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第54話 口づけ


「なに?」


 タロス兄貴はアリシアを見下ろし、眉根を上げた。


「アタシはルルシェ様から全てを聞いたわ。ユーマは……あんたの仲間の魔力を吸い取る力を『剥奪』して自分のものにした。でも、ユーマは……他人の魔力を吸い取ることを拒んだ。そして自らの生命の源を魔力に変えて戦ったの……」


「なるほど……その結果がこれか。甘いな。出来損ないの考えそうなことだ」


「そうかもしれない。戦士としてはどうしようもなくダメダメな選択……。でも……アタシは好き。こんなに弱くても仲間のために……魔族のために……アタシのために戦って、自らの命を簡単に投げ出そうとする、そんな弱くて弱くて弱くて、どうしようもないユーマが大、大、大、大好き――」


 アリシアは俺に抱きついた。


「だから、お願いだから、アタシの生命の源を受けとってよ! ユーマ!」


「フォクスのも受けとってください、お願いです、ユーマさま……」


 フォクスも俺の背中から抱きついた。

 そこへカリンがふらつきながら戻ってきて、


「カリンの生命の源も差し上げます、好きなだけ吸い取ってください!」

「拙者のも使ってくれ。ユーマ殿は……魔族の救世主ゆえに……死ぬことは許さないのでござる」


 カルバスが負傷した脇腹を押さえながら、膝をついて男泣きをしている。


 タロス兄貴が見上げる。

 俺と目が合った――ような気がした。

 俺は一瞬戸惑ったが、兄貴の顔は無表情。

 彼はただ夜空を見上げただけなのだろう。

 

『どうじゃユーマよ。これでもおまえは死を選ぶか?』


 悪魔の声。

 ルルシェは俺の魂とも直接会話すことができるのか。


『我は悪魔じゃ! 死者とも話ができるが……おまえはまだ死んでおらんぞ』


 死んでいない?

 だって……魂が体から抜けているし……


『気のせいじゃ馬鹿者! しかし、生命の源が1パーセントを切っておる。もう一刻の猶予もない。この子らのエネルギーを吸い取って生きろ!』 


 ……俺はアリシアの命を削ってまで生きたくはない。

 それでは魔導士部隊の隊長と同じになってしまう。


『かぁー、相変わらずおまえは頭が硬すぎるのじゃ! まあ、そんなところが我も気に入ったのだがな。いいかよく聞け! おまえがあの子を想う気持ちと同じく、あの子はおまえを想っておるのじゃ。自分の命を賭けてでもおまえを……ユーマを助けたいと思っておるのじゃ! その気持ちも理解できないほどおまえは馬鹿者なのか? そんな分からず屋は本当に死んじゃえ――ッ』




 ルルシェの叫び声が耳に響いた。

 その残響が俺の頭の中に何度も何度も浮かんできた。 




 錯覚ではない。

 指が……ぴくりと動く。

 全身の感覚が少しずつ戻ってきている。


 俺は――

 生きていて良いのか?


 仲間の生体エネルギーを吸収して――

 生き延びて良いのか?


 その時、唇に何かが触れた。

 暖かくてやわらかい、そして甘美な味わいのある……


 心地よい感触。 


 ずっとこのままでいたい。

 そう心の底から願った。


 ゆっくり目を開けると、アリシアの顔がぼやけて見えた。

 かたく瞑った彼女の左目のまつげが、俺の眉毛に触れてぴくりと振動した。

 

 俺は思いっきり彼女を抱きしめる。

 

「うっ!?」


 アリシアは驚いて唇を離そうとしたが、俺はそれを追いかけて再び唇を重ねる。

 しばらく抵抗しようとしていた彼女の肩から力が抜けていくのが分かる。


 しばらくしてから、アリシアの方から離れた。

 ゼーゼー、ハーハーと苦しそう。

 顔も真っ赤だ。

 キスの時に息を止めていたのだろう。

 

「ユ、ユーマが強情だからアタシが強制的に生命力を注ぎ込んであげたんだからねッ。た、ただそれだけだからッ」


「そ、そうか。うん。分かっている」


 アリシアにキスをされたと思って俺は舞い上がってしまっていたが、そういうことだったんだな。思い返せば、たしかにそんな感じがした。


「口伝えに生体エネルギーを受け渡しなんて話、聞いたことないのです……」


「カリン、この2人は照れ隠しの為に言っているに過ぎないのでござるよ。察してやるのでござる」


「お兄様こそカリンの気持ちを察してください――うわぁぁぁ……」


 カリンはカルバスの胸を拳で叩きながら大泣きし始めた。

 まるで小さな女の子が親に駄駄をこねているように。


 カルバスは脇腹の怪我を抑えながら苦しそうだ。


 なぜカリンは泣いているのだろう。

 それに吊られるようにフォクスもオイオイと泣き出した。

 女子の考えていることはよく分からないと思った。



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