作者、パラサイトを振り替える51
師走の夜です。
昭和の雰囲気を含んだこの世界では、忘年会シーズンを迎えて賑わっていました。
街にはクリスマスソングが流れ、
恋人達は、希望に満ちた未来を自分と街に見るのです。
今宵の作者は、手編みのセーターとスラックス姿で、ホットウイスキーを楽しんでいました。
銘柄はオールド。1940年生まれのサントリーのブレンデッドウイスキーです。
「最近、オールドとか飲まなくなったわ…」
作者は、耐熱性のグラスで踊るウイスキーを見つめながら呟きました。
「まあ…基本、お酒に弱いですからね。
そのお湯割りだって…お酒の量が少なすぎて、リアルなバーでは出てこないレベルですよ。」
私は呆れていった。
「あら?ウイスキーはね、特にオールドには思い出があるのよ。
昭和では、お歳暮の定番だったし、
洋酒が珍しい時代は、お菓子作りのブランデーのかわりとか、色々重宝したわ。
あと、近所のおばちゃんとかの人形づくりとか。」
作者はなんだか嬉しそうにそんな話をした。
当時、オールドは、洋酒のバリエーションの少ない時代、手軽な洋酒として出回っていて、
その空き瓶を使った手芸なども色々と考えられていた。
ビンを口のところを接続して、ひょうたん状にしたもので、インデアンの少女の人形を作るのが流行した時期が、作者の頭の中にはある。
SNSのない時代、本当に流行していたのかはわからないが、この人形を作るのに、オールドの空き瓶が4つ…(人形は二人で一組なので)も必要なのにも関わらず、結構な確率でお洒落な近所の家には置いてあった記憶がある。
まあ、それくらい、身近なお酒だったわけだが、確かに、最近は、オールドを見かけなくなった気がするのだ。
「そうですね。税金の関係で、値段が劇的に変わったのが洋酒ですからね。
ネットの情報では、80年代辺りから、流通するお酒の種類も増えて、ウイスキーの一人勝ちの時代が終わるようですよ。」
私の言葉に、作者は愛しそうにグラスを持ち上げて光にかざした。
「そうね、80年代は、若者文化になってゆくもの。
バーから、居酒屋へとドラマの舞台も変化して、
様々な色の酎ハイと恋の物語が生まれて行くんだわ。
酒場の曲も、ながしのギター弾きからカラオケへと変わって行く時代だったわね」
作者はそう言ってホットウイスキーに口をつける。
それから、平田隆生とセルスターズの名曲『蜂のムサシはしんだのさ』をかけてもらった。
この曲は、1972年リリースの曲で、虫が主人公の寓話のような歌詞だったこともあり、子供を含めての大ヒットになった。
「私、この曲を聴くとイカロスを思い出したわ。
と、言うか、大人がそんな話をしたがる曲だったわ。」
「イカロス…蝋で固めた鳥の羽で空を飛び、太陽に近づきすぎて墜落死した、
科学が躍進を始めた時代には、原爆などの科学の暴走などの例えにも使われましたよね。」
私は、そう言いながらオールド・ファッションを注文する。
ウイスキーの銘柄をオールドに指定すると、マスターは軽く笑って「有馬記念も近いですからね。」と言った。
オールド・ファッション…このカクテルはケンタッキーダービーで有名な町の酒場『ペンデニス クラブ』のバーテンダーが考案したお酒と言われています。 日本のお酒を指定したので、年納めのダービーをマスターは思い出したのでしょう。
「私ね、当時はイカロスって、愚かな人間だと思っていたわ。
でも…今は、空を飛べるってだけでも凄い事なんだって、イカロスの気持ちがわかる気がするのよ。」
作者はお酒で頬を赤らめながら嬉しそうに話しかけてきました。
「それは良いですけど…酔い潰れて墜落とか、やめてくださいね。」
「わからない。でもっ、今ね、この脇役…の最新話のところで、私、なんか知らないけど、ラノベ風味のラブストリーを書けてるんだわ…
このまま一万字辺りの短編に仕上げられたら、
本当に、私の文章が現金に変わるかもしれないんだわ。」
作者は嬉しそうに両手をテーブルに置いて手を組んだ。
デシャブ…
浮かれる作者の横で、嫌な予感が私の胸に沸いてきました。
去年の年末、一万字の短編を書くとか言って、そろそろ一年、『パラサイト』の沼にはまりこんでいるのですから。
「ダメですよ。また、そんな欲をだしては。
とりあえず、『パラサイト』を完成させないと。
なにか、閲覧された方もいらっしゃるようですよ。」
私はオールド・ファッションを片手に少しいさめるように言った。
すると作者は、上目使いに私を見て、
「やっぱりダメ?」
と、聞いてきた。
こうして小説を書く動機となった、ふりまじんの仲間の剛さんが、月始めに
給料入ったから、いつでも名古屋に行けるよ(^ー^)
なんてメールを送ってきてから、作者の頭は混乱しているのです。
二万円…せめて、千円でも手にすることが出来たとしたら、作者への素敵なクリスマスプレゼントになるのでしょうが、甘やかす事は出来ません。
「ダメです。」
私のシンプルな答えに、作者は落胆しながらグラスを空ける。
『蜂のムサシはしんだのさ』の寂しいフレーズが、今の作者の背中に染みています。
「やっぱりダメか…。まあ、ね、確かに、恋愛もので完結するかわからないものね(´ヘ`;)
でもさ、何で、学習小説を考えると、ラノベ風味のラブストリーになり、
余興程度の短編ミステリーは、こんな壮大な事になるんだろうね(T-T)
確かに、私、上手く話をコントロール出来ていないもの。
諦めるわよ(;_;)
ああっ。悔しいわぁ…(T-T)
千円で良いから、まずは稼ぎたいわぁ…
甘酸っぱいラブストリーを書いてみたいのよっ。
なのに……なんだろう?この、SFミステリーの沼に落ち込む感じ。
はぁ…
でも、閲覧してくれる人も、ブックマークもいるんだもん。書かなきゃね(T-T)」
作者は少し私に絡むように不満をぶつけていた。
「大丈夫ですよ。剛さんの給料は、日々の支払いに消えたそうですし、
まだまだ、文芸大賞はありますからね。
10万字のまとまったお話の方が、ポイントや閲覧数が稼げますよ。」
私が励ますと、作者は、なぜか膨れっ面で私を見る。
「ダメよ。この話は、ネット大賞に応募するんだから。
一次審査を通過するのよ。
そうだった。書かなきゃね。」
作者は、軽く笑ってやる気を取り戻し始めた。




