作者、パラサイトを振り替える9
風が優しく流れていました。
桃の精が『ロクデナシ』を弾き終わり、
越路吹雪さんの名前で思い出したのか、『愛の讃歌』を弾き始めた。
切ないビブラートを聞かせたスローテンポに改編された『愛の讃歌』
これは、日本では越路吹雪さんの楽曲として有名ですが、原詞はフランスのシャンソン歌手エディット・ピアフさんのものです。
映画にもなりましたし、有名な曲なので、それについては語りません。
この曲で思い出すのは、小さな私の作者が恋を知らない昔に、
この曲に恋の雰囲気を感じて夢を見ていた事。
でも、子供には…いえ、多分、大人でも、歌うのは案外難しいのです。
大人になったら、こんな情熱的な恋をするのかしら?
そんな事を考えていた作者も、もう、中年になりました。
この曲のような、身を焦がすような恋を…
あなたは経験したのですか?
そんな言葉が頭に浮かんで、過ぎさった時間を切なく感じます。
「ちょっとぉ。なにニヤついて見てんのよ(`ε´)
くそっ。
負けたくないわね。そんな顔されたらさ。
改編するわよ。なんとか。」
作者は眉間にシワを寄せながら、私の思惑とは全く違う事を考えていました…が、
この場合は、私の方がいけませんね。
私は気を取り直して作者を見ました。
「ニヤけてなんていませんが、ええ。もちろんです。
5万円の小説にしなくてはいけませんからね。」
私は不敵に微笑んで余裕を演出した。
「ごっ、5万!!そうよ、金儲けよ(T-T)
あーっ。泣けるっ。三年やっても0円なんて。
でも、そうよね、もう、既に6万文字は書いてるし、斯くなる上は…って、『かくなるうえ』って漢字でこう書くのね。ついでに、この台詞って、使うことないから、ちょっと新鮮。
なんて、そんな事はいいわ。
さあ、事件のあらましを明らかにして行きましょう。
継続していた読者は推定10人。再開で戻ってくるのは、良くて半分かしら?
彼らがこっちまで読みに来るとは思えないし、やるわよ。
さあ、何でも聞いて。」
作者は私を睨み付けますが、私は敵ではないのですが…ね。
「7年前の事件について、少し聞きます。」
私は胸元から紙と携帯用の筆を取り出した。
作者はそんな私を見て真剣に頷く。
「では、伺います。
あの日、何があの屋敷でおこったのでしょう?」
私の問いに、作者は苦笑いをする。
「それ…わたしも知りたいわ。
ゴメン、知ってる所だけでも言うわね。
今まで書いた話からすると、雅苗は不倫相手の女性を屋敷に呼び出しているわ。
この日、ショクダイオオコンニャクは開花の予定では無かったらしいから、溶生を呼んだのは雅苗ではないようだわ。
次の日の朝には、テレビ局の人間と打ち合わせを入れてるから、雅苗が何かを企てたりはしてないのは確かなようだわ。」
作者は今までの話を思い返しながらそう言った。