作者、パラサイトを振り替える42
食事を済ませ、我々は一畳ほどの狭い茶室に移動して、池が見える窓からの風を感じながら、テーブルに向かい合って座りました。
先程から無言だった作者が、深刻そうに顔を歪めて申し訳なさそうに私に話始めた。
「ごめん、なかなか先が見えなくて、私、とても焦っているの。
ついでに、なろう異世界についても考察したいから、ちょっと愚痴らせてもらっていい?」
作者は申し訳なさをごまかすような、愛想笑いを私にする。
「なろうの…異世界の考察?ですか。」
私は語尾の辺りに呆れた気持ちが混じるのを感じながらそう言った。
四連休です。『パラサイト』を書くために色々頑張ってきたと言うのに、何故、異世界?なろうの異世界の話なんてするのでしょうか。
私の混乱を感じて、作者は、照れ臭さを隠すような面倒くさい顔で、ぶっきらぼうに話始める。
「ごめん。私、本気で焦っているわ。
読者の人は、こんなに待たせて何してるんだと思ってるだろうけど、
私だって、何してるんだかわからないけど、10万文字の話を完結させたいのよっ。
上手下手とかもう、どうでも良いのよ。
金がぁ…ああっ。名古屋に行くための二万円に近づける金になるアクセスがほしいんだもん。
剛のやつが、出稼ぎが決まって、心を入れ換えるってメールしてきたんだよっ。
アイツが稼ぎきる前に、一円でも稼ぎたいのよっ。」
作者は感情的に悶絶していた。
剛さん(仮名)は、ふりまじんのメンバーで、マイペースで個性的なキャラで、私の作者を翻弄させている中年男性です。
この人が関わると、作者の言動が意地悪ばーさんの様に変わるので、私は、この人があまり好きではありません。
「それは、良いことではありませんか。」
私は、穏やかに微笑んだ。 気がつけば、午後の日差しに秋の物悲しさを見つけることが出来ます。
「良くないわ…、ああ、アイツの遊興費をアイツが稼ぐんだから…
悪いことでは無いんだわね(T-T)
そうなのよっ。
問題はそこなのよっ。
私だって、『少し、稼げそうなゲンバなんだ。だから、期限が終わったら、名古屋に行けると思う。今度こそ、きっと名古屋にいこうね。』
なんて、メールを貰ったときは嬉しかったわよ。
コロナで出掛けられないような、こんな時だから、どうなるかは分からないけど、その志は嬉しかったわよ。
これで、もう、名古屋の事を考えないで済むかと思ったら、それは嬉しいわ。
でもっ。
『パラサイト』のアリ地獄にはまりこんだ私は、死ぬほどあせることになったのよ。」
作者は右手で額を触れながら、絶望的なため息をつく。
確かに、この物語は終わりが見えません。
が、現在、9万4千字。
終わりは一応、見えてはいるのです。
山登りに例えるなら、八合目。
頂上がすぐそこに見えるようでも、たどり着けない、そんなもどかしい状況なのだとは思います。
「まあ、お茶でも飲んで世間話でも致しましょう。
剛さんが心を入れ換えたのですから、作品は急がなくても良いわけですし。」
私は、別サイトの参加賞の500円分のポイント欲しさに『パラサイト』をぶん投げようとした作者を思い出して不安になる。
私にしても、読者にしても、投げやりなエンディングなんて望んではいないのです。
例え、出来が悪いとしても、真摯に作品に向かい合って、作者の最高のエンディングを見たいのです。
が、作者は私の言葉聞いて目を見開いて激しく反論を始めた。
「そうでもないわよ。
このままじゃ、私の三年は何の成果もなく終わってしまうじゃない。
一円も稼ぐことなく、アイツに…
剛の奴に先を越されると思うと、なんか、割りきれない気持ちになるのよ。」「貢ぎたくは無いとも言ってませんでしたか?」
剛さんの交通費が稼ぐと終わるなんて言われて、私は少し悲しい気持ちになる。
「そうよ。アイツの為なんて、びた一文使いたくなんて無いわよ(`Δ´)
でもね、三年。三年目よ。
確かに、エタばかりで、目茶苦茶で、読者の方には迷惑かけてはいるわよ。
でもっ、私だって、終わらせたいんだもん。
その為に、短編かいたり、こうして、ここで練習したりして、公募にも応募したりしたわ。
ネットを調べて、少額で小説を買ってもらったり、
アクセス数やポイントで小銭が稼げるサイトも見つけたりもしたわ。
長編が二つ。
どちらも既に九万字を越しているのよ!
あと少し、あと少しのところで、完結にたどり着けない、こんな時に、
10年近く、二万円すら用意できなかった、あのロクデナシの剛が、
剛が、本気で名古屋に行くために金をためるって言うんだもん。
焦ったわ。
そして、先に進まない話を睨みながら、自分のふがいなさに悲しくもなったわ。
そんなときに、こんなキャッチコピーを目にしたのよ。
『異世界行ったら本気出す。』って…
それを見て私には、剛が、
『異世界行ったら本気出す』
って言ってるようで腹立たしかったのよ(;_;)
で、思ったの。
なろう異世界ものの脇役の気持ちをね。
グータラ毎日適当に生活するバカのために、
出来ない事をコツコツと進めて、少しずつ上達し、夢が近づいてきたときに、
圧倒的な実力差で、事態を解決されるのって、脇役からしたら、もやっとする事を。
それはね、小説で金をもらうなんて、素人が右から左と簡単にできるわけ無いじゃない?
普通に働かれたら、そんなもん、叶うわけ無いじゃない。
この三年の全ての文字数を他のサイトにぶつけたところで、
今の実力じゃあ、二万円どころか、千円稼げるかもわからないもん。
完結してないし。
そう考えたら、なろうの異世界ファンタジーのチート主人公とかが憎たらしく感じちゃってさ。
はぁ…
私、こんなんで、本当になろうファンタジーなんて書けるんかな(>_<。)
日刊ランキングなんて言わないわ。
日刊のブックマークが二桁になるかも分からないんだもん。
そんな事を考えたら、モヤモヤが止まらないのよ〜」
作者は疲れた顔でニヒルに笑う。
私は、そんな作者を黙って見つめていた。
ここ数日、遺伝子やら、細菌の本を読んだり頑張っていたのは知っていました。
その合間に、ピタゴラスやら、ヘヴィメタル。
訳のわからない話を考えてるのですから、頭が湯だるのは理解はできる。
でも、私には、どうする事も出来ないのです。
「か、書かなければ良いじゃないですか。
それでは異世界ファンタジーなんて。
Web小説を書くにあたって、皆さんがいってるじゃありませんか、
全員が好きになる話なんてありえないと。
とにかく、二万円を稼ぐ作品を目指したらいいじゃ無いですか。
人気ジャンルをひとつも書いては居ませんが、それでも、少しはポイントが貰えるし、アクセスだって増えているんですから。」
私は、慰めの言葉を探るように長々とそんな話をした。
作者は静かに聞いていて、それから、私を睨み付ける。
「冗談じゃないわよっ。書くわよ。異世界ファンタジー。
トピラフどうすんのよっ!
脇役の最新話で再開して、ピタゴラスの生まれた年を間違えて指摘されたばっかりなのよっ。
そんな、へたれた事、恥ずかしくて言えないわよっ。
それにね、私たちには、リアルなろうファンタジーの主人公みたいな剛がいるんだもん。
これを利用しない手は無いわ。
そうよっ、確かに、Web小説は、誰もが好きになる話なんて作れるわけもないわ。
だから、主人公のチートキャラをポンツク扱いで、努力と根性で、二万円稼ぐ脇役の話を作ったっていいんだわ。
うん。なんか、やる気出てきたわ。
最高の悪役を作りましょう!!」
作者は、色々織り混ぜたやる気を口にして顔をあげる。
「悪役令嬢にでもなる勢いですね…
まあ、なんでも良いですが、その為にも、まずは『パラサイト』を書き終わらせましょう。」
私は、元気になった作者に安心した。




