第9話 【リメイク】スキル発動!
「あ、あの、バラチン? アタシはちょっとビックリしただけで……もう大丈夫だから」
「いいえなりませぬ。この者は人間の分際でお嬢様にあのような狼藉を……万死に値する罪の重さ故に――」
確かに俺は幼馴染みのマーレイと勘違いして魔王の娘アリシアに抱きついてしまった。言わば王国の姫様に農民の子が抱きついた訳だから死罪は免れないだろう。でも、ここは魔王城。人間の俺が彼らの法律に従う謂われはない!
「【鑑定】!」
俺は剣の切っ先を向けている執事服の魔人に鑑定スキルを発動させた。
――――――
[名称]バラチン
[種族]魔人
[職業]執事・剣術師
[状態]怒り
[攻撃力]剣:SS 槍:D 弓:E
[魔法]黒魔法:【闇】【毒】【火】 白魔法:――
[魔力量] 224/250
[耐久力]耐物理:S 耐魔法:S
[スキル]【近未来予知】
――――――
つ、強そう。
剣の腕がSSって、そんなランクもあったのか!?
「さあ、潔く剣をとり、私と勝負しろ! 私に勝てたなら今回の件は水に流してもよいですぞ。ふふふふふ……」
とがったアゴの上から白い歯が不気味に光った。
バラチンは俺を許す気はさらさらないようだ。
アリシアもやれやれという感じで下がっていく。
魔王は壊れかけの玉座に座り、俺らの対決をじっと見つめている。
俺はふらりと立ち上がる。
観衆がざわめく。
まったく、どうしてこういうことになってしまったんだろう。突然魔王城に召喚されて、ミュータスさんに合流して魔王城に攻め入って、そして魔王と魔王の娘を助けて、そしてちょっとした手違いで剣の達人と決闘する羽目になった。
もう、ため息しか出てこないよ。
「ねえユーマ。アタシの剣を貸そうか? それとも自分で創造する?」
そう、命がけで俺が助けたアリシアも、俺を見捨て――
「えっ……? 自分で創造する?」
「そう、あなたには【リメイク】のスキルがあるのよ? ハリィから聞いていなかった?」
「【リメイク】のスキル……」
その時、首に巻き付いていたハリィがぴょーんと床に飛び降りた。
その姿は元のずんぐりむっくりとしたハリィネズミそのものだった。
「【リメイク】やってみるー」
ハリィは後ろ足と尻尾で立ち上がって、短い手をぱたぱたさせている。
やってみるーっと言われても、何のことだかさっぱり分からない。
「あなたが『召喚されし者』から【剥奪】スキルで奪い取った特殊スキルを、あなた自身が使いやすいように【リメイク】して武器を創造するの。さあ、やってみて!」
アリシアが説明してくれた。あれ? どうして彼女はそんなに詳しいのだろうか? そう言えば最初に出会ったときからハリィのことを気にしているようだったし……
「ユーマ、そうぞうしてー」
ハリィの手から青い光が出現している。【リメイク】スキルの発動が準備完了といったところだろうか? 良くは分からないけれど、まずは言われるとおりに武器の形を頭の中に思い描いてみる。
まずは聖剣ミュータスの形を思い出してみよう。金色に輝く柄は青と白の宝石が仕込まれていた。手袋でも滑らないように溝が掘られていて、柄の長さは両手でつかんでも余裕があるぐらい。刃の部分は両刃で、中心部分に二本の線が走っていた。刃の部分の長さは1.2メートルぐらい。それをリメイクして俺の頭の中で想像すれば良いのだろうか。
そうだなぁ……俺にとっては初めての剣だから、振り回しやすさを最優先にして、聖剣ミュータスの半分ぐらいの長さにしよう。そうなると柄の長さは片手よりも少し余るぐらいの感じになる。色は……渋いブラックだ! いや、待てよ……いきなり剣なんか持たされても使いこなせるものなのか? ならはもっと……別の武器にするとか……
「ユーマ、じゅもんをとなえるー」
「よ、よし! 【リメイク】! 聖剣――」
「せっ、聖剣!?」
途端にアリシアとバラチン、そして観衆が騒然とした。
「あっ、今の間違いです。【リメイク】! 魔剣ユーマ、我が手の内に顕現せよ!」
すると、空には雷鳴が轟き、次の瞬間、玉座の間の高い天井から稲妻が侵入し、魔王は雷に打たれる。魔王は白目を剥き天を見上げ、兵士や側近が駆け寄る。
続いて祭壇の床を這うように誘導電流が俺とハリィに襲いかかる。
しかし、俺の意識は手の中に創造される魔剣の重みはっきりと感じていた。
つや消しブラックの格好の良い俺の剣は――手の平サイズの使いやすそうなナイフだった。鞘には農民の子供らしく麦の穂の形が掘られている。
「ふわっ? そ、それがキサマの剣かっ! 魔剣ユーマ、最高に強そうな剣ゆえに我が輩は……我が輩は……ぶわっははははは……」
バラチンが大笑いし、それに合わせて観衆も笑い始めた。
俺は――ここでも馬鹿にされている。
どこに行っても、俺は馬鹿にされる。
俺はそんな運命の下に生まれてきた男なのだ。
でも……
笑われたままで済ますつもりはない!
魔剣ユーマを鞘から抜き、右手で構える。
しかし――
次の瞬間には剣は無く、右手のしびれだけが残っていた。
身長2メートルを優に超える男、バラチンの足が、一瞬にして魔剣を蹴り上げていたのであった。