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序
───そうか。
幼い顔を誇らしさに輝かせて見上げる彼に、父は満足げな顔でそう言った。
同年輩の子らと道場で打ち合い、勝ち抜いた日のことだ。あちこちに青痣を作ってはいたが、滅多に彼に目を向ける事のない父が彼に向かって笑っているのが嬉しくて、痛みなど感じなかった。
───やはり、我家の血を継いでいるのだな。
父にそう言われて、彼は誇らしげに胸を張る。幾度も繰り返され、近頃はつまらないと聞き流していた幾代も前の御先祖様の話も、今日は色鮮やかに聞こえた。彼の先祖は武勇に優れ、藩主の傍で幾度もその危地を救ったのだ───
そんな風になりたい。
そう言うと、父はまた満足そうに笑って言った。
───ならば、もっともっと強くなれ。いつか、その技でお役目を果たし、国を背負って立てるように。
父の言葉に彼は、はいと元気よく頷く。
いつかそんな日がきっと来る。
江戸の町で武士と生まれたからには、それを目指して生きてゆくのだ。
夕焼けに真っ赤に染まる空を背に、その日の彼は真っ直ぐにそう思っていた───