エンドリサイタル 〜死にたがりの僕と死神の少女〜
雲ひとつなく太陽がギラギラと輝いていた日だった。
その日、僕は死神と出会った。
生きるとは、どういうことなのだろうか。
人間らしい生活を過ごすこと。
これが生きるということなのか。
そしたら、僕は生きているのか。
そんなどうでもいいことを考えながら、僕は病院にむかって歩いていた。
そして、今は何もしていない。
んなことは、どうでもよくて、今必要なのは、この胸のモヤモヤ感をどうにかしたい。言っておくが、恋ではない。多分。
このモヤモヤ感は、去年の夏ぐらいから始まったんだっけな。
去年の夏。最悪の夏。僕にとっては重大な夏。それは、信愛にして、親愛なる妹が生きることをやめた頃であり、僕が人間嫌いになった頃でもある。
いわば、人生の転機ってやつ。また、職にもつけてないのに迎えるとは思わなかった。
まだ、恋人もできたことないのに。
妹を愛しすぎたのがいけないのかな。まあ、妹がかわいすぎるのがしょうがない。僕の拙い語彙では、妹のかわいさを表せないのが辛い。まあ、それでも僕の妹の沢山ありすぎるかわいいところを言うとしたら、僕のことを“お兄ちゃん”と言ってくれるところだね。天使である。大天使である。
んまあ、もう、僕のことをそんな風にとは言ってくれないんだけどさ。けど、大天使だよ。妹。可愛い。アイラブユーだよ。
閑話休題。
このままだと、僕の妹がこんなに可愛いわけがない、なんて題名になってしまうから話を戻そう。心のモヤモヤが辛い。心のモヤモヤ。言葉に表すとしたら、自分に対しての叱責、失望感。その他沢山。まあ、例えるとしたら悪いことをして先生に怒られた感じ、教室の花瓶を割ってしまった感じ、道で犬のフンを踏んでしまった(韻を踏んだわけではない)感じ。まあ、色々ある。例えきれないくらいに。まあ、いいものではない。かといって、悪いものではない。負の部分。人であるために必要な感情だ。
こいつが心に住み着いてからは、趣味が楽しくなくなり、食べ物の味がしなくなり、人を好きになれなくなった(妹は大天使であるため、例外だ)
こんな僕は、生きていることになるのだろうか。
なにより、こいつは僕と和解してくれないのである。
僕が若いからだろうか。
年齢を積めば慣れるのか、分からない。分かりたくはない。
ん、まあ、どうでもいいんだけどさ。
なんて長考してたら病院についた。
僕はいつものように手続きを済ませ、いつものように、あの病室へと向かった。
「やあ、妹よ、元気にしているかい?」
いつものように挨拶をする。返事はない。いつものように寝ているみたいだ。いつものように。
あの事件によって、妹が目を閉じてから、約1年が経った。
それでも、目を覚まさない。いわば、植物状態ってやつ。ただ、呼吸をして生命が途絶えないように維持している状態。
人ではない。動かないから天使でもない。
色々な感情押し寄せてきて、僕はベッドに顔を埋めた。
僕が悪いんだ、僕のせいだ、僕が、僕が妹をこんな目にあわせてしまったんだ。僕がいけないんだ。僕なんかがいなければこんなことにはならなかったんだ。僕がいなければ。僕のせいだ。僕が悪いんだ。僕が。僕が。僕が悪いんだ。
死にたい。死ねば苦しまなくて済む。
この、心のモヤモヤも。妹への後悔も。僕の罪も。
全て楽になる。
「死にたい。殺してくれ。妹を助けてくれ。誰でもいいから。僕を解放してくれ」
僕は叫んだ。
「気に入った」
どこからか声が聞こえたような気がした。
視界が真っ暗になった。
目が覚めた。
ベッドに伏せて眠っていたらしい。
「目が覚めたようじゃの、ゆー様よ」
「え、」
僕の横に、少女が立っていた。
満開の笑みで、いやらしいほど大きな笑みを、愛おしいほどキュートな笑みを浮かべて。
立っていた。
「何をびっくりしておる。ゆー様が我を呼んだのじゃろう」
んで、なんなんだ、この状況。
少女は僕のことをじっと見つめていた。
はやくしろ。と急かしている。
関わりたくはないが、聞くしかないか。
「で、つかぬ事をお聞きしますが、君は何者ですか」
きっと只者ではないだろう。
「我は死神じゃ」
やはり、只者ではなく、変わり者だった。
人は見た目で判断してはいけない。こんなキュートな見た目をしているけど。疑ってはいけない。
けど、こいつがもし本当のこと言っているのなら聞かなければならない。
「君が死神だというのなら、妹はもう」
「いや、違うのう。それはゆー様の願いに反する」
「え、違う…じゃあ、君はなんで僕の前に現れた」
少女は言った。知っていて当然だというように。当たり前のことを言うように言った。
「ゆー様の願いを叶えにきたんじゃ」
願い。確かに僕は願った。
妹を助けてくれ。と確かに願った。
「なにを驚いておる、ゆー様が願ったのじゃろ」
「ああ、願ったさ」
「じゃろじゃろ。だから、われがきたんじゃ」
「じゃあ、妹を助けてくれるのか」
少女は首をかしげた。キュートだ。
「なにを言っておる、ゆー様よ。自分の願いを忘れとるのかの」
「僕の願い…」
妹を助けてくれと僕は願った。
けど、それはちがう…
「じゃあ、ギャルのパンティをおくれ」
「。…」
無言だった。顔が笑ってなかった。
「ふざけて良い場面ではないわい」
「ごめんなさい」
今はシリアスな場面らしい。
やっぱり、あの願いか。
「じゃあ、君は僕を解放してくれるのか」
少女は笑った。待ってましたと言わんばかりに。今日一番な大きな笑みだった。
「んじゃ。ゆー様を解放してやる。ゆー様は我と契約した。ゆー様は我の主人さまじゃ」
わけがわからなかった。いきなりすぎる。
「えっと、クーリング…」
「それは受け付けておらぬ。我が暇になってしまうからのう」
どっちが主人さまなんだか。
「まあ、いい。で、僕を解放すると言ったが、厳密にはなにをするんだい」
「それはのう。ゆー様を死から解放してやるんじゃ」
「死から解放…」
つまり、“死ねない”ってことか。
最高の皮肉ではないか。
「僕が願っているのは逆のことだ」
「我にゆー様を殺せと言うのか。我は死神じゃからの。そんなのは朝飯前じゃ。けどのう、もう殺すことに飽きてしまったんじゃ。だから、もう殺すことはせん」
飽きてしまったって。なんという職務怠慢である。けど逆に良いのか。この場合は。
んなことより、僕は死ねなくなってしまうのか。
妹の顔を撫でた。またな、妹よ。
「そんなのはごめんだ」
僕は出口へ走った。
「待つんじゃ、逃げても無意味じゃ。ゆー様よ」
僕は病院の中を走り抜け(危ないのでみんなはやめよう)家へ走った。
“死”
それは生きている限り必ず訪れる。
生きている限り人は死へと向かっている。
それはどうしようと抗えないものであり、怖れられている。
けど人は死に対抗した。どうにか対抗しようとしてできたのが宗教だ。死に意味を作り、死後の世界を作った。医学や哲学も死に対抗しようとした点では信仰と同じだ。
けれど、死には抗えない。絶対に人は死ぬ。
つまり、人が死ぬことは確定しており、生まれたときから決まっているルールだ。
死はゴールである。ゴールが見えてるから人は頑張れるのであり、ゴールがあるからこそ人は生きるのである。
死ぬために生きており。
死なない限り生きているのである。
そう考えると僕は生きていることになるのか。
真っ当な人間生活を送れていなくても。
死んではいないから、僕は生きているのか。
たが、死を奪われたらどうなるのだろう。
ずっと生きていることになる。けど、死ぬことがない。そうなったら、生きる意味はどうなるのか。
目標がないのだから。ゴールがないのだから。
それこそ、何もかも捨てて死んだように生きてしまうだろう。
「なりたくはないけどね」
住んでいるアパートについた。
見た目はボロく、中もボロい。その分家賃も安い。軋む階段を上り、一番奥の部屋へ向かう。
ドアノブに鍵をさす。
「あれ、空いている」
おかしい。僕は意外と几帳面な性格をしているので戸締りの確認は必ず二回はする。
「僕の部屋に金目のものはないのに」
怖いが入るしかないだろう。
意を決し、中に入った。
「小さな靴がある」
乱雑に脱ぎ捨てられていた。
なんだか嫌な予感がする。僕は小さな靴を揃えて並べ、僕の靴を脱ぎ、リビングに向かった。
「遅かったのう、ゆー様よ」
嫌な予感は当たったようだ。
そこには病院であった少女がいた。
正確にいうと、ビールを片手にくつろいでいた。
何様であるか…
死神様か。
「何を驚いておる、我は死神じゃ、ゆー様と契約したのじゃから、ゆー様に憑くのは当たり前じゃろう」
僕の当たり前を返して欲しい。
「てか、お前、年齢的に大丈夫なのかよ」
「それなら、大丈夫じゃよ、我はゆー様の好みな体型で現れただけで、数百年は生きておるからの」
「僕の好みな体型…」
どうやら僕はロリコンらしい。
けど少女の言っているように、なんだか妹に雰囲気が似ている。
小さくて無垢で脆くてすぐ壊れてしまいそうな儚い可愛らしさをまとっていた。
「それより、ゆー様よ。我は日本酒が飲みたいんじゃ。今日は酒盛りじゃ、宴じゃ、パーティーじゃ」
「パーティーか、確かにそうだな」
僕が変なものに憑かれた記念日
「ご馳走じゃ、お酒じゃ」
こいつはただ騒ぎたいだけらしい。
「酒は家にあるので全部だ、近くにコンビニはない。諦めろ」
「いやじゃ、いやじゃ、我は日本酒が飲みたいんじゃ、これは譲らんわい」
どうやら諦める気は無いらしい。
しょうがない。買いに行くしかなさそうだ。
「わかったよ。買いに行けばいいんだろ」
「んじゃんじゃ。我もついていく」
まあ、そうなると思っていた。
「しょうがないな、迷子になるなよ」
悔し紛れの皮肉を言った。
「安心せい、我はゆー様に憑いておるからのう」
僕は自転車の後ろに少女を乗せ、近くのスーパー(自転車で10分くらい)へ向かった。
「ついたぞ」
「ほお、ここがすーぱーという場所なんじゃな」
「ん、なんだ、お前、スーパーに来たことないのか」
「んじゃんじゃ。我はゆー様が願いを聞いて目覚めたからの。それまでは寝てたんじゃ」
「寝てたって、だいたいどのくらいなんだ」
「ん、そうじゃのう…100年くらいかのう」
「100年って」
そうか、やっぱりこいつは只者ではなかった。
「まあ、いいか、入ろう」
「んじゃんじゃ」
「ゆー様よ、ゆー様よ。我は刺身が食べたいんじゃ」
「ゆー様よ、ゆー様よ。なんじゃこの、ぽてとちっぷす、というやつは」
「ゆー様よ、ゆー様よ…
入ってからが大変だった。
約一時間。長い長い戦いだった。
こんなにスーパーを歩き回ったのは久しぶりだ。隣の少女の見た目は子供、頭脳も子供だったらしい。
子供の好奇心は侮れない。
袋にして3つ。戦利品を担いで僕たちは復路を走った。
「ゆー様よ、ゆー様よ。今の時代はたくさん新しいものがあるんじゃのう」
「ああ、100年前はわからないけど、新しいものは頻繁に出るよな」
ものすごい上機嫌である。
「今宵は宴じゃ、パーティーじゃ」
うきうきして踊っている。可愛い。
そうやって、少女を見つめていると、僕は昔のことを思い出した。
妹が起きていた頃。平和だった頃。僕がまだ死を知らなかった頃。無邪気で恐れを知らなかった頃。強くて弱かった頃。
妹も嬉しいとあんな風に、踊って鼻歌を歌っていたっけな。
今ではもうありえない。
儚い夢だ。
妹と過ごしていたあの頃に戻りたい。
僕が求めているもの。僕に足りないもの。
妹に振り回されて生きていたあの頃に。
何も考えていなかったあの頃に。
戻りたい。
「何を呆けておる、ゆー様よ。速く宴の準備をせんかい」
「ああ、ごめん。今からするよ」
そう言って僕はわがままなお嬢様のために夕飯の準備を始めた。
「「いただきます」のじゃ」
お嬢様に言われた通り、豪華な食事にした。
「ん、うまいのう」
「そりゃあ、お嬢様のために愛情を込めましたから」
「よきことじゃ、愛情コミコミじゃ。ん、この酒もうまいのう」
「もっと落ち着いて食べろよ」
楽しそうでなによりだ。
本当に妹にそっくり。
ガツガツと汚い食べ方だけど、美味しいそうにたべる様。
「ん、ごれぼゼッビンじゃ」
口に物を入れてたべる様。
可愛い。妹に似ている。
いや、記憶がこいつを妹に似せているのかもしれない。僕は妹以外の誰かと食事をしたことはないから。
「おかわりじゃ」
「はいよ」
茶碗をもらいキッチンへ向かった。
そのときに鏡に映った僕は笑っていた。昔ように。澄んだ笑顔だった。
ああ、これか、僕が求めているものは。
「はいよ、おいしいか」
「んじゃ、絶品じゃ」
その後も宴は続いた。
皿が綺麗になったとき、ついに本題を聞くことにした。
「なあ、お前よ。僕は一体何をすればいいんだ」
「ん、それは簡単じゃよ、死ねばいいのじゃ。それからは我の仕事じゃ」
「死ねばいいって…いつまでだ」
「んーとのう、ゆー様に憑くまでの間に、我の具現化を維持できるのがいつまでかわからんからのう。細かいことはわからぬ」
「じゃあ、このまま俺が死ななければお前はいなくなるってことか」
「んじゃ、そうなるんじゃな」
僕はこいつから解放されることもできるらしい。
「おかわりじゃ」
「はいよ。って、もう品切れだ」
なんという食欲。子供は侮れない。
「酒もそれで最後だからな、味わって飲めよ」
「んじゃあ、わかっておる」
僕は食器を片付けながら考えていた。
僕は何を望むのか。
妹が僕を振り回してくれること。
僕が何をしたいのか。
妹の笑った顔が見たい。
僕が何をしなければいけないのか。
妹が喜ぶこと。
僕が何をしたくないのか。
独りになること。
僕が何を恐れるのか。
妹を失うこと。
「ゆー様、まくら、まくらー」
「僕はまくらではない。ほら、布団だ。」
彼女は布団に飛び込んで丸くなっていた。
「じゃあ、僕はソファで寝るから。おやすみ」
「待てい、ゆー様よ。ゆー様の寝床はここじゃ」
少女は自分の布団のスペースを空けた。
「一緒に寝ろ。と」
「んじゃんじゃ。変なことはするんではないわい」
「するかよ」
まだ妹にもしたことはない。そこは僕の中での誇りである。
「おやすみ」
「んぬ、おやすみなのじゃ」
言った途端、すぐ寝始めた。子供みたいだ。
僕はそっと少女の頭を撫でた。髪はサラサラだった。
懐かしい感じがした。
「僕が求めていたのはこれなのかもな」
僕も目を閉じた。
少女は暖かかった。
「はようおきんかい、ゆー様よ」
「ん、ああ、おはよう」
「おはようではないわい。もう、こんにちはであるのじゃ」
時計を見たらお昼過ぎだった。
「我はお腹が減った。何か作っておくれ、ゆー様よ」
「わかりましたよ、お嬢様」
「んじゃんじゃ」
僕は簡単な食事(焼きそば)を作った。
「「いただきます」のじゃ」
「ん、これも絶品じゃな、ゆー様は料理が上手じゃの」
それにしても美味しそうに食べるな。羨ましい。
「「ごちそうさまでした」のじゃ」
「んで、今日はなにをするんだ」
「んじゃ、今日はの、観光がしたいのう。我を高いところに連れて行っておくれ」
「高いところ、どうしてそんなところに」
「つけばわかるわい」
「そうか」
高いところと言われても、僕はそこまで地理に詳しくないからな。
山とかに連れて行けばいいか。
「ほれ、行くぞい」
そうして僕は後ろに少女を乗せて山へと漕ぎ出した。
移動しているとき、僕は少女の昔話を聞いた。
少女は独りだったらしい。肉親や友達はいない。
ひとりぼっちだった。
少女は寂しいから前に一人だけ、人の友達を作ったらしい。一人だけ死から解放した。
けど、その友達は死んだように生きるようになった。結局は自殺してしまった。そしてまた一人になってしまったらしい。
振り返ると寂しそうな顔をしていた。こんな顔は見たくない。見たくないけど。
僕はどうなるのだろう。
いや、何を望むのだろう。
何を拒み、何をするのか。
決めなければいけないらしい。
「僕が望むもの…」
妹と暮らしていた、振り回されて生きていた日常。何も考えていなかった平和な日々。
だが、僕はもう考えることを覚えてしまった。妹を失い一人になったことで、僕は自分で生きなければなかった。自分の意思で行動しなければならなかった。
けど、僕は何がしたいかがわからなかった。
何をしたくないかさえも。
考えることを放棄していた。もう何も失いたくないし、何も得たくないから。
そんな僕の前に少女が現れた。それは偶然だったかもしれない。けれど、僕に安らぎを与えた。少女に振り回される事によって。前と同じだ。
だから、僕はまた失ってしまうのかもしれない。
そんなのは嫌だ。
僕は…
僕は、この安らぎを失いたくはない。
僕は、独りになりたくない。
「僕は、この少女と一緒にいたい」
「んぬ、よかろう、じゃら、ゆー様の死を頂こう」
少女は僕にこう言わせたかったのかもしれない。
けど、今はそんなことはどうでもいい。
僕自身で、少女と一緒になることを望むんだ。
僕の生きがい。生きる意味。死なない理由。
それは、この少女と一緒に生きること。
僕自身で決めたんだ。
「じゃあ、僕は何をすればいいんだい」
「んー、じゃのう。死にそうになってくれればよい」
僕はペダルをもっと速く漕いで、山の頂上へと向かった。
幸運なことに、頂上の展望台には誰もいなかった。
「じゃあ、ゆー様よ。準備はよいかのう」
準備か。僕の意思は固い。
あのとき、少女が昔話をしているとき、少女は寂しそうな顔をしていた。
死神は死なないらしい。
死なないとはゴールがないこと。
ゴールがなければ頑張れない。
それは神も同じだ。死神も。少女も。
だから、彼女は誰かと一緒に歩きたかった。終わりのない道を。
だから、彼女は一緒に何かをする人が欲しかった。旅の友として。
だから、共に歩く人が欲しかった。話をしたいから。
だから、友達が欲しかった。寂しくならないために。
だから、彼女は人と友達になった。
けれど、所詮は人。100年生きたら死んでしまう。彼女からしたらすぐ死んでしまう。そんなことは知っていた。理解はしていた。前は自分も人として生きていたのだから。
けど、寂しいことに変わりはない。
だから、一人だけ死から解放した。
けど、そんな簡単にはいかなかった。
死を失った、ゴールを失った人は強いけど弱かった。死んだように生きていた。
ゴールがないと歩くことを拒否した。
生きることを拒否した。
だけど、僕は違う。
僕は自分の意思でこの少女と共に生きることを決めたんだ。
少女が笑えば僕も笑うし、少女が寂しければ僕が寄り添ってあげるんだ。
「ああ、準備万端だ」
「んじゃんじゃ、では、死んでおくれ」
さようなら。いってきます。
けど、忘れる前に1つだけ聞いておこう。
「そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」
「エリーシャット・グラスイージ。これが我の名じゃ」
「グラスイージ。じゃあ、今日からお前の名は“薬”だ」
「薬か、いい名前じゃの」
そうして、僕は跳んだ。
柵を乗り越え、空へ飛んだ。
自分で選んだ道へ飛んだ。
終わりのないこの道へ飛んだ。
だけど、一緒に歩く友がいる。だからきっと、歩き続けることができるだろう。
僕たちは独りじゃない。
目が覚めたら、僕はミノムシになっていた。
全身骨折してるんじゃないか、これ。
「全身が痛い、元通りになるのか、僕」
「気にすることないわい。ゆー様はもう死なないのだから、いつか治るんじゃ」
薬は僕の隣に座っていた。僕の側に座っていた。
「でも、痛覚は残っているみたいだな」
「当たり前じゃ、お主は人じゃからの」
「元、人だろ」
「そうじゃった、そうじゃった」
ゴールがないからのんびりと。
薬と一緒にのんびりと。
僕達は死なない限り生きている。
What do you want ? Do what you want.
完
ここまで読んでくださりありがとうございます。
雪が降っているので初投稿です。
死なない限りは生きている。いい言葉ですね。
と、すると私も生きているらしいですね。
可愛い少女が目の前に現れてくれると嬉しいのです。
まあ、そんなことは起こるわけもなく。毎日を過ごしているんですけどね。
皆様に伝えたいのですが、身近にある幸せを大事にしていきたいですね。
生きているうちに何をするか。それが今回の話のミソとなりそうです。
今回張った伏線(僕の過去、薬の過去)は次回以降(書く気が起きたら)回収する予定です。
又は、死を手放した僕に向けられる刺客との戦い。
のどちらかを書く予定です。
次回も時間がありましたら、是非読んでください。
ありがとうございました。良いお年を。
読んでいて気づいた方もいらっしゃると思いますが、私は西尾維新様を意識しております。というか、大好きです。
だいぶ語り方も似ていると思いますが、盗作していないのでご安心を。
皆様も是非西尾維新様の作品を読んでください。