべくニッコリ笑って明るく訊ねると、ペガサスさんはすっと立ち上がりました。そして流れるような仕草でペガサス執事は膝を折ります。脚を怪我してるのであまり無茶はなさらないで欲しいのですが。
「申し遅れました。私はペガサスのシェルと申します」
反対に尊大に反り返って座ったままのドラゴンさんは、自分を指差します。
「我はレッドドラゴンのイグニスだ。魔女、お前の名はなんだ?」
おっと、そう言えば二人に聞いておいて私が名乗っていませんでした。
「申し遅れました。私は不老不死の魔女マルグリート、マリーでございます」
ワンピースのスカートを摘んで礼をします。
シェルさんとイグニスさんは、口々に「マリー様」「マリーか」と噛み締めるように私の名前を口にします。なんだかおもはゆいです。
「では、ご飯も食べましたし、お二人に少し手伝って欲しいことがあるんですが」
「何でもお申し付けください、マリー様。そこのトカゲよりは役に立ってみせましょう」
「馬に負けるような我では無いぞ、何が望みだ」
この二人、どうしたらこの喧嘩やめてくれるんですかねー。アピールどころか疲れるんでマイナスですよ、マイナス。
でも私には優しいんですよね。そこの所はちょっぴり嬉しかったりします。ほら、私毒殺未遂で婚約破棄からの追放されたばかりなので寂しくはあったんです。一応。婚約者も他の女とデートばっかりで私には構ってくれてませんでしたしね。
「では此方へいらしてください。模様替えをしますので」
私は一階の空いている応接間に二人を案内しました。
夕飯の後なんかにお茶するのにちょうどいい部屋なんですが、実質一人暮らしの私は全部リビングで事足りますし、ここに最初のクリス神様の像を建てようかと思いまして。祈りの間ですね。
「ここの家具や装飾品を二階の倉庫に運ぶのを手伝ってください。カトラリー等は壊さないように慎重に扱ってくださいね」
ここにも飾りのチェストや皿が置いてあるので、一応注意をして、私はとりあえず一番邪魔そうな中身の入った本棚をひょい、と持ち上げました。
「へ?」
「は?」
それは二人の合唱でした。
しまった、見た目はフォークより重いものなど持ったことの無いような元令嬢でした。
「あ、これは気にしないでください。一人だと何往復もしないといけなくて大変だと思ってたんですよね、助かります」
おほほ、と愛想笑いを浮かべながら私は本棚を持って部屋を出て、階段をひょいひょい登り、二階の奥まった所にある倉庫の端へ本棚を置きました。
戻ると二人の動きが止まっています。サボられると意味がないんですけど。
「あの、シェルさん? イグニスさん? 手伝って貰えます?」
「あ、あぁ、はい、すみません。驚いてしまいまして……すぐやります」
「お、おう、任せておけ。すぐに済ませる」
先程よりもどこかよそよそしい気もしますが、二人はようやく動き出してくれました。
なんだっていうんですかね、本棚の一つ二つで。貴方達だって持てるはずでしょうに。
こうして三人でせっせと応接間を空にすると、部屋の入り口まで二人には下がってもらいました。
私もその位置で手を組むと、礼拝堂のような場所をイメージします。
しっかりクリス神様の神々しいお姿まで思い浮かべて……よし、イメージはばっちりです。
「【創造】」
唱えると、絨毯引きだった床は艶のある石造りに、壁も漆喰で白く塗られ、一段高い場所にあの神々しいクリス神様の石像、そしてその上にステンドグラスの円窓ができあがりました。お供え用の台もあります。
「よし! いいですか、シェルさん、イグニスさん。この方はこの世界の神様のクリス神様です。気が向いた時でいいのでお祈りしてくださいね」
驚いて固まってしまっている二人に私はクリス神様のご紹介をしました。これで信者2名ゲット(強制)です。
まだポカーンとして私を見ているシェルさんとイグニスさんの目の前で掌をひらひらと振ってみます。
「……お前は他にどんな魔法が使えるんだ?」
絞り出すような声でイグニスさんに訊ねられました。
「あとは【修復】と【調薬】と……あぁ! 【収納】が使えるので一人でも模様替えできましたね。お手間を取らせてすみません」
「そ、それは、すべてこのクリス神様からの……?」
「はい! 授かったものです!」
何故でしょう、二人の背後に敗北という文字が見える気がします。
「馬……」
「トカゲ……」
そして二人は顔を見合わせると急に握手をしました。仲良きことはよきかなですが、人外殿方の考えることはさっぱり分かりません。
「一時休戦だ」
「分かっています。クリス神様には負けられません」
神様に対して勝つも負けるもないと思うんですがね? なんて余計な事を言って喧嘩が再燃されるのも困りますので、これもクリス神様の御加護ということで。
私はそっと礼拝堂の中ほどに進むと、膝をついてお祈りを捧げました。




