作者、二時間ドラマを懐かしむ5
「金に目が眩んでしまったわ( ̄〜 ̄;)。」
作者は小さな悲鳴をあげるように呟いて、カセットデッキの早送りのスイッチを「ガチャリ」と押した。
しばらくの待ち時間。
テープレコーダーの一曲早送りには、インターバルが必要なのです。
キュルキュルと音をたててテープが早送りされ、次の曲を見つけたデッキは、どやっ。と、オートマチックに早送りのボタンをガチャリと持ち上げた。
流れてきたのは
ジュディ・オングさんの
「魅せられて」
「………。いいでしょ。昭和のテープに録音されてる曲なんて、有名どころしか無いんだもん。
その上、テレビ局には明確なカラーがあって、なかなか他曲の番組のBGMなんて放送しなかったんだもん。
土曜ワイドのテーマソングなんて、私のカセットにはないわよ。」
作者はジュディの甘い歌声をバックに子供のようなスネ方をした。
「いいですよ。この曲は、映画のテーマソングでしたからね。
1979年、日伊共同製作の『エーゲ海に捧ぐ』のイメージソングでしたからね。」
私の台詞に作者は赤面しながら、不機嫌そうに頬を膨らませた。
「う、うん。すごいよね。日本人が原作の映画なんだよ…。でもっ、
『愛のコリーダ』やら、『エーゲ海に捧ぐ』やら、なんで外国の合作は、
みんなエッチな内容なんだろう(///∇///)嫌になるわ。」
作者は、キャラとはいえ、男性の私とこの映画の話をあまりしたくないようだった。
恥ずかしがるような年齢でも無いのですが…
なんて、口が裂けても言いません。
気持ちが子供に戻る分、現在のエロ画像より恥ずかしい気持ちになるものらしいですから。
「この映画も公民館で上映されたのですか?」
私は『愛のコリーダ』の作者のエピソードを思い出す。『愛のコリーダ』は、賛否があり、作者の行ける映画館で上映されなかったらしい。
「それはなかった…、と、言うか、
田舎の映画館で『エーゲ海に捧ぐ』の上映は無かったんだと思う( ̄〜 ̄;)その代わり、テレビで放映はされたのよ?」
作者は真一文字に閉じた口許に少しだけ照れ笑いを漏らしながら、左手で自分の顔を押さえた。
「wikipediaを見てね、1988年の放送を見ていたことを思い出したわ…。
後にイタリアで議員になるセクシー女優のチョッチョリーナさんの声を、
日本のセクシー女優、黒木香さんが吹き替えをしたそうよ(///∇///)」
作者は照れ隠しに不機嫌そうな顔をして、続きを語る。
「でも、なんで、こんな話になるんだろう(-_-#)
まあ、エロ問題は、ここで整理したいから良いけどさ。
wikipediaには、放映日が書いてあったから、おぼろ気な記憶に日にちがついたわ…。
金曜ロードショウだったのね。
その夜は、男性陣がいなくてね、私とお母さんが二人だったのよ…。
で、二人で見ることにしたのよ…
『エーゲ海に捧ぐ』。エロい話だって聞いてたけどさ。
げーじつだって、文化だって、イタリアの人も評価してるって、なんか、聞いた気がしたし…。
女同士だから、見ることにしたのよ。『エーゲ海に捧ぐ』。
金曜ロードショウの番組だから、ちゃんと、ヤバイところは、なんとかしてあると思ったし…
でも、のっけから、とんでもなかったわ、うふふっ。」
と、ここで作者は笑いだして、しばらく私を放りっぱなしにしていた。
こんな時、一緒に笑うわけにはいかないし、
ジュディの甘い歌に慰めて貰うしかありません。
けれど、曲も終わりジュディの歌声がカセットの右側に巻かれてしまい、それでも作者は感情を整えるのに必死です。
しばらくすると、カセットテープが、懐かしい歌と共に場の雰囲気を物静かなものに変えてくれました。
山口百恵さんの「いい日旅立ち」です。
百恵さんの暖かな低い声に、作者も気持ちを落ち着けたようです。
大きなため息をひとつ。
私の機嫌をとるように、少し上目使いにほほえんで、
「ごめん。ごめん。
でもね、後にも先にも、お母さんとのエロエピソードなんてこれしかないの。
だから、懐かしくて。
地上波放送だったし、当時の金曜ロードショウは、大人気だったから、変な内容では無かったのよ?
でも、親と見るには恥ずかしいものだったけど。
私のお母さんは、土曜ワイドの裸の死体すら嫌悪するような人だったの。
でも、西洋に憧れがあって、
ジュディ・オングさんの歌が素敵すぎて、
エーゲ海を見たいばかりに私達、頑張ったのよ。
なんか、冒頭から色気のある話をぐっとこらえて、普通の顔をしてね。
そのうち、なんだか、ニラメッコの我慢大会みたいになってきて、チャンネルを変えるタイミングがわからなくなってきてね…(-_-)
で、どちらも辛くなり出した時、玄関を開ける音がして、
私達、ウサギのように跳び跳ねてチャンネルを変えたのよ(´ー`)
バカみたいね。
悪いことなんて、何もしてないのに。
私、土曜ワイドで怪人見たさに裸の女の人を我慢してきたけれど、
お母さんも、見たいものがあると、やっぱり、頑張っちゃうんだと思ったら、なんだか、懐かしくて。楽しくなってきて。
ごめん。一人でわらったりして。」
作者はそう言って幸せそうに笑った。
「……。いいですよ。」
私は焦燥感に胸を詰まらせながら作者の笑顔に微笑み返した。
時が確実に過ぎ行くことを彼女の笑顔に見てしまったから。




