詐欺師にも生活があるんだよ!!
この日、年寄りばかりを狙った2人組の詐欺師が捕まった。
被害にあった人達の数は13名。被害総額は7千万に昇ったとか。
警察という正義が、犯罪という悪に勝ったというものか。
詐欺師の2人はこれより警察と事情聴取に入る……。
◇ ◇
「おー!斎藤!!」
それは街で偶然会ったかように声を掛けるのである。
振り向いてしまう。
「私?」
「斎藤!俺だよ、俺!吉田だよ!久しぶりだな」
「!おー、吉田かー」
歳をとるとは、その姿が変わっていく事である。声を聞いてもハッキリと分からないが。自分と同じような年代の人からの声掛け。
「なんだ?これからどこか行くのか!?俺はこれから藤原と会う約束なんだがよ!」
「藤原もか!(ん~、どの吉田だっけ?藤原も聞いたことあるぞ)」
相手が思い出さない内に次の登場人物の予告もしておく。
なかなか聞けないものだ。
『どなたですか?』なんて事。
衰えている脳に、吉田や藤原なんていう分かりやすくて、どこかには居そうな苗字は確かに知り合いのような気がする。
「吉田ー!なんだよ、話ってー」
「おー!藤原!おい、それよりもほら!こいつ、知ってるだろ!偶然、斎藤にも会ったぜ!」
「え!斎藤!?ホントか!久しぶりだなー。いやぁ、互いに禿ちまったな」
「あ、ああ。なんだ、ホントに偶然なのか」
「なんかの縁だ!一緒に飲もうぜ!相談があるしよ!」
こうして斎藤は吉田と藤原の2人と一緒に飲みに行く。
当然であるが、この吉田と藤原はグルであり、斎藤とはなんの関係もない。斎藤からお金をだましとろうとしている詐欺師なのだ!
「いやぁ、俺。馬主をやっててよ!儲かってるんだよ」
「へーっ、すげぇな」
吉田は傲慢さをアピールし、金を持っているアピール。そして、アピールだけでなく。ドーンッとここに
「200万ある!俺の馬で勝たせてやるからよ!藤原も斎藤もどーだ?パーッと増やして返してやるぜ!」
テーブルに金も置き、色んなクレジットカードも見せられる。その金持ちたる振る舞いに感嘆と
「吉田、凄いな」
「ほ、ホントだったのかよ!吉田!俺、100万やるから!2倍、3倍とできるのか!」
「おう!5倍ぐらいやってやるぜ!」
この儲け話を聞いていた藤原は、ドーンっと、隣に100万を置く。
無論、グル。斎藤から金を出させようとするための演出である。
「今、そんな大金は持ってねぇぞ」
「銀行行って降ろして来いよ!この儲け話は今しかねぇぞ!」
「そうだよ!20万でも良いから、吉田の馬に渡せよ!こんな100万、200万にもなる話はきっとないぜ!」
知り合いを装って金を騙し取る。親友というものを利用しての手口。
その斎藤は……。
「あー、私。金儲けとかどーでもいいんだよなぁ」
「は?」
もうちょっと若ければ回答が違っていたような言葉であった。
「私達、もう70過ぎてんだぜ。正直、吉田に声をかけてもらわなかったら、吉田や藤原だったなんて気付かないくらい、認識が衰えてんだ」
認識の衰えっていうか。そもそも、初対面なんですけれどね!?
「私は清掃員を週3日の小遣い稼ぎで十分なんだよ」
「はーっ。夢ねぇな!俺達の歳で大金を稼げるチャンスはこれしかないんだぜ!」
煽る吉田。なんとしても金を騙し取ろうとする言動であったが、
「23で結婚と長女誕生。30でマイホームを購入。50で3人の子供を育て上げ、孫がもう4人もいるんだぜ!父親という人間として、真っ当にできたんだ!」
斎藤は吉田と藤原が友達と思ってこそ、今の自分の幸せを話していた。
「40年以上も仕事続けて、成長し信頼できる後輩達に惜しまれつつ退社。その後の時間で、家族と日本各地の旅行もしたし」
「いやいや!世界旅行とか行きたいだろ!金は色々必要だ」
「あ、世界旅行は去年、かーちゃんと2人で半年使って行ったんだよ。アメリカでメジャーリーグの観戦をしたし。スマホでよ、エジプトのスフィンクスに。オーストラリアの……なんとかロックの写真!見るか?」
「………………」
人の幸せ話。彼等にとっては、騙す相手なのだが。なんとも言えぬ、苛立ちが起こっていた。
斎藤が本当に幸せそうに、今の自分を語っているからだ。
「子供達も立派に働いてるし、孫もいる。家のローンも払い切ったし、世界旅行もした。どーせ健康でいられるのも数年ぐらいだからよ。金なんかもうどーでもいいんだよ。満足して死ねるぜ」
若い奴ならともかく、斎藤も吉田も藤原も年寄りなのだ。働くことに無理のある歳。
「200万、300万なんて。ちゃーんと若い頃から働いてれば、貯金できてるもんじゃないか。もう俺はそれを切り崩して生きていくだけだよ。今更、金儲けなんかしてもしょーがねぇじゃん。でも、吉田はまだ働くなんて、やっぱりすごい奴だな」
「そ、そうかよ。残念だな」
働き続けてなんだって言うんだ。
正直にイラっと来る言葉の詰め合わせだった。
◇ ◇
「いやぁ、知り合いの吉田が馬主をやってるらしくてさ。投資してみないかって、言われたんだ。藤原の奴、100万もその場で渡してたんだ」
そんなお話があった日の事。
三女の斎藤吾妻に話している父親。
「でもな。私には自慢の子供達がいるって自慢してやったんだ!お前達を立派に育てて満足できたって、私は2人に言ったんだよ」
「まったくもぅ。恥ずかしいよ」
「だけどな。2人に訊きたい事もあったんだ」
「え?」
話していて思った事。
「吉田と藤原って誰だ?」
「お父さん!騙されかけてたのに、気付いてなかったの!?」
娘から警察に相談が入り、捜査が始まり。決定的な証拠を掴んで逮捕に繋がった。
死ぬまで家族と暮らす斎藤と、牢屋で暮らす吉田と藤原であった。
詐欺には気を付けようね。