妬む心は恋心
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「佐藤、教科書貸してくれよ」
「うん、いいよ。ちょっと待っててー 」
わざわざ隣のクラスからやって来た男子生徒に、なんの躊躇もなくそう返事をしたのは佐藤若葉。俺の幼稚園からの幼馴染だ。
「毎度毎度、そんな怖い目で見つめるなって 」
後ろの席の裕也がそう俺に言ってくる。
「別に見てねーよ」
嘘である。今若葉に会いにわざわざ隣のクラスからやって来ていたのは、石田という男子生徒だ。少し前からやたらと彼女にアプローチをかけてきている。
「はいはい、そうですかー」
裕也はニタァと気持ちの悪い笑みを浮かべて俺を見る。
そうですよ、嫉妬ですよ。独占欲ですよ。
と、そんな事は言えずに俺は裕也から目を逸らした。
――
俺は小さい頃から若葉の事が好きだった。この高校だって、あいつが行くと言っていたから選んだ位だ。
ただ、きっとあいつは俺の気持ちには気付いていない。それでもそんな微妙に曖昧な関係を、俺は気に入っていた。
「いつもわざわざ家までありがとね」
「おう。お前一人じゃ危なっかしいからな」
いつも通り、俺は彼女を家まで送っていく。いくら幼馴染でも、好きでもない相手を自分の家を通り過ぎてまで送っていったりしない。少し位、気付いてくたっていいじゃないか。
「最近、石田と仲良いよな」
「え? 」
気が付くと、思ってもない言葉が口から零れていた。いや、思ってはいた事で、本心なのだが。
「…………が相手してくれないからじゃん」
「え? 」
彼女が小声で言った言葉は聞き取れず、俺は聞き返す。
「なんでもないよ! また明日っ! 」
俺が返事をする間もなく、若葉は自転車から降りるとすぐに家の中へと入っていってしまった。
「なんだかなぁ」
俺はそう呟いて、また自転車を漕ぎ出す。
彼女が俺の想いに気付くのには、まだ時間が掛かりそうだ。