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第49話 人間の盾

 星がきらめく夜空に舞う、アリシアとその仲間たち。


「ユーマのお母様、すごーく怖かった!」

「俺もビックリした。まさか伝説のエルフ族だったとはな」


 農道の硬く締まった路面に着地し、再びハイジャンプ。

 アリシアの動きに合わせて俺も自分の足で跳躍する。

 ぐいっと腕を引っ張られて空高く舞い上がる。


「でも、ユーマに似て面白い人だったわ! うふふ……」

「どこが似ているんだよ! 俺にはエルフの特徴を何一つ遺伝していないぞ! 性格だって……」


 俺はアリシアを見て言葉を詰まらせた。

 星明かりに照らされた彼女の横顔がとてもきれいに見えたから。

 俺の視線に気付いた彼女が顔を向ける。

 近い。

 顔が近い。

 意識してしまう。


『ユーマ、何考えているのかなー』


 ハリィの声。

 ハリィには俺の思考が筒抜けだった。

これから戦場へ行くというのに……


 再びハイジャンプ。

 俺は気分を変える為に下を見る。

 真っ暗な大地に点在する家々の灯り。

 その一つ一つにそれぞれの家族が暮らしている。

 できることなら、平和なこの村に戦いを持ち込みたくはない。


「異次元の牢獄に監禁されていたときはお兄様のことばかり考えていたのです」

「そ、そうか。寂しい思いをさせてしまったでござるな……」


 俺達の前方にはカルバス兄妹。

 彼らは相変わらず口も身のこなしも軽い。

 アリシアと俺のペアに合わせてジャンプを繰り返している。

 

 俺達の後方にはフォクス。

 体が成長したお陰で、動きも軽やかだ。

 彼女は着地の度に四本足になる。

 フサフサの尻尾でうまくバランスをとっている。

 小さくなったメイド服が引きちぎれそうに見えるのが少し不安だ。


 *****


 カルール村の中心部。


 村のシンボル的な教会の建物を中心に集会場や家々が立ち並ぶ。


 教会と集会場の間には草むら広場があり、普段の日は子ども達の遊び場で、ときには祭りやスポーツ大会の会場にもなっている。


 とはいえ、時刻は深夜。

 普段なら村人は皆寝静まっている時間帯だ。


 それなのに――

 

 多くの村人が広場に集まっている。

 そして、彼らを取り囲むように、白いローブ姿の魔導士が立っていた。


 俺たちはそんな彼らと教会の間に着地した。


「魔族の連中の襲撃か!?」

「この中にターゲットの魔王の娘がいるぞ!」

「どいつが魔王の娘だ?」


 魔導士が騒いでいる。


「ま、まとめてやっちまえ!」


 一人の魔導士の声を合図に10数人の魔導士が一斉に呪文を詠唱し始める。


 冷静に見ればアリシアが魔王の娘であることは一目瞭然のはず。

 しかし、突然現れた俺達に動揺しているのだろう。

 王立魔導士はエリート中のエリート。

 だが、所詮はただの人間だ。


「各個撃破だ!」


「はい!」

「よし!」

「分かりましたです!」 

「ブギャァ!」


 俺の指示に仲間たちが応じ、一気に攻め込んでいく。


「【魔剣ユーマ】ぁぁぁ――!」


 俺の手の中に魔剣が生成され、目の前の魔導士にねらいをつける。

 フードの中の瞳が俺を捉えて、杖の先から赤い衝撃波を発射してくる。

 俺はそれを魔剣で受け流し、斜め上から斬り込んでいく。


 しかし――


 魔導士の背後にマーレイの母親の姿を目撃してしまった。

 その一瞬の躊躇いを見逃さずに魔導士は衝撃波を発射。


「ぐはっ――ッ」


 俺は教会前の立木に背中から激突した。

 衝撃波を受けた腹と背中に激痛が走る。


 魔導士は詠唱を完成させ、杖を向けてきた。


「【鎖創造】!」


 同時に俺は右手を魔導士に向ける。

 指の先から鎖が飛び出していき――


「エルフのバリアァァァ――!」


 魔導士の放つ真っ赤な光の破壊エネルギーをバリアで防ぐ。

 俺の鎖は魔導士の体に絡みつき、締め付けていく。

 

 フォクスは四本足の素早い動きで魔導士を翻弄している。

 口から炎を噴き出すが、それは魔法によってはじき返されていた。 

 

 カルバス兄妹はカリンの華麗な跳躍とカルバスの地を這うような動きで多くの魔導士を翻弄している。既に幾人かの魔導士をその剣で斃したようだ。


 一方、アリシアは――


「ユーマ大丈夫なの? 一人で立てる?」


 俺を目の前に着地して声をかけてきた。本当なら俺が彼女を助けなければいけないのに……俺はいつまでたっても守られる立場だ。


「大丈夫だ。問題ない」


 俺は痛みを堪えて立ち上がる。

 もう足手まといにはなりたくないから。


「そう、じゃあ一気に戦いを終わらせましょうね!」

「そうだな」


 俺は再び魔剣を手にする。

 俺はもう魔族の仲間になったんだ。

 奴らが村人を盾にしようが無駄だ。

 ここにいる人間を全て殲滅したとしても――



 関係が……ない……のか……


 

 その時、俺はとんでもない思い違いをしていたことに気付いた。


「あの魔族の女がターゲットに違いないぞ!」


 一人の魔導士がアリシアを指さす。

 一斉に魔導士たちの視線が俺達に向けられた。

 


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