表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/59

第52話 ユーマのくせに

「あー、分かったから俺にまとわりつくな! それよりもビリーを叩き起こせ!」


「えっ!?」

「よ、よし分かった」


 俺の指示に素直に従うジョンとリッキーはビリーの体を激しく揺り動かす。

 すると、唸り声を上げて目を覚ました。 


 俺は鎖で生成させたドーム型バリアを両手で支えながら、


「魔導士の攻撃が止むと同時にこのバリアを解除する! おまえらはできる限り遠くへ逃げろ! その後のことは知らないからな!」


 そう、俺にはこいつらを助ける義務はない。

 学生時代の最低の思い出と共に、全て無かったものと考えよう。

 俺はそう考えていた。


 それなのに――


「ユーマのくせに生意気なんだよ……おまえ一人にカッコ良いことはさせないぞ」


 何を思ったかビリーは俺に絡んできた。


「僕も戦うぜ。なんたって俺は村で一番の魔法の使い手だからさ!」

「む、無理だって……」

「止めておけよビリー。素直にユーマに任せて逃げようぜ!」

「君たちは逃げるがいいさ。僕は逃げないで戦う!」


 ビリーは強情だ。

 俺とは真逆な性格。

 だから……

 いつも鬱陶しいんだ……


 魔導士の隊長の攻撃が一息ついたその瞬間。


「よし! バリアを解除するぞ、あとは勝手にしろ!」


 俺は宣言した。

 3人は軽く頷き、ごくりと唾を飲む音が聞こえた。

 

 どんな魔法でも呼吸と同じく一瞬の隙ができるものだ。

 俺はこの瞬間を待っていた。


「無駄無駄無駄ぁぁぁー! 吾輩の魔法は一つではなーい!」


 隊長は後ずさりしながら杖を光の剣に変換した。

 接近戦用の魔法に切り替えてきたのだ。


 接近戦なら俺は負けない!

 俺は魔剣ユーマを生成する。


『ユーマ、逃げてー』


 再びハリィの声。

 隊長の紫色の唇の端が吊り上がる。

 彼の体が赤く光り出す。


 俺を油断させるためにわざと隙を作っていたのか!?

 俺はまんまと騙されたのか!


 驚愕する俺の脇を衝撃波がすり抜けていく。


「うおっ?」


 隊長がよろけた。

 衝撃波は隊長の足元をすくうように地面の草をなぎ払っていた。

 

「行けぇぇぇ――、ユーマ――!」


 ビリーの声。

 学年一の魔法の秀才。

 俺の幼馴染みのマーレイに告白してフラれてた経験のあるビリー。

 奴は俺に嫉妬していたんだろう。

 でも、俺もフラれたからもう相子(あいこ)だ!


  

「魔剣ユーマァァァ――ッ!」


 力を入れた両手に魔剣が生成され、俺は斜めに斬りかかる。

 隊長の杖は輝きを増し、魔剣を跳ね返す。

 流れるような動きで杖を持ち替え、隊長は反撃に出る。


 隊長がもつ【魔力吸引】の能力(ちから)がある限り俺に勝機はない。

 

「ユーマ下がって!」


 上空からアリシアの声。

 俺は咄嗟に身を屈める。


 アリシアは回転させながら双剣で斬りかかる。

 その連続攻撃を隊長は易々といなしていくが――


 赤い光の破壊エネルギーが迫ってきた。


「ユーマ殿――」


 カルバスに抱えられて俺はその場を脱出。

 アリシアも寸前のタイミングで離脱。


 アリシアを狙っていた魔導士の攻撃が隊長に命中。

 隊長は杖を頭上でぐるぐる回転させて破壊エネルギーを回避した。


「貴様らどこを狙っているのだ! 吾輩の邪魔をするのではなーい!」


 隊長は怒鳴り散らした。


 しかし――


「うおっ!?」


 彼は体に異変を感じている。

 白いローブの周りから赤い光が放射されている。

 自らローブをめくると光が更に拡散されていく。


「な、なにが起こったのです?」


 カリンの声。

 カリンと行動していたウォルフが俺の手を握ってくる。


「あの苦しみ方は異常でござるな」

「ユーマ、あの人間に何かした?」

「奴の特殊スキル【魔力吸引】を【剥奪】したが……」


 それが関係あるというのか?

 村人はもちろん、敵の魔導士もこの事態に戸惑っているようだ。


『蓄えすぎた魔力がスキルを失って暴走してるのじゃ! すぐに逃げるがいい!』


 ハリィが悪魔ルルシェの声色そのままで俺に語った。

 これはそれほどの緊急事態。


 俺達は逃げても村人はどうなる?

 いや、俺達は魔族。

 関係ない。

 逃げるのが正解。

 なら早いほうがいい。


 しかし……


 本当にそれでいいのか?


 隊長の体から光が放出されて――


『ユーマ、男の身体に溜まっていたエネルギーが一気に噴き出るよー』


「くそっ!」


 俺は隊長に向かって走り出す。

 悪魔ルルシェの悲鳴のような叫び声が頭の中に響き渡っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

↑↑ランキングに参加中。クリックお願いします↑↑

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ