作者、パラサイトを振り替える60
気がつけば春…
すでに葉桜になっています。
作者と私は海岸を歩いていました。
人の少ない穏やかな海。
作者は風に髪を遊ばせて楽しそうに小さな声で何かを歌っていました。
私は、風にのる微かな歌声を聞きながら、幸せな気持ちになりました。
「ねえ、時影…。この世界を描くって、結構難しい事ね。」
作者はそう言って私を見ました。
「そうですね。」
私は言葉少なく同意しました。
「うん…なろう活動も4年目に入り、やっと、赤っ恥を押し退けて、ネット大賞にエントリーする決意をしたわ。
改変途中の滅茶苦茶な形でよ(T-T)
多分、この話は締め切りまでには終わらないわ。
でも、コロナも2年目、なんの希望も持てない現在、2ヶ月だけの空手形だとしても、賞金貰って名古屋に行く、そんなホラ話を友達にしてあげる事が出来るのは嬉しいわ。」
作者はそう言って靴を脱ぐと、砂浜の方へと歩き始めました。
「そうですね。」
と、私は相槌をうちました。
他に、なんと返してよいのか、返事が見当たらなかったからです。
『パラサイト』の改変は予想以上に大変です。
書きながら、色んな人物が、自分のミステリーを持ち出して来るので、それをまとめるだけでも一苦労なのです。
「私さ、この話、一万字の簡単なもので終わらせる予定だったし、
ぶっちゃけ、賞とか、選考とか、通らなくたって、今は良いとすら思うの。」
そこで、一度、言葉を区切り、海を見ながら、独り言のように叫ぶ。
「完結さえ出来て、ありがとうって、気持ちが伝われば、それでいいんだもん。
なろう作家の品格があればよかったんだぁ。
下手なりに、完結する、そんなスキルが欲しいのに、
ここに来て…
文書描写のやり方とか、そんなん、気がつきたくなんてなかったぁぁぁ°・(ノД`)・°・」
作者は海に叫びます。
春の日本海は、それを穏やかに受け止め、どこまでも静かに波立っていました。
「文書描写、ですか。」
やれやれと、私は方をすくめて、持っていたバックからレジャーシートを広げて座りました。
「そうよ(T-T)
今ごろになって、文の景色と絵画の景色の違いに気がついたんだわ……。
で、赤レンガのところで止まってるのよ。」
作者はそう言って私のとなりに座る。
果ての無いようなエメラルドグリーンの海。
そんな景色の美しさに尻を向けて、作者は私のトートバックからスコーンを見つけて嬉しそうに小さな悲鳴をあげました。
「どうぞ。召し上がってください。
小さな丸いポットに生クリームが入っていますから、お好きなだけかけるといいですよ。」
私は少し飽きれ、少しホッとする。
意気揚々と新たなサイトで小銭稼ぎを目指し、そこでコロナの話題は商業的に敬遠されそうな予感に悶絶してからの復活です。
また、ネット大賞の締め切りまで一ヶ月はあります。
なんとか…もう少し、恥ずかしくない体裁までもって行きたいところです。
「ありがとう。なかなか先に進まないけど……、見に来てくれる人がいるみたいだし頑張るわ。
書くことが増えるばかりで泣きたくなるけど……。」
作者はそう言ってポットから紙コップに紅茶をいれると、私に渡し、自分もいれると海を見つめて笑った。




