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第4話 魔王城突入!

 ここは俺が最初に立っていた石畳の上。目の前にそびえ立つ古城が怪しげに見えたのは、そこが悪名高き魔王城だったのだから当たり前の話だ。俺は大いに納得した。

 それにしてもこの世界の天使も意地悪なことをするものだ。何の説明もなしに俺を敵の本拠地に無理矢理送り込むんだから……。

 しかし、よくよく考えると、こうしてミュータスさんに出会い、魔王城へ突入する場面に合流できることはとても光栄なことだ。


 やはり、天使様に感謝申し上げます!


「リック、ドアをぶち破るぞ!」

「ほいきた!」


 巨漢のジャンが、小太りリックと2人で丸太を抱え、魔王城の扉を激しい音を立てて突き破った。


「ホルス、閃光玉を頼む! みんな目をつぶれ!」


 ミュータスさんの指示で、眼鏡の中年男ホルスが壊れた扉の隙間からボールのような物を投げ入れる。


 激しい閃光とともに破裂音が鳴り響く。


「よーし、みんな突撃するぞー!」


 ミュータスさんの号令で4人が城の中に突入する。

 俺も後ろからついて行く。


 外の明るさに比べて城の中は薄暗く、目を慣らすのに苦労する。

 俺があたふたしているうちに、戦闘はすでに始まっていた。


 巨大なホールに陣形をとって構えていた魔王軍の兵士たちは、ミュータスさん達の活躍で次々に倒されていく。魔王軍の兵士は黒色の鎧を身につけてはいるが、それをいとも簡単に男達の剣が貫き、引き裂いていく。


 血しぶきが飛び散り凄惨な光景なのに、死んでいく相手が魔族というだけで俺は冷静な傍観者と化していた。


「リーダー、こいつら次から次へと湧いて出てきやがるぜぇー!」

「よし、タイミングを見計らって先へ進むぞ! ユーマ、私の後に付いて来るんだ!」

「あっ、はい!」


 俺はミュータスさんの後を必死に付いていく。


 城の通路は奥に行くほど狭くて、先導するミュータスさんが剣を振り回していると、その脇を抜けるのがためらわれるぐらいの幅しかない。


 ミュータスさんのすぐ脇には小太り体型のリックがサポート役。その後ろを大きなリュックサックを担いだホルスと俺が付いていく。俺らの背後で乱暴な巨漢ジャンが追撃してくる魔王軍の兵士を切り捨てていく。


 前を行くミュータスさんとリックが倒した魔族の兵隊を踏まないように注意しながら、俺は懸命に走る。もし俺が転んだら、後ろにいる巨漢のジャンは容赦なく俺を見捨てて行ってしまうに違いない。


 しばらく進むと、前方に一際大きな扉が見える。


 扉の前には他の兵隊よりも一回り大きくて強うそうな、どう猛な牛のような顔をした門番が2体、槍を持って立っている。


 俺らの姿を確認した彼らは、槍を構えて、


『ブモォォォォォォー!』


 うなり声を上げて威嚇してきた。


 ミュータスさんは足を止め、短剣を鞘に収める。そして、聖剣を手に取った。


「あの扉の先に魔王がいる! さあユーキ、見ていてくれ。これが私のスキル【聖剣ミュータスを扱う力】だ!」


 次の瞬間、聖剣を横になぎ払うような動きを見せる。すると、2体の門番は断末魔を上げ身体が腰から真っ二つに分離し、その背後の頑丈そうな鉄扉まで破壊した。


 凄まじい破壊力。


 乱暴な巨漢が真っ二つになった鉄扉の残骸に体当たりし中に突入する。続いて俺らも部屋の中に侵入する。


 魔王がいるという部屋の中は、巨大な空間が広がっていた。


 目の前には幅の広い階段があり、上を見上げると部屋のずっと置に巨大な玉座の上端がぎりぎり見えている。


 玉座の真上からは柔らかな外からの光が降り注いでいる。魔王城の4つの塔の内の1つが、ちょうどその真上にあるようだ。おそらく、塔の先端にある採光用の窓から光が乱反射して届いているのだろう。


「リック、キミはここで追っ手を防いでいてくれ! 1人でやれるか?」


 ミュータスさんが小太り体型のリックに声をかけた。


「これだけ入口を狭くしておけば一匹ずつ退治できるから大丈夫だろうよ!」


 リックが扉の残骸を入口に立てて、短剣とナイフを腰に差し、指をポキポキ鳴らしながら答えた。


「では頼んだぞ! 他の者は私に続け、行くぞ!」

「おおう!」


 ミュータスさんのかけ声で、俺らは祭壇への階段を駆け上がる。


 階段を上がるにつれ、玉座に座る魔王の全貌が明らかになっていく。魔王の身長はおそらく4メートルぐらい。焦げ茶色の顔には深いしわが刻まれ、頭部からは2本の曲った角が生えている。魔族の王と呼ぶに相応しい重厚感のある黒い鎧を身につけて、俺らを鋭い赤い眼光の目で睨んでいる。


 間もなく階段を上りきるというところで、先頭を行くミュータスさんと巨漢のジャンが立ち止まる。俺とメガネの中年男ホルスは最後の数段をゆっくりと様子を覗いながら上っていく。


「とうとう人間がここまで来てしまったのね。でも魔王はいま病気なの。今日のところは帰ってもらえないかしら?」


 女の子の声がする。

 声が乱反射して、声の主がどこにいるのか分からない。

 俺らはきょろきょろ周囲を見回した。

 すると、俺らのすぐ脇の丸い柱の陰から、1人の少女が姿を現した。


「誰だお前は!?」


 ミュータスさんが問う。


「アタシは魔王の娘、アリシアよ」

「魔王の……娘……だと!?」


 アリシアと名乗った少女は、人間の年齢にすると俺と同じ15歳ぐらい……しかし魔族に人間の年齢は当てはまらない。銀色に輝く長い髪を左右に分けて後ろに巻き上げ、銀色の髪飾りでまとめている。魔王軍には珍しく派手な桃色の甲冑の下はカーキ色のロングスカートを身に纏い、なぜか両手を後ろに回している。


「私たちに帰れとは、一体どういう了見なんだ? 私たちの目的は魔王の討伐! その相手が病気となれば、これは好機と見るしかないのだが?」


 ミュータスさんはそう言い切った。


 いや、彼女が嘘を吐いている可能性もある。

 俺はそっと魔王に向けて【鑑定】スキルを発動した。


 ―――――― 

[名称]魔王

[種族]魔人

[職業]魔導士

[状態]病気

[攻撃力]剣:S 槍:S 弓:S

[魔法]黒魔法:【闇】【毒】【火】… 白魔法:【回復】【修復】…

[魔力量] 6/9999

[耐久力]耐物理:A 耐魔法:A

[スキル]【魔王の怒り】【娘への愛】

 ――――――


 ――本当に病気だった。しかも魔導士なのに使える魔力が極端に少なそう。


 魔王の娘アリシアは二重まぶたの目を横に流し、ふっと息を吐いた。彼女がもし、人間の女の子だったら。もしも魔族側の存在ではなかったとしたら、俺はもっと別の感情が生まれていただろう。


 長いまつげが艶めかしい程に女の子らしさを強調している。


 しかし、彼女は忌むべき存在、魔王の娘だ。

 俺は彼女を睨みつける。

 彼女は人間ではない、抹殺すべき魔族――


 アリシアはキッとミュータスさんを睨み、口を開ける。


「――――ッ!」


 そこで動きが止まった。

 ぱっちりと開かれた大きな瞳は……

 ミュータスさんの後ろにいる俺に向けられていた。


「な……んで……あなたが……そっち側に?」


 魔王の娘アリシアは、まるで片言の外国人のように俺に向かって話しかけてきた。

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