作者、二時間ドラマを懐かしむ 12
食べ終わったスイカを片付けて部屋に帰ると、作者はボンヤリと空を眺めていた。
「なんだか、泣きたくなってきたわ。」
作者は、半分、魂を吸いとられたような顔で、絶望をにじませて私をみた。
「すいません。」
私は、その弱々しい作者の様子に胸がつまる。
もう二年目、3000文字の予定の話が広がり過ぎて終わりが見えなくなり、「MMR」と言う名作の濃いキャラに世界観を染められそうになり、正気に戻った現在、作者は方向性を見失い、太平洋に流されたヨットにでも乗っている気持ちなのでしょう。
「よかったら…、胸をお貸ししますよ?好きなだけ泣いて下さい。」
私は胸を軽く右手で叩き、少しおどけて両手を広げて見せた。
作者は、私を疲れた顔で見つめている。
どうしよう!?
ここに来て、変な雰囲気に混乱してきました。
こんな弱りきった作者が、私の胸に飛び込んできて、本当に泣き出したりしたら…、
そこから先をどう繋いだらいいのでしょうか!?
「何言ってんだかっ。もう。」
と、言いながら混乱する私に、作者の右腕が鞭のようにしなやかに当たりました。
年配の女性特有の激しいスキンシップで返されて、ホットしながらも、内心、少しガッカリする自分に苦笑しました。
「ありがとうね。私、たまに、金に目が眩んでしまうのよね。フリマの人だし。
でも、落ち着いたよ。
もう、一年近く動かしてないから、忘れていたわ。私のノストラダムス。」
作者は、そう言って死にかけの人物が作るような、穏やかな微笑みを私に向けた。
「でも、糸口を見つけたじゃないですか。
ブックマークの人だって、まだいるのだし、遠回りでも、方向は間違っていませんよ。」
私は、プレッシャーにならない言葉を選らんで語りかけた。
「そうだといいんだけどね…。でも、根本的に、ノストラダムスなんて扱わなければ良かったんだわ(;_;)
2017年じゃなければっ。あんなこと…考えてなかったに違いないのだから。」
作者は、昔付き合った嫌な男の話でもするように、すれっかれた様子で、酒をあおるように私の入れた麦茶をあおった。
その様子は、私の存在を否定するように見えて、なんだか気持ちを暗くした。
「後悔してるのですか?」
人は、ここ一番、聞いてはいけない質問を、つい、してしまうのです。
もしも、作者が「後悔している」と言ったら、私は、どうしたらよいのでしょうか?
もう、やめると言われたら…
遠くで、闇夜にヒグラシの泣き声を聞きながら、私もなんだか投げ槍な気持ちになります。
「してるわよ。後悔。」
作者は、奥歯を噛み締めて厳しい顔でそう言った。
分かっていても、本人からいわれると、胸が張り裂けそうです。
もう、これで終わりなのでしょうか?
「これから、どうするつもりなのですか?」
ああっ。そういう質問は、作者の機嫌がなおってからすればいいのに、なんで、聞いてしまうのでしょう?
でも、聞かずにはいられないのです。
この一年、私は、とても楽しかったから、
作者にもう、声をかけてもらえないなんて、とても耐えられそうに無いのです。
「どうもしないわよっ。」
作者は、ぶっきらぼうに呟いた。
「やっちまった事は仕方ないわ。
ほんっと、童話の日刊ランキングに名前が載ったときは、いけると思ったのよ?
手芸フリマ作家として、光輝くファンシーな世界に旅立てると信じていたのにっ。
MMRに90年代のオカルト世界に引きずり込まれるところだったわ。
私、雑誌『ニュートン』をめくりながら、宇宙人と光線銃の世界の新作作成に浸かりそうになったもの。
全く、恐ろしい男だわ、キバヤシ。
噂にたがわない作品だったわよ。」
作者は、奥歯を噛み締めて悔しそうに私をみた。
「やめたりしませんよね?」
私は、少し…いえ、結構期待しながら作者に聞いた。
作者は、物凄く不細工な嫌な顔を私にみせながら、
「オカルトを?
それとも、ノストラダムスを?
あの、初版に近い、足のある魚のついた「大予言」をフリマに一度も出すことなく?
じょーだんじゃないわよ。
売るわよ。絶対。
二万円、きっちり稼いで、名古屋のフリマに行くんだからっ。
あの古本をふりまじん、特製ブックカバー付きで千円で売るんだからっ。それまで、やめられるわけ無いじゃない!」
「でも、さっき、後悔していると言ってましたよね?」
「ええ。こんなことなら、名前をふりまじんにしなければ良かったと、後悔しているわ。
でもっ。
新札で二万円稼いで、みんなの前に差し出して、私は、運命を変えてやるんだわっ!!」
「新札…気の長くなるはなしですね?」
私は、そう言ってしばらく笑いが止まらなかった。
もう、キバヤシもMMRも、どうでも良くなって行くのを感じながら。




