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第7話 【剥奪】スキル発動!

 これまで胸に懐いていた正義感や価値観がその一瞬で吹き飛んだ。

 銀髪の美少女、魔王の娘アリシアは俺に助けてと言った。

 だから――俺は助ける!

 

 ホルスに体当たりをすると、油断していた彼は吹っ飛んだ。

 すぐさま彼女を拘束している縄を短剣で切る。

 アリシアはその場に立ち上がり――


「お父様ぁぁぁーッ!」


 娘の声を聞き状況の好転に気付いた魔王は、玉座から飛び退く。

 主のいなくなった玉座に、聖剣ミュータスが斬り込まれる。

 凄まじい破壊音と共に座面に亀裂が入っていく。


「何をしやがる! このくそガキャぁぁぁ――ッ!!」


 俺はホルスに殴られ吹き飛ばされる。

 アリシアはそのホルスに回し蹴りを食らわせた。

 彼女は魔力ゼロの戦士。旅人職のホルスに戦闘力では勝っているのだ。


「アタシ……ずっと待っていたんだよ……あなたを……」


 仰向けに倒れた俺を、のぞき込むような姿勢でアリシアがそう言った。

 まるで愛おしい物にでも触るような仕草で、俺の首元のハリィを撫でている。

 群青色の瞳はハリィと俺自身に向けられている。


「俺を……俺たちを(・・・)待っていたと言うのか……君は?」

「そう。ずっと、待っていたんだよ?」


 これが俺とアリシアの初めての会話。

 それを待っていたかのようにハリィはもぞもぞと動き始める。


 しかし、会話はそれきりとなった。

 背後に迫るホルスがアリシアの美しい銀髪を掴み、彼女の顔面を膝で蹴り上げる。そしてもう一度蹴り上げる。


 アリシアの言葉にならない嗚咽が聞こえ、血しぶきが飛び散る。


『ドクン――』


 心臓を鷲づかみにされたような感覚が全身を支配した。

 怒りと絶望と恐怖と悲しみと――様々な感情が洪水のように押し寄せる。


「やめろぉぉぉ――――ッ!!」

『やめろぉぉぉ――――ッ!!』


 魔王の叫び声とシンクロした。

 

『たすけるー? ユーマ、アリシアをたすけるー?』


 ハリィの声。


「当たり前だろぉがぁぁぁ――!!」

『ユーマ、レベルあっぷしたー。そしてもう一つのスキルを手に入れたー』


 ハリィが何かを言い始めたが、次の瞬間のアリシアの動きに目を奪われた――


 彼女はホルスの鎧の下の襟を両手で掴む。

 そして、背中を丸めてホルスの彼を宙に浮かせ、その体を床に叩き付けた。


 腰から取り出した小刀をのど元に当てて――


「止まれ人間! こいつの命はアタシが握っているよ!」


 アリシアは聖剣を振り下ろしたばかりのミュータスさんに向かって叫んだ。


 ミュータスさんはチラリと振り向いたがすぐに魔王に向けて聖剣を構えた。


 そして――


「やりたければ()ればいい。私たちは元から命を捨ててここに来ているんだ。ホルスもきっと分かってくれるはず――」


「へっ……?」


 ミュータスさんの言葉を聞いて思わず出たホルスの呆けた声は、本人の耳には届かなかったようだ。


「……ユーマ? どうしよう」


 眉を下げてアリシアが俺に訊いてきた。

 突然、魔王の娘に名指しで呼ばれた俺は少し戸惑っている。


 俺は魔王の娘アリシアを助けた。


 それはつまり――そう言うことなのか。


 今更ながら俺は自分の行動に戸惑っている。

 でもあれこれ迷うための時間は俺には与えられていなかった。

 煮え切らない俺に愛想を尽かしたのか、アリシアの表情が険しくなっていく。

 アリシアの持つ小刀の切っ先がホルスの首に向かって突き刺さ――


「殺すなアリシア!」


 今度は俺が彼女の名を叫んだ。

 アリシアの手がピタリと止まり、目が俺に向けられる。

 ホルスの首からはわずかな血が落ちるに留まっていた。


 次の言葉は……


 次にかけるべき言葉は……


 何だ?


 一方、祭壇の奥ではミュータスと魔王が剣を交えていた。

 ミュータスが聖剣を振り下ろすと魔王が重たそうな斧の形をした剣で弾く。

 続いて下から斜め上に振り上げると、魔王は素早く避けて斧を振り下ろす。

 ミュータスは素早くジャンプして躱すと、その場所に斧が床に突き刺さり、祭壇の床がめくれ上がる。

 ミュータスは小刻みにジャンプを繰り返し、間合いをとった。

 そして、聖剣を構え呪文のような言葉を発している。


 俺は歯ぎしりをする。

 俺には何ができる?

 何をするべき?

 起き上がろうと床に付けた手の先に何かが当たる。

 それはアリシアが使っていた三日月形の片手剣――


『くたばるがいい、愚かな人間共よ――』


 地響きのようなうなり声とともに脳に直接届く魔王の声。


「くたばるのは貴様だ! 次の一撃で決めてやる!」


 ミュータスも声を上げる。


 その直後、魔王は膝から崩れ落ち、咳き込んだ。

 口から真っ赤な血液が噴き出している。

 魔王の病状が悪化したようだ。


 ニヤリと笑ったミュータスは聖剣を大きく振り上げる。


「行くぞアリシア――!」

「はい!」


 それは俺の口から自然に出た言葉。

 アリシアもホルスの体を離し、それに答えた。


 俺とアリシアが併走して魔王の元に向かう途中で――


『じゅもんー、じゅもんー』


 ハリィの声。

 先程から俺の視界には白い文字が浮かび上がっている。

 しかし【鑑定】スキルで誰かのステータスを表示している訳ではない。

 この呪文を読めと言っているのか!?


「我が名はユーマ。悪魔ルルシェとの契約に応じ、この身を捧げる者なり。漆黒の闇の契約に基づき【剥奪】の力を与え賜え――」


 俺とミュータスさんの詠唱の終わりはほぼ同時だ。

 聖剣が振り下ろされる。

 俺は聖剣の前に立っていた。


 金属と金属がぶつかり合う音が玉座の間に鳴り響く。

 アリシアの三日月型の片手剣を両手で握り、俺は聖剣を受け止めていた。





「ユーマァァァー! お前は今、何をしたぁぁぁー!?」




 

 ミュータスさんは光を失ったただの(・・・)長剣で俺をなぎ払う。

 俺の手から離れた片手剣をアリシアが掴み、ミュータスさんに斬りかかる。

 それを長剣で応じ、互いに間合いをとった。


 倒れた衝撃で意識が朦朧としていた俺を中心に、ジリジリと円を描いていく二人。


 どちらからともなく間合いを詰めに行くその瞬間――

 

「リーダー! 援軍の数が半端ない程に増えて来ましたぜ!」

「そろそろ潮時です!」


 巨漢ジャンと小太り体型のリック、そしてホルスが駆け寄ってきた。


「そうか、なら仕方がない。本陣に戻るぞ!」


 ミュータスさんは懐から大きなガラスのような物を取り出し、床に叩き付ける。

 それは細かく砕け、破片から一気に光が放出され――


 彼らの姿は跡形もなく消えていた。





 しばらく沈黙の時間が流れ、少しずつ魔王軍の兵士が祭壇に集まってくる。


 ある者は足を失い、槍を杖の代わりにして。またある者は仲間の兵士に両脇を抱えられて。全身に深傷を負い、茫然自失となっている者もいる。


 息絶えた兵士の死体を掻き分けて、続々と玉座の間へ兵士達が入ってくる。


 魔王軍の中心に一人残された俺は――


 『―EMPTY―』 


 視界に浮かんでは消えていく白い文字を見ていた。

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