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第28話 師匠と弟子

「くそったれがァー、テメエら早く馬車から降りろ! 馬車はオレ様がもらい受けるからよォー!」


 男は御者台に乗り込み、手綱を握ろうとする。

 俺は男の腕を引っ張る。

 男は抵抗し、俺の胸と顔を蹴ってきたが、その足を掴み引きずり下ろした。


「ユーマ、あの声は魔獣サイエーナ。人間によって傷を負わされてかなり凶暴になっているわ! 逃げるの? 戦うの?」


 馬車の荷台からアリシアがいつものように俺に問いかけてきた。

 しかし、俺の思考を遮るように男が――  


「馬鹿かテメエらは!? 逃げる以外の選択肢などあるわけねェーだろがァー!」


 男はそう叫び、俺の体を突き飛ばし、御者台へ向かう。


 アリシア、カリン、フォクスがやれやれというような表情で馬車から降りてきた。カルバスから何らかの合図があったようだ。俺の手を出すなという指示に渋々従ってくれているのだ。


 御者台に乗り込み、手綱を引こうとした男に――


「もう止めてくれ師匠ぉぉぉ――――!!」


 ニットが飛びついた。


「なっ……ニット、何をやっているんだ! 分かった、もう時間がねェ。オマエも一緒に連れて行ってやるから大人しく乗っていやがれ!」


「駄目だ! これはニイちゃんたちの馬車だ! オレっち達は魔獣をやっつけて町を守るんだ!」


 ニットは小さな体を海老反りになって男もろとも御者台から転げ落ちた。

 

「てめぇ、このクソガキがァァァー!」


 男が立ち上がり、ニットの顔面を蹴ろうとする。それをニットは体を回転させて躱し、地面に両手をついて男の足をカニばさみのように挟んでクルッと捻る。


 男は後ろに倒れ込んだ。

 後頭部を打ち、頭を抱える。

 

 自分に逆らうはずのない『弟子』からの思いがけない反撃に男は逆上した。

 ニットの胸ぐらを掴み、左腕一本で高く持ち上げる。

  

「死ね――」


 男は右拳を強く握りしめ、ニットのこめかみに向かってパンチを繰り出す。

 同時にニットは男のみぞおちを蹴飛ばした。

 両者の攻撃は相打ちとなり、決定打とはならない。


 男は胸を押さえて前屈みになる。

 地面に転げ落ちたニットは素早く身を起こし――


「やあァァァ――ッ!」


 回し蹴りが立ち上がり際の男の顔面にヒットした。


 


 朝から酒を飲み、貧しい子ども達を利用して搾取する生活を続けていた元勇者。一方、男のでたらめな任務と言えども毎日鍛錬を続けていたニット。両者の戦闘力はすでに逆転していたのだ。


「ニット……テメエ……調子に乗ってんじゃねえぞ……」


 男は口から流れ出る血をシャツの袖で拭き、左手を空に向かって突き上げる。


「この能力ちからだけは使いたくはなかったのだがなァー」


 目を血走らせて男は言った。

 そう。

 男は『召喚されし者』だけが使える能力ちからを使おうとしている。

 

「これを人間相手に使うことは本来あり得ないことだがなァー、テメエらまとめて跡形もなく消え去りやがれ」


 男は魔獣相手ではなく、俺たちに能力を使おうとしている。彼は完全に自暴自棄になっているわけだ。




 その時―― 




「くそっ! ニイちゃんたち逃げてくれ! ここはオレっちが食い止めるからぁぁぁー!」


 キットは男の腕にしがみついた。

 命がけで俺達が逃げる時間を作ろうとしている。


「無駄無駄無駄ァァァ――! この力はもう誰にも止められやしないのだァァァ――!」


「逃げてくれぇぇぇー!」




 しかし…… 俺は動かない。




「……ん? あれ……?」


 男は何度も天に向けて手を突き上げるが無駄な行為だ。

 俺は既に【剥奪】スキルを発動して男から【雷神召喚】を奪い取っている。


 その力は男にとって最後の心の砦だったのだろう。彼は膝から崩れ落ち、両手をついて項垂れた。

 男の様子を呆然と見下ろすニット――



 次の瞬間、丘の上から巨大な魔獣の姿が現れた。



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