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今日から学校と仕事、始まります。②莞

詐欺師にも生活があるんだよ!!

作者: 孤独

この日、年寄りばかりを狙った2人組の詐欺師が捕まった。

被害にあった人達の数は13名。被害総額は7千万に昇ったとか。

警察という正義が、犯罪という悪に勝ったというものか。


詐欺師の2人はこれより警察と事情聴取に入る……。



◇        ◇


「おー!斎藤!!」


それは街で偶然会ったかように声を掛けるのである。

振り向いてしまう。


「私?」

「斎藤!俺だよ、俺!吉田だよ!久しぶりだな」

「!おー、吉田かー」



歳をとるとは、その姿が変わっていく事である。声を聞いてもハッキリと分からないが。自分と同じような年代の人からの声掛け。



「なんだ?これからどこか行くのか!?俺はこれから藤原と会う約束なんだがよ!」

「藤原もか!(ん~、どの吉田だっけ?藤原も聞いたことあるぞ)」


相手が思い出さない内に次の登場人物の予告もしておく。

なかなか聞けないものだ。

『どなたですか?』なんて事。

衰えている脳に、吉田や藤原なんていう分かりやすくて、どこかには居そうな苗字は確かに知り合いのような気がする。


「吉田ー!なんだよ、話ってー」

「おー!藤原!おい、それよりもほら!こいつ、知ってるだろ!偶然、斎藤にも会ったぜ!」

「え!斎藤!?ホントか!久しぶりだなー。いやぁ、互いに禿ちまったな」

「あ、ああ。なんだ、ホントに偶然なのか」

「なんかの縁だ!一緒に飲もうぜ!相談があるしよ!」



こうして斎藤は吉田と藤原の2人と一緒に飲みに行く。

当然であるが、この吉田と藤原はグルであり、斎藤とはなんの関係もない。斎藤からお金をだましとろうとしている詐欺師なのだ!



「いやぁ、俺。馬主をやっててよ!儲かってるんだよ」

「へーっ、すげぇな」


吉田は傲慢さをアピールし、金を持っているアピール。そして、アピールだけでなく。ドーンッとここに


「200万ある!俺の馬で勝たせてやるからよ!藤原も斎藤もどーだ?パーッと増やして返してやるぜ!」


テーブルに金も置き、色んなクレジットカードも見せられる。その金持ちたる振る舞いに感嘆と


「吉田、凄いな」

「ほ、ホントだったのかよ!吉田!俺、100万やるから!2倍、3倍とできるのか!」

「おう!5倍ぐらいやってやるぜ!」


この儲け話を聞いていた藤原は、ドーンっと、隣に100万を置く。

無論、グル。斎藤から金を出させようとするための演出である。


「今、そんな大金は持ってねぇぞ」

「銀行行って降ろして来いよ!この儲け話は今しかねぇぞ!」

「そうだよ!20万でも良いから、吉田の馬に渡せよ!こんな100万、200万にもなる話はきっとないぜ!」


知り合いを装って金を騙し取る。親友というものを利用しての手口。

その斎藤は……。


「あー、私。金儲けとかどーでもいいんだよなぁ」

「は?」


もうちょっと若ければ回答が違っていたような言葉であった。


「私達、もう70過ぎてんだぜ。正直、吉田に声をかけてもらわなかったら、吉田や藤原だったなんて気付かないくらい、認識が衰えてんだ」


認識の衰えっていうか。そもそも、初対面なんですけれどね!?


「私は清掃員を週3日の小遣い稼ぎで十分なんだよ」

「はーっ。夢ねぇな!俺達の歳で大金を稼げるチャンスはこれしかないんだぜ!」


煽る吉田。なんとしても金を騙し取ろうとする言動であったが、


「23で結婚と長女誕生。30でマイホームを購入。50で3人の子供を育て上げ、孫がもう4人もいるんだぜ!父親という人間として、真っ当にできたんだ!」


斎藤は吉田と藤原が友達と思ってこそ、今の自分の幸せを話していた。


「40年以上も仕事続けて、成長し信頼できる後輩達に惜しまれつつ退社。その後の時間で、家族と日本各地の旅行もしたし」

「いやいや!世界旅行とか行きたいだろ!金は色々必要だ」

「あ、世界旅行は去年、かーちゃんと2人で半年使って行ったんだよ。アメリカでメジャーリーグの観戦をしたし。スマホでよ、エジプトのスフィンクスに。オーストラリアの……なんとかロックの写真!見るか?」

「………………」


人の幸せ話。彼等にとっては、騙す相手なのだが。なんとも言えぬ、苛立ちが起こっていた。

斎藤が本当に幸せそうに、今の自分を語っているからだ。


「子供達も立派に働いてるし、孫もいる。家のローンも払い切ったし、世界旅行もした。どーせ健康でいられるのも数年ぐらいだからよ。金なんかもうどーでもいいんだよ。満足して死ねるぜ」


若い奴ならともかく、斎藤も吉田も藤原も年寄りなのだ。働くことに無理のある歳。


「200万、300万なんて。ちゃーんと若い頃から働いてれば、貯金できてるもんじゃないか。もう俺はそれを切り崩して生きていくだけだよ。今更、金儲けなんかしてもしょーがねぇじゃん。でも、吉田はまだ働くなんて、やっぱりすごい奴だな」

「そ、そうかよ。残念だな」


働き続けてなんだって言うんだ。

正直にイラっと来る言葉の詰め合わせだった。



◇         ◇



「いやぁ、知り合いの吉田が馬主をやってるらしくてさ。投資してみないかって、言われたんだ。藤原の奴、100万もその場で渡してたんだ」


そんなお話があった日の事。

三女の斎藤吾妻さいとうあづまに話している父親。


「でもな。私には自慢の子供達がいるって自慢してやったんだ!お前達を立派に育てて満足できたって、私は2人に言ったんだよ」

「まったくもぅ。恥ずかしいよ」

「だけどな。2人に訊きたい事もあったんだ」

「え?」


話していて思った事。


「吉田と藤原って誰だ?」

「お父さん!騙されかけてたのに、気付いてなかったの!?」



娘から警察に相談が入り、捜査が始まり。決定的な証拠を掴んで逮捕に繋がった。

死ぬまで家族と暮らす斎藤と、牢屋で暮らす吉田と藤原であった。


詐欺には気を付けようね。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 度々失礼致します。 詳細な返信ありがとうございました。 何となく、イメージが掴めました。 大胆な割りに杜撰だったので、どういう事だろうと思ったのですが、やはり手馴れた感じではなさそうで…
2019/01/13 14:44 退会済み
管理
[良い点] これは体験談が元の話ですか? 実話ベース? 見せ金の仕方とかがありそうな雰囲気だったので、書き込みしました。 もし、実話ベースなら、服装や身に付けていたもの、飲みに行った場所等追記があ…
2019/01/13 06:09 退会済み
管理
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