第50話 3人組
魔導士たちが一斉に呪文を唱え始める。
すると、村人を含む彼らの周りに赤いドーム状のバリアが形成される。
カルバス兄妹とフォクスが外へ弾き飛ばされる。
魔導士の詠唱は続く。
しばらくすると、ドームの中にいる村人が苦しみ始める。
膝を付いて頭を抱える者。
胸の前で腕を組んで項垂れる者。
庇い合う夫婦。
泣き叫ぶ子を抱える母親。
老婆が地面に倒れ、老人が上から被さるように自らも倒れる。
「撃てェェェェェェ――――!!」
隊長らしき魔導士の号令で一斉に赤い光の衝撃波が放たれた。
「【鉄壁のドーム】!」
俺とアリシアを包み込む鎖のバリアは、何とか持ちこたえた。
バリアを解くと、周囲は瓦礫の山と化していた。
慣れ親しんだ教会も学校代わりの集会場も、全て吹き飛んでいる。
「くそったれ……」
俺は唇を噛みしめる。
「ターゲットはまだ生きているぞ、第2次攻撃準備!」
隊長らしき魔導士が指示を出す。
「もう止めてくれぇぇぇー……」
「これ以上力を吸い取られると子どもが死んでしまいます」
「どうやら魔力と共に他の何かも吸い取られているようで……」
村人たちが消え入るような声で訴えている。
魔力を……吸い取っている?
奴らは村人から魔力を吸い取って俺達を攻撃しているのか?
「スコット!? あなた、スコットが息をしていないわ!」
「なんということだぁぁぁー……息子が死んでしまったぁぁぁー!」
若い夫婦が小さな身体を抱きしめ泣き叫んでいる。
騒然となる村人たち。
「わしらを戦いに巻き込まないでくれ!」
あれは学校で歴史を教えているピーター爺だ。
ピーター爺は隊長と思わしき小太りの魔導士にすがり付く。
すると隊長は杖でピーター爺を払いのけ、
「今ここで魔王の娘を斃せば我々の勝利は決定的である! それに、忌まわしき魔王の娘が立ち寄ったこの村は既に汚染されているのだ。貴様ら村人はその身を捧げ我が王国の発展の礎となるのだ。光栄なことだろうがぁぁぁ――!」
杖をずんと地面に突き刺した。
「わしらの村が汚染されているじゃと……!?」
ピーター爺は唖然とした顔で言った。
「ふざけるな! 僕らの村は汚染などされていないぞ!」
「そうだ、俺たちを田舎者だからって馬鹿にするな!」
「王立魔導士部隊は俺たち民間人を守る義務があるんだろ?」
ピーター爺を庇って前に出る3人の若者。
朝出会ったあの3人組だ。
奴らも集団の中にいたのか!
背の高いビリー。彼は学校一の魔法の素質があったにも関わらず農家を継ぐからと進学を断った変わり者。
ひょろっとした男はジョン。動物好きで俺とは話が合ったが、3人組でいるときは俺を小馬鹿にしてくる嫌な奴。
小柄なリッキーはマリーンが進学した王都高校の適性試験に落ちて家業の果樹園を継ぐことになった気の毒な奴。
「ふふん、我が王立魔導士部隊は国王による国王のための部隊であーる! 貴様ら村人の命など知ったことかッ」
隊長はリッキーに唾を吐いた。
「ふ、ふざけるなぁぁぁ――!」
リッキーが隊長に食ってかかろうとしたその時――
3人の体が空中に浮いていく。
「な、なにをするつもりだ!?」
3人は手足をばたつかせて暴れるが宙に浮いた体はどうにもならない。
「国王の意志に背いたこの者たちは死をもって償ってもらおう。我が能力は生体エネルギーをも魔力に変換することができるのだ。ガハハハハ……」
高笑いしながら隊長は杖を宙に浮く3人に向ける。
「ぐわぁぁぁ……」
3人は苦しみ始めると同時に、隊長のローブがゆらゆらと揺れていく。